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大賢者の用心棒〜部隊を離反して無職になった元傭兵、怨霊と呼ばれた女の護衛になる〜  作者: 竜ノ塚


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17話 鍛冶屋

 ギルドを出た二人は、大通りから一本入った閑静な通りに来ていた。


「大体相場は分かりましたけど、満足出来ませんか」

「今ある金の最大限ではないな」


 何軒か店を回ったが、決め手に欠ける。

 ならばと通りを変えた矢先、怒号が響いて来た。


「こんな値段払えるかっ! ぼったくりが!」


 重装備の冒険者が歩き去っていく背中を、店先に出てきた地人の視線が追いかける。

 だが、僅かに溜息を落とすと、また店内へ戻っていった。

 一連を見ていたルナが、ヴィオを見上げる。


「やっぱり、大手の方がいいんですかね」

「場合によるな」


 住宅が目立つ、入り組んだ地形。

 その隅にひっそりと看板を掲げていたのは、鍛冶屋だった。

 古ぼけた観音扉の脇、硝子張りの陳列棚に装備が並んでいる。


「百万……!」


 どれも簡素な造りだが、値札を見たルナが喉を鳴らす。

 しかし、翠の双眸は装備を隈なく値踏みしていた。


「高いが……安いかもしれん」


 強気な値段が示す誇りか、微かに聞こえる小気味良い槌の音のせいか。

 観音扉の奥へ、自然と顔が向けられる。

 その姿を横目に見たルナから、静かに笑みが溢れた。


「それじゃあ、ここも見てみますか」

「あぁ」


 店内に入ると、先程の地人がカウンターの隅に腰を下ろしていた。


「らっしゃい」


 低く、野太い声。

 顔に刻まれた傷、強靭な体躯、左腕に嵌められた精巧な義手。

 土色の長髪を後ろに流したその風貌は、歴戦の勇姿を思わせた。


「……やっぱり、高いですね」


 壁に掛けられた飾り気のない大剣。

 二百万と書かれた値札を見たルナから、引き攣った声が落ちる。

 だが、ヴィオは直ぐに手に取り、二度三度振った。

 手に馴染む感触、空気を裂く音、残心に乗る適度な重み。

 ヴィオは大剣を戻し、小さく頷いた。


「いい剣だ」

「綺麗な音でしたね」

「……すっごい繊細な振りするのねぇ」


 突然聞こえてきた、低く()()()()()

 ルナがカウンターの方を見やるが、いるのは地人ただ一人。

 金と銀の双眸から逸らすように、顔を伏せて髭を撫で付ける。

 ルナは小首を傾げたが、今度は鎧を触るヴィオに視線を戻した。


「う……二百二十万……」

「仕組みが分からん。硬いのに、柔い」

「どういう意味です?」

「見てろ」


 ヴィオは持っている肩当てに指を押し込んだ。

 鈍色の曲面が指の跡に凹むが、直ぐに元に戻っていく。


「こんな鎧あるんですね」

「初見だ。素材も加工もな」


 肩当てを掴んだまま、ヴィオはカウンターへ向かう。


「これの製作者に会いたい」

「あら――ゔぅん! いい目利きだが、作った奴はもういない」


 瞬間、ヴィオとルナは互いの顔を見合わせた。

 一拍の静寂、そして。


「変える必要はない」「普通に話されては如何ですか?」


 同時に繰り出された一言に、地人は動揺を隠しきれなかった。

 ごくりと生唾を飲み込み、恐る恐る二人を見つめる。


「……変だと、思わないの?」


「別に」「思いません」


 息のあった追撃に、地人から思わず笑みが溢れた。


「可笑しな人達……やだ、お客様に何て事を! ごめんなさいね」


 本音が漏れ出た事に焦り、地人は慌てて頭を下げる。

 が、眼前の二人は何も変わらなかった。


「問題ない」

「私、ルナと言います。こちらはヴィオさん。お名前聞いてもいいですか?」

「ホント、可笑しな人達……アタシはカーコム。ようこそ、【カトレアの槌】へ」


 カーコムが今度は穏やかにお辞儀を見せる。

 ルナも綺麗に返すが、ヴィオはいつものように淡々としていた。


「それで、製作者がいないというのは?」

「あぁ、それは姉の作品なの。数年前に病気でね……ご用件は何かしら?」

「武器の手入れと、二人の装備を新調したい。()()()()()に話をつけてくれ」

「……なんで今も鍛治士がいると?」

「外に陳列してあるものは、造られてからそう日が経っていない。それに、お前からは匂いがしない」


 淡々と述べられる言葉に、カーコムの眉が僅かに上がる。


「煤とか鉄ですね。奥からずっと叩く音が響いてますし」


 二人の答えが、カーコムの口角を上げさせた。

 匂いも、音も極々僅かなもので、普通は拾えるものではない。

 堪えきれない興奮を飲み込むように、カーコムが頷いた。


「本当に良い目をしてるわ。ちょっとアンディー! こっち来て頂戴!」


 奥に呼び掛けると、響いてきた足音がカウンターのすぐ後ろで止まった。


「何……今忙しい」


 気怠げな声を出したのは、色白の華奢な人族の女。

 肩口で切りっぱなしになった、所々明後日の方向へ跳ねている金髪。

 巨大なツナギの上半身を腰に巻き、肩には大きな槌を担いでいた。


「アンディ! またそんな袖なしの肌着着て……火傷するって何度も言ってるでしょ」

「大丈夫だって……用件」


 カーコムの小言を躱しながら、革の手袋越しに鼻先を拭う。

 可憐な顔にまた一つ、煤汚れが付いた。

 しかし、本人は気にする素振りを見せず、橙色の視線が二人の客に向けられる。


「私はルナ、こちらはヴィオさんです」

「……アンドレア」


 黒革を重ねた重装の巨躯と、その隣で微笑みを浮かべる軽装の女。

 どちらもそれなりに値の張るものだが、アンドレアが特に気になったのは背中にある武器だった。


「ちょっといい……それ」


 アンドレアが壁際の大きな台座を指差すと、ヴィオも静かに頷いた。

 巨刃剣を背から外し、台座に乗せる。

 金属が沈むような深い音が鳴った直後、巨刃剣が僅かに宙に浮かぶ。

 手袋を脱ぎ捨て、剣の腹に指先を滑らせると、橙色の双眸に光が灯った。


「硬い、鋭い……魔素は、ない……何これ……見た事ない」


 重量は規格外。

 最硬質としなやかさが、完璧に同居していた。


(だから、折れない。分かれても、欠けない、壊れない……今までは)


 目を這わせ、角度を変え、感触を確かめる。

 一通り観察した後、アンドレアはヴィオに向き直った。


「手入れは、されてる……素人にしては」

「そうか」

「でも、この剣は……壊れる。必ず」


 ルナが横を見上げるが、ヴィオは特に気にしている様子はなかった。


「だから来た」


 武器帯から金の袋を外し、カウンターに置いた。


「ここに百五十万ある。ルナへの装備に百万、俺の装備に五十万」

「え、私の方が高いんですね?」

「それと」


 ヴィオが二つ目の袋を置いた。


「ここに金貨が幾らか入っている。大体一枚で十万にはなるそうだ。これで剣の手入れと加工を頼む」

「金よりも、素材……この剣は特殊だから、やるとしたら打ち直しになる」

「素材、か」


 その時、ルナが手を叩いた。

 ヴィオを見上げ、眉を上下させて笑みを浮かべる。


「私のリュックを開けてみてください」


 言われた通りにすると、中から大きな紫色の鱗が出て来た。


「持ってたのか」

「何かの役に立つかと思いまして。拝借しておきました」


 中々どうして、したたかだ。

 ルナから鱗を受け取ったアンドレアは、満足気に頷く。


「大海蛇の鱗なら、いける――魔法を斬れる」

20時にもう1話更新です。

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