違法伐採
グライダーで担当区を回れば、たいがいは平穏な日常を送っているが、悪者は必ずいるらしい。tokunoタウンで、妙な形で停まるソーラーカーを見つける。広場は桜などが植えられて、公園の役目もする。
「ちょっと近すぎないかな」
桜の木らしいのに横づけしているトラック仕様のソーラーカー。久美は早速近づき、上空へグライダーをホバリングさせる。
「ディッソゥダ」
AI操作モニターへ告げると、座席が降下して行く。視界を遮る物がない自然界は遠くの山並みと平野。風が地上より強く吹き、ポニーテールをたなびかせる。
着地するとはっきりと見える。4人の男が桜の枝を幹の元から切って、ソーラーカーへ積み込んでいる。
着地した座席から立ち上がる久美は、フレアスカートを翻して外へ飛び出し、ソーラーカーへ近づく。
久美が近づくと、4人の男は視線を向けて、集まる。責任者らしいのが一歩前に出る。
「どこの小娘だ」
訝し気に見る。久美は適切な言葉を探せないし、ちゃんと本人たちから聞きたい。
「あの。どうしたの」
ニコニコ笑顔で尋ねる。惑星管理局員の威厳がないし、相手は警戒もしない。
「見れば分かるだろう」
顔を突き出し、大きな目の球で睨む。ほかの3人も興味あるように久美を取り囲む。
「可愛がってやろうか」などと卑しい笑い方。
「タウン管理の植物だけれど。雑草じゃダメなの」
久美は、あまり周りを気にしない。広場の木は伐採が禁止されている植物だと言いたい。
「マサキ議会長が買い取ってくれるんだ」
責任者は久美の服に気づいたように、ホバリングするグライダーへ一度だけ目をやる。ちょっと気まずい顔をするが、意味ありげに笑う。
「そうか調査員。高く売れるんだ」
話しながらも、4人で久美を取り囲むようになる。
「雑草を刈れば良いんだよ」
久美は責任者しかみてない。
「マサキ議会長の指示だからな。素直に従った方が身のためだ」
「なんの身のためなの」
首を傾げる久美。こういう脅し文句を聞いたことはない。補助脳でも探せない言葉。
「うるさい。惚けてやがる。こういう」
責任者が拳を作った右手で殴り掛かる。
久美は右手を広げ、横に伸ばし、
「スピン」相手へジャンプして3回転。
「ひょとだ」責任者の言葉と、派手に、ぱんぱんぱん、頬を叩かれる音が同時に響く。
フレアスカートが、ふわり、広がりながら着地する久美。
唖然とする責任者の腕は動かないで拳が震える。
「スマッシュ」久美はすかさず、相手の顎を蹴り上げる。
「ぅぐっ」倒れる責任者。
あとの3人は立ちすくんで動けないらしい。
「顎は大丈夫かしら」
久美は相手へ駆け寄り、顎を調べる。痛いだけ、と判断してリュックサックを胸のほうへまわすと、消炎剤スプレーを吹き付ける。
さすがに抵抗は止めた男たち。
「返すから。文句はマサキ議会長に言ってくれ」
「うんとね。持って行かないと。叱られるよ」
余計なお世話だが、久美の言葉へ男たちも納得する。
「それじゃあ。良いのか」
何か安心したように言う責任者。
「うん。警察へ渡して」
「それはっ。はい、そうします」
持っていく場所が違うと気づいた犯人たちは罪を償うしかない。久美も、あとはタウンの行政機構へ任せる。仕事はただの調査だと考えている。
保安ロボットが近づくと、久美は降下した座席でグライダーへ戻る。
「ほかの場所でもやってるのかなー」
久美はうんざりする。気になると確かめたい性分。また担当地区を回ることになる。 同時多発かもしれないが、別々のグループが同じ目的で同じ時期に行動することはあるかもしれない。
久美がpyupyapyoタウンへ帰るところで、運悪くというか、怪しいソーラーカーを見つける。
「未知留の場所の隣じゃん。どうしてさせるのよ」
興味を持っている未知留に不満を持ってもしかたない。komekoタウンの広場へ降りる。
「何しているの」
久美は座席から降りて声をかける。4人の代表が答える。
「マサキ議会長の指示だ。調査は管轄外だろう」
この男は強気に出たいらしく、ぐいっ、と前に立ちはだかる。
「あの。何をしているのか知りたいの」
この男たちは桜の木を根っこから切っているところだ。
「見て分からないのかい。身体に教えてやろう」
代表が電動ノコギリを振りかざす。
久美は蛸鞭を外して、びゅっ、電動ノコギリを巻き付ける。
「小娘がー」
3人が襲いかかる。
短剣をスカートから取り、立てる久美。
「スピン」1回転。代表が電動ノコギリに引っ張られるように振り回される。
「いぎゃっ」2回転で3人の悲鳴が響く。
3回転まで、あっという間。スカートを広げながら着地。
「スマッシュ」久美が蛸鞭を放す。
代表は遠心力で弾かれながら転がる。
「あらら。大変だね」
久美は、短剣で切られた腕を押さえている男たちへ駆け寄る。
「もう。貸してごらん」
切り傷修復スプレーで3人の傷を手当てする。
「ちゃんと病院へ行くんだよ」
そして代表へ目を向けると、ハニャが足に絡んでいる。
「足を打ったのね」
電動ノコギリが足に当たったらしい。熱いところが好きなハニャーはさっそく見つけたのだ。「身体で教えてくれたのね。ありがとう」
「なにをっ」
皮肉か、と代表は起き上がろうとする。「いっ」痛そうに顔を歪めて腰へ手を当てる。
腰も打ったらしい。たぶん、身体に教える、の意味は違うのだろう。
「痛み止めで良いかな」 久美は手当てをする。リュックサックに緊急用の道具が揃っている。フレアスカートも、軽薄短小の武器がいくつか、襞の内側に収められているのだ。
不法伐採者たちは戦意を無くした表情。そこへ近づく男。
「何事だね」
久美は素直に尋ねる。
「あなたは誰ですか」
男は、なんだ、と当惑した表情。40代で貫禄がある。気を取り直したように喋る。
「私はgomasuriタウン議会長のグレイだ。調査員かな」
「はい。不法伐採をみつけました」
「任せてくれ。私が手続きはしよう」
自慢気に言うと、男たちへ何か囁く。久美は補助脳が、話している口の動きと表情を解析する。そして気づいた。
「ダメだよ。逃すことは」
「聞こえたのか」
グレイの表情が険しくなる。ここで権力と大義名分を持ち出す。
「よし。傷害罪で訴えてやる。調査員も例外ではない」
グライダーから降りるのも、遠くから見ていたらしい。
「最初から見ていたのね」
久美は、この不法伐採を指示していた者がグレイと予想する。
「そうだ。マサキ議会長の命令だからな。私がやらせることは不法でもない」
めちゃくちゃな理屈だが、議会長という立場の証言が、真実として受け入れられる、と都合よく警察にも告げるつもりらしい。
「自分勝手だよね」
思った通りだと、蛸鞭を取ろうとしたが、さっき放り投げたままだ。
「また、短剣を」
グレイの言い終わらない間に、簡易ボイスレコーダーを取り出す。
「使うか。それを使ってるのか」
録音されたと気づいたらしい。グレイも今度は観念した表情。言い過ぎたと気づいたようだ。災害通報機だがボイスレコーダーとしても使える。
「保安ロボットを呼ぼう。今の私の言葉はなかったことにしてくれ」
「わかった。悪者は捕まえたからね」
久美も早く仕事は終わらせたいのが本音。言い逃れるのは上手いのが権力者だし、グレイが逃げるのが分かっている。マサキの翼竜をなんとかしないと収まらないと気づいてもいる。
久美は、ここまで来たなら、と未知留のいる広場へグライダーですぐに到着する。開拓室から離れた場所にクローバーが敷かれるように生える。そこへ着陸させると、近くのプラタナスの木陰にいる人物に気づく。
「未知留。お散歩なの」
「久美ちゃんを待ってたんだよ。また、やらかしたらしいな」
「なにもしてないよ。なんで分かるの」
久美も木陰で一休みしながら話す。
「開拓室同士でSNSのやり取りをしているから」
不法伐採者を退治したことが話題になっているらしい。
「ちょっと。話し合いをしただけ」
「蹴ったり、振り回したり。それは噂か」
未知留は微笑みながら話す。
「そう。噂。たまたまね」
嘘を付くようで、本当のことをいう久美。
「久美ちゃんは働きすぎだよ。たまには、甘いものを食べに行こう」
「あの。そう。その」
久美は緊張してしまう。二人でどこかへ行くことは考えてなかったし、恋愛とかになるか、と臆病にもなる。
「どうした、久美ちゃん」
「なんでもない」
「そうだ、亀がいた」
話そうとしていた話題らしい。
「食べられちゃうよ」
焦る久美。ワニ頭の亀を思いだす。急にデートだと言われても慌てるが、未知留の話はいつも驚きと楽しさを与える。補助脳も恋心に対応してないらしい。
「亀は食べられるかもな。ほら」
未知留は木の根っこの近くで、今も動き回る小さなイシガメ。噛みつきはするだろうが、食べられる、かどうかは疑問。二人の言う意味も違うだろう。
二人がじゃれ合ってるところへ近づく兎車。白髪交じりの髪に、皺の多い男が乗る。
「議会長。どうしたんですか」
未知留は兎車から降りる男へ声をかける。komekoタウン議会長のチョージャだ。
「調査員もいたか。ちょうど良い。隣の広場で不法伐採がまた有った」
「本格的に取り締まりをしましょう」
未知留が管理室で違反者を捕まえることを実行すると話す。久美は、真剣な未知留も恰好良いと思っている。
「調査員の、あの立ち回りは凄かったらしい」
チョージャは久美を見て話す。今さっきのことだろう。
「あの。調査員は一杯いますからね」
久美は未知留の前で、喧嘩のことは話したくない。
「この辺りでは、久美ちゃんだけだが」
未知留は、その話を聞きたいようす。
「もう。知らない」
ここはひとまずグライダーへ戻ろうと歩く。未知留もチョージャと、真面目な話を始める。
(未知留は管理室のまとめ役か)
久美の耳は、話を聞き逃さないようにしている。未知留が中心になり、取り締まりを強化するらしい。それを各地のタウンとも連絡を取り合う作戦もあるようだ。
「甘いものを食べに、か」
グライダーに乗り込むと、未知留の言葉を思いだして嬉しい気持ちにもなる。
(でも、何を話そうかな)
仕事のことばかりではないだろう。あれこれ悩む久美。誰かに聞いてみようと思うけれど、どのように言えば良いのかわからない。
翌日は雨が降り、仕事を無理にしなくても良い。テラスも人が多い。大降りの雨になれば、座っても居られないだろうが、熱さを凌ぐのに良い場所だ。
久美は不法伐採のことも話す。月乃には何か提案もあるらしい。通路を歩きながらいう。
「このタウンも広いから。交流センターが情報も集めやすい」
「なるほど。月乃は色々アニメで書いているよね」
pyupyapyoタウンが舞台のアニメを描いていたし、各地区に違いもあるとと感じている。
「そろそろ、久美の活躍もアニメにするからね」
「なにもしてないよ」
「アミバのことだけで、いくつも別の話を創れる」
久美の体験を、もっとエピソードが有るという形にするわけだ。
「月乃ならできるね」
元々は2次元で生きていた月乃は絵ばかりを描いていた。運動が自己表現の久美は生の生物を身体で表現してみせた。そのような幼年前期の出会いがあったのだ。




