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大賢者の用心棒〜部隊を離反して無職になった元傭兵、怨霊と呼ばれた女の護衛になる〜  作者: 竜ノ塚


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15話 宝石の価値

 それからの道中、文明の気配は進むほど濃くなっていった。

 明らかに踏み鳴らされた林道から街道へ移り、北上していく。

 途中、石材で造られた謎の台座を見たり、遠目に人らしき集団を見つけたり。

 小高い丘に着いた頃には、眼下に都市が広がっていた。


「ヴィオさん、遂に来ましたね」

「……あぁ」


 広大な山を背に、乳白色に染まる段々の街並み。

 潤沢な活気に溢れた様相は、そこだけ見れば素晴らしい風景。

 だが、都市に入った二人には、一拍の呼吸が必要だった。


「……記述通りです」

「これが新大陸か……」


 ごく自然に武装している者の数の多さ。

 何より、その()()()


「獣人、森人(エルフ)地人(ドワーフ)小人(ミルム)……人間も、全員魔素があります」


 多様な風貌に流れる同じものを感じ取り、ルナの口角が僅かに上がった。


「私と同じなんですね」

「あぁ」

「でも」


 純白のリボンで纏められた漆黒の一房を揺らし、ルナが横を見上げた。


「心配いりませんよ。魔素がないヴィオさんを、このお姉さんが一人にはしませ――」

「黒禍にも角持ちや、耳長はいたが……新大陸(こちら)が系譜なのかもしれん」

「……話聞いてますかー。今結構いい事言おうとしましたよー」


 ルナが左右に手を振って注目を集めようとするが、翠の双眸は周囲に向けられていた。

 店先、買い物客、武装した者、多種族様々。

 喧騒の声を聴き分ける。


「俺達と同じ言語だ」

「……そう言えば、私が読んだ本では、ヴィオさん達の言葉は共通言語と書いてあったような……」


 尻すぼみに小さくなっていく声音に、ヴィオの視線がゆっくりと下がる。

 ルナの口元が気まずさに緩み、対外用の笑顔が貼り付けられた。

 もっと早く言え、と注意される前に防衛に出るが、ヴィオの思考はそこにはなかった。


「共通、か。大陸間で通じるならば、歴史の中で交わりがあったのかもな」

「あっ、それもそうですね。嘗ては……一つの大陸だった、とか?」

「さぁな。何にせよ、意思疎通の心配はなくなった。それに、新大陸(ここ)に来た意味も強くなった」

「もし、そうなら……私達の仮説に信憑性が生まれましたね」

「そう言う事だ」


 大陸間に繋がりがあったとするならば。

 恩寵では消せない呪いを、魔法で消せるかも知れない。

 その可能性が、僅かだが現実味を帯びる。

 二人の視線が交わり、互いに頷いた。


「それでは、これからどうします?」

「先ずは、宝石の換金に行く」


 今一度、ヴィオの視線が周囲へ走る。

 買い物客が使う通貨は、ヴィオが持つものとは別のものだった。

 更に、装飾品を扱う店も注視した。


(きん)としての価値はあるだろうが、通貨としては使えんだろう。だが、宝飾品なら大差ない筈だ」

「了解です。ではでは、行きましょう」


 腰布を翻し、ルナが歩き出した。

 ()()()()()()()を数えながら、ヴィオも半歩後ろに続く。


(値踏みか)


 都市の大概の者は、首に小さな板をぶら下げている。

 何色もあり、視線の主は大体同じ色をしていた。


(等級だな。相応の力量はあるようだ)


 視線の中に敵意はなく、純粋に測っているような気配。

 国のような統治者がいる訳ではないが、一本の規則に則って暮らしているように見受けられた。


(だが、余所者が来る事も日常のように感じる。()()()()()()という事か)


 その時、裏通りが目に入った。

 幾つか袋を下げた者達が、二つ三つ先の角へ吸い込まれていく。

 ルナに合図を出して裏通りへ入ると、明るさが消え去った。

 薄暗い路地の中、等間隔で置かれた扉の上に質屋の文字を見つけた。


「この店で換金だ」

「え〜、ちょっと怪しくないですか?」

「だからこそだ。大手の店は情報網がしっかりある。これに宝石以上の価値があった場合、面倒だ」


 大商会の情報屋が頭を過ぎる。

 ()()()()()()()()を見つけると、際限なく突っ込んでくる姿勢。

 何度溜息を吐いた事か。


「だが、こういう個人商なら話は別だ。大概、自己の利益にのみ関心を寄せる」

「そういうものですか。では、任せます」


 そう言って宝石を差し出したルナの手を、ヴィオは押し戻した。


「交渉はお前だ」

「えっ、無理です」

「慣れろ。ハッタリをかませ」

「だって、私そんな事した事ないし――」

「お姉さんだろ?」

「うっ……聞いてたんですか」


 苦々しげに眉根を寄せながらも、ルナは折れて覚悟を決めた。

 一度深く息を吸い込み、ゆっくりと吐き出す。

 瞼を閉じて、もう一度。

 その後開かれた金と銀の双眸は、静謐な光を灯していた。


「――では、参ります」


 鈴のような声音は鳴りを潜め、研ぎ澄まされていた。

 リボンを解き、漆黒の長髪が体に掛かるように下ろされる。

 厳かな圧を感じさせる姿に、ヴィオも静かに頷いた。


(十分以上。後は、相手がどう出るかだな)


 扉を開け、こじんまりした暗い店内へ入った。

 灯りは天井から吊るされたもの一つ、壁の棚には薄汚れた商品が陳列してある。

 カウンターの奥には、不機嫌な顔の店主が座っていた。


「……何だ」

「こちらを買い取って頂きたいのです」


 ルナが静かに返すと、店主はフンと鼻を鳴らした。

 宝石を手に取ってまじまじと眺めた後、雑に投げ置く。


「大したもんじゃねぇな。まぁ、おまけして十万エクスってとこだな」

「相場より下では?」


 淀みのない問いに、店主の顔が一瞬強張る。

 だが、大袈裟に首を振り、宝石を指差しながら目を側めた。


「大体、出所も不確かなものを買い取ってやるっつってんだぜ?」

(わたくし)の私物です」

「だーかーらぁ! その証拠がねぇってんだよ! どこの馬の骨とも分からん輩だろうが!」

「どう評価しようと、事実は変わりません」


 店主がどれだけ圧をかけようとも、ルナの薄い笑みは崩れない。

 ヴィオは感心しながら、後ろで見守った。

 外套の下で、()()()()金貨を指で転がしながら。


「正規の、とまでは言いません。納得の出来る金額を提示して頂けませんか」

「ちっ!……分かった分かった、二十万エクスだ! これ以上は一エクスたりとも出さねぇぞ!」

「それは随分、過小ではないですか?」

「ふんっ、どうせ後ろのデカブツでも使ったんだろ! どうしようもねぇ盗人のゴロツキを抱えやがって――かっ……!」


 刹那――音が消えた。

 空気が時を止め、店内に振動が走る。


「……今、何と言った」


 喉を押さえる店主は声も出せず、眼前にいる()()から目を離せない。


「ルナ、程々に――」

「無理です」


 有無を言わさない拒絶に、ヴィオは小さく溜息を吐いた。


「……殺すなよ」


 ヴィオはそう言いながら、金貨の()()を変えた。

 瞬間、カウンターにルナの細腕が突き立てられる。

 両の指で表面を削り、店主に迫っていく。


「ヴィオさんが、盗人……ゴロツキ……だと!」

「あ……げぇ……!」

「お前に何が分かる」


 金と銀の双眸は光を失っていた。

 ただ深く、ただ暗く。

 二つの穴が開いてるだけの眼は、四百年を雄弁に物語っていた。

 追われ、蔑まれ、狙われ、疎まれた時間を。


「もう一度 言って みろ!」


 唸り声のような音の波動が、空間を軋ませる。

 その時、大きな掌が漆黒の頭に重なった。


「それぐらいにしておけ」

「……はい」


 ルナの手がカウンターから離れ、音が戻って来た。

 酷く咳き込む店主を見る事なく、ルナは顔を伏せる。


「それで」


 その時――頭に置かれた掌が、数回弾んだ。

 淡々とした声音が、沁み込んでいく。


()()()()の正当な価値は、幾らだ」

「はぁ、はぁ……少々、お待ちを……」


 程なくして。

 膨らんだ巾着を持って、二人が店から出て来た。


「百五十万か。個人にしては、妥当な金額だろう」

「……」


 ルナは答えない。

 自分でもどうしようもないぐらい、頭に血が昇った。

 今も怒りが消えた訳でない。

 ただ、それではいけないとも理解はしている。

 それでも、こんなに簡単に感情が破裂するなんて。


(これじゃあ、命を狙って来た輩と同じ。怨霊と呼ばれて当たり前――あれ?)


 自嘲の色を浮かべていた金と銀の双眸に、大きな握り拳が映った。

 思わず顔が上がる。


「……ヴィオ、さん?」

「質屋にも、街にも。ハッタリをかましたな」

「……はい」


 自分ではどうしようもないぐらい。

 たった一声が、心を弾ませる。

 ルナは僅かに笑みを浮かべ、拳を合わせた。


「さて、これで装備は整えられるだろう。次は、職だが」

「……そうですね。私達に最適な職は一つしかありません――ギルドへ向かいます」

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