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第十九節 必然の出逢い ⑤

「でも、その前に気になることがあるんだけど……光陰から貰ったという力は、どこからやってきたものなの?」


「『どこからやってきた』?」


 ラウレンティウスが問う。


「他者が持つ能力を自分も得ようとする行為はね、普通なら強い苦しみが伴うものなのよ。自分の身体にとっては『異物』だから、場合によっては拒絶反応が起こって死ぬこともありえる危険な行動なの。たとえ近縁同士であってもね……。だというのに、ユリア・ジークリンデの記憶を見るかぎりだと、アナタたちにそれが起こらなかったみたいじゃない。そういう体質だったということも考えられるけど……でも、魔力が薄まった世界で生まれた人間が、そんな体質を持って生まれてくるのかしら……。魔力を生成できる真人間すら少なくなっている世界だというのに」


 ゼリオスカが言ったとおり、普通であればそれは危険な行為である。ゆえに一般的には敬遠されることだ。

 他者の力を得たことがあったのは、昔のユリアもそうだ。しかし、彼女は立場が立場であったがゆえに他者の力を得る必要があった。拒絶反応なく力を手に入れられたのは体質のおかげである。彼女は体質的に他者の力に馴染みやすく、拒絶反応を起こしにくかったのだ。

 それはテオドルスも同様だったが、そんなふたりであっても、アイオーンの血を飲んだときは体内で何かが暴れたかのような感覚に苦しんだことがあった。なので、ゼリオスカがそれを指摘するのはもっともなことだった。


「たしかに、俺達は現代の魔術師であるはずなのに、まるで元から持っていたものだったかのようにすんなりと身に馴染んだな……。光陰(みつかげ)はそれぞれの体質に合っていたかどうかを知っていたのか──知らなかった場合、光陰(みつかげ)は俺達の命を使っての『賭け』をしたことになる……」


 ラウレンティウスが悩ましげに答える。


「その時が緊急事態で、なおかつそれしか方法がなかったとしても、それぞれが手に入れた力が戦況を変えられるものだったことも含めて、偶然にしては出来すぎている気がするのよ。だから、ワタシはその理由を『過去の時代にやって来た自分自身から抜き取られた能力』だったからじゃないかって思ったの。──ねえ、ミュニケはどう思う? 魔術に一番詳しいのはアナタだけど」


「わたくしは、〈きょうだい〉から受け継がれた情報が、なんらかの魔術によってそれぞれの潜在能力を覚醒させたのではないかと思ったのですが──」


「その可能性もあると思うわ。でも、少なくとも今のミュニケではそんなことできないわよね……? ワタシたちもできないし」


「はい……。魔術を研究していけば、いつかは習得できるかもしれませんが──。どちらにせよ、この問題に関しては、シノ様の子孫にあたる方々の情報はもらっておいたほうがいいと思います。可能性があることはすべてやってしまいましょう」


「情報っつっても、何をあげりゃいいんだ?」


 と、クレイグ。


「血です。ごく少量でかまいません。あとで採血をさせてください」


「んじゃ、光陰から貰う能力についてはこれでなんとかできるとして──えーっと……。あと、未来に帰る前に解決せなアカンことといえば~……聖杯のことはどないすん?」


 アシュリーが問う。


「聖杯については、わたくしが作ります。今は〈黄金の杯〉の欠片がありますから、それに近しい模造品を作ることが可能です」


「りょーかい。ほんなら、あとは……アイオーンのことと、〈黒きもの〉を倒す方法やろかね」


「そうですね……。〈黒きもの〉を倒す方法──現代に潜む〈黒きもの〉の全貌がわからないこともありますが……わたくしが〈黄金の杯〉の模造品として聖杯を作っても、それで〈黒きもの〉を倒せるのかは……──正直、なんとも言い難いですね……。不安が残ります……」


 その後、静寂が流れた。

 しばらくののち、テオドルスが『誰もが忘れていたこと』を言った。


「……アイオーンのことや〈黒きもの〉を倒す方法を考えるのはもちろん必要な時間だと解っているんだが、沈黙が続くだけなのなら少し話を変えさせてくれ。アイオーンとユリアが持っている不老不死のことなんだが、それはこの時代でどうにかできないものなのか?」


 その瞬間、少しの沈黙が訪れ、やがてアシュリーが「──あー……!」と思い出す。


「せや! 不老不死! 最近、めっきり話題に上がらんからすっかり忘れとったわ!」


「いやだ、本当……。私も忘れていたわ」


 ユリアが買い忘れの商品を思い出した主婦のような口ぶりで言うと、「そうなってる当人も忘れてたのかよ!?」とクレイグから盛大なツッコミが入った。ラウレンティウスは何も言わなかったが静かにジト目をユリアに向けている。


「少しは気にしろよ! 老化で死ねねぇんだぞ!?」


「それは、そうなんだけど……」


「まさか『なんだかんだ言って、いつかは死ぬんじゃないかな~』って楽観視してる……? もうちょっと真面目に生きない……?」


 イヴェットからジト目で指摘されると、ユリアは唇を尖らせてこう言った。


「『生真面目すぎるからもっと肩の力を抜け』って言われたから抜いているんだけど……」


「いや、抜きすぎだろ。テオドルスのこと放っとくのかよ」


「いや? 不老不死がどうにもできなかったその時は、オレもユリアの血を飲んで不老不死になるつもりだぞ? 気合いで不老不死に変わってみせる。今だってアイオーンの血を飲んでこうなっているからな! なれないことはない!」


 テオドルスがサラリと自信満々な笑顔で答えると、クレイグは「あー……──いや」と一瞬納得しかけてしまった。


「なんか不老不死になれそうで納得しかけた……」


「っていうか、不老不死って長寿すぎて苦しむものじゃなかったっけ……?」


 イヴェットが訝しげに呟く。ここで、ずっと黙り込んでいたセウェルスがようやく口を開いた。


「……その不老不死は、アイオーンが持っていたものだったな」


「ええ。それがあったおかげで、私たちはこの四人と出逢えたのよ。だから、不老不死そのものが嫌なものだとは思ったことがないのよ。昔のアイオーンは嫌っていたけど、今はあのヒトもわりと受け入れているわ」


「不老不死。記憶喪失。人間の姿でありながら、種族は星霊か……。本当に『純粋な星霊』であるのかが疑わしいものだが──ともあれ、そのうえアイオーンはお前の名付け親でもあったんだったな」


「そうよ。アイオーンは記憶喪失だけど、その名前だけは憶えていて、なんとなく私にこの名前を名付けないといけないと思ったらしいわ」


「……」


 セウェルスはまたも口を閉ざす。そういえば、彼だけはまだ答えを出していない。


「……セウェルスは……ヒノワに行くの?」


「……それを答える前に、アイオーンという存在について話しておくべきだ。アイオーンは──この場にいる誰かが『アイオーンになろう』と思わなければ、存在しえない星霊であることをな」


「誰かが『アイオーンになろう』と思わなければ……?」


 ユリアは当惑する。


「それも、かなり特殊な生まれ方をしなければありえない」


「普通ではありえない星霊だというのなら、どうやって生まれてきたというの?」


「さっき言ったとおり、意図的になるしかないんだ。『不老不死』や『人間の姿をした星霊としての身体』など、地上の世界ではありえないものをこの星から貰う。──星の内界でな」


 またも、ざわめきが起きる。セウェルスはその声に構うことなく話を続ける。


「俺達の『親』にあたる神が星と融合した場所であり、神々のあいだでは玉座と呼ばれたところ──俺達〈きょうだい〉は、その場所を星の内界と呼んでいる。この星が吹き出す魔力は、そこから生まれているんだが……まあ、それは余談だ」


 セウェルスは話をもとに戻す。


「星の内界という場所は、一言でいえば『欲深き者たちの理想郷』だな──なんでも願いが叶うところだ。そんな場所だからこそ、俺達を生み出した神は星の内界に赴き、星と融合した。敵対する〈きょうだい〉達も、普通なら叶わない目的を果たすためにその場所を目指している。だから、その場所へ行くための力を──〈黄金の杯〉を求めていたというわけだ」


 そして、セウェルスは天を見上げる。


「エアルツ。今でも魔力は減少しているのか?」


──いや……。さっきまでは減っていっていたんだけどよ……今は元に戻っていってるな……。でも、だからって魔力が増えてる感じはしてねえぜ。でも……若干、なんか……戦争してるってのに、心が落ち着く感じがするというか……。


 その意思が届くとセウェルスは目を伏せ、顔を元の位置に下げた。

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