第十九節 必然の出逢い ④
「でも……身長は、リュシエンヌのほうが高かったと思うわ」
「たしかに、今のおれは身長が低いです。ですが、皆さんとリュシエンヌが出会う数年前に、おれも時空超越をして現代に降り立っていたら──『身長差がある』という問題は解決できると思います」
育ち盛りの年頃であろうルキウスは、数年後にはリュシエンヌくらいの身長に伸びている可能性があるということだ。それからルキウスは自身の見解を続ける。
「そうすれば、おれたちと姉さんたちが出会ったことは単なる偶然ではなく、必然にすることができると思うんです。おれが遥か未来へ行って、聖杯に時空超越の権能を与えて、皆さんが降り立つ場所と日時を指定する。そのあと姉さんたちがこの時代にやってくる時に、おれがアイオーンに接触すれば──おれたちの出会いは『必然』になるんじゃないかって思うんです。もちろん、いろいろとツッコミどころがある方法だとは思いますけどね。でも、おれは不可能じゃないと思います」
「……できるの……?」
しっかりしているとはいえ、ルキウスはまだ幼い少年である。それでも、ユリアがおずおずと問いかけるとルキウスは微笑んだ。
「実年齢が数年であっても、おれたちは人間や星霊の姿をしている『神の末端』ですから。自分が『神の末端』だと認識しているからこそ、おれは『普通の少年』ではありません。普通ではないからこそ、敵側の〈きょうだい〉も、今を生きる者たちの心を作り替えようという荒唐無稽な方法で世界を救おうとしているんです。今いる者たちの心を『殺し』、悪なる者が二度と生まれないような世界にしようと──」
──な、なあ……みんな……!
刹那、エアルツの慌てた感情が飛んできた。
「どうしたの? エアルツ」
──大気の魔力が、減っていってる……!
その瞬間、ざわめきが起きる。焦りや恐怖の声が上がる。
「減る、って──まさか、チェフェロたちが星の内界に……!?」
──わかんねえ……! 欠片の気配はまだ感じるけど……でも、なんか魔力が減っていってるんだよ……!
「あ……──そうだ!」
そう大声を出したのは、イヴェットだった。
「その現象、ナナオおばあちゃんがメールで送ってくれた新聞記事と同じ!」
イヴェットの言葉を聞いたとき、「あ……!」とアシュリーが反応する。
「すっかり忘れとった……。ヒノワの新聞記事と同じ内容のこと──今、起こっとるやん……!」
そのやり取りでユリアも思い出す。ヒルデブラント王国に帰国してすぐ、ラウレンティウスたち四人の祖母であるナナオからそういうメールが届いたとイヴェットとアシュリーから気化された。ナナオは、『大気中の魔力が少しずつ失われていく現象は、〈黒きもの〉と何か関係あるのかともしれない』とメールに書いていたという。そして、常世山付近にあった祠だったため、その山を管理していたスエガミ家──イヴェットとアシュリーたちの先祖が書いたものかもしれないともナナオは推測していたようだ。
「しんぶん……」
聞きなれない言葉にシノが不思議そうに呟くと、イヴェットがその説明を始めた。
「あ。新聞というのは、世界各地で起こった事件や世間で関心を集めている事柄が載っている情報紙のことです。それに、大気中の魔力が減ったという記載のある紙がヒノワで発見されたという内容が載ってあったんです。研究機関が年代測定をした結果、それが書かれたのは今の時代あたりだったということです」
「ああ……その件は、ユリア・ジークリンデの記憶にもあったね──。ということは、この現象はいずれ起きることだったのか」
いずれ起きることだったということが判ると、交響劇団の団員達のざわめきが少しずつ収まっていく。それが起こったうえで未来からユリアたちが来た。だから、なんとかなるはずという希望が持てるからだ。イヴェットが思い出してくれたおかげで、自陣営の精神的な揺らぎを最小限に抑え、落ち着きを取り戻すことができた。
「情報伝達や記録物は魔道具や魔術が主流という時代で、わざわざ紙で残したのは……遠い未来のためなのかな……。ラウレンティウスたちが生まれた時代は、大気中の魔力量はかなり少ないみたいだし。そんなところで、大昔の魔道具に刻まれた情報を読み取れるのかはちょっと疑問だから」
シノの言葉にミュニケは頷く。
「そうですね。よほど特殊な環境下でないかぎり、魔術も劣化していきます。術の劣化が進んだうえ、大気中の魔力の減少、そして魔術という技術が失われていっている時代でもあると読み取ることは難しいかもしれません」
「ちなみに、その手紙が発見されたのは、ウチら一族の先祖が管理しとった山──光陰が安置されとった山の近くにあった祠なんよ」
アシュリーが補足を伝えると、「どんどん関連性がありそうなことが出てきたわね」とゼリオスカが言う。
その後、ルキウスがシノを見た。
「……おれだけ動いても、姉さんたちはこの時代には来られないと思います。何もせずにいたら、敵が世界の在り方を変えてしまうかもしれません」
と、ルキウスはまっすぐにシノを見つめた。シノも少年をしっかりと見る。
「……〈きょうだい〉である誰かがヒノワにいなければ、光陰は生まれない──。ラウレンティウスたちも、ここには来られない……」
そう言いながら、シノは目を伏せ、開いた。そして微笑み、ラウレンティウス、アシュリー、クレイグ、イヴェットを見ていく。
「──ヒノワが生まれる島に行くよ。イルエとシュイを連れて、君たちや未来を守るためにこの出会いを必然にする。あちらに着いたら、僕たちは『スエガミ』の姓を名乗るとするよ」
「シノ……」
ラウレンティウスたちは目を見開いた。すると、ヌエメラが彼の言葉に続く。
「ここまで来ると、そうしたほうがいいだろうねぇ。だから、光陰に関しては……あたいの仕事だろうね。それと、クナドとかいう喋る武器のことも。これでも、あたいは神から生まれた存在だから、やれないことはないと思うけど……だからといってひとりで全部やれってのは無理だね。せめて助っ人がほしい」
そして、ヌエメラはミュニケを見る。ミュニケがそれに気づくと彼女は、冷静に答えた。まるで読めていたように、さらりと。
「わたくしの力をご所望ですか?」
「ああ。お前さんは魔術に長けているからね。あとは、材料集めのための人手がほしいね」
と、ヌエメラは次にエトルフィーを見る。そういわれることを読めていたのか、ヌエメラと目が合った瞬間、彼女はフッと笑った。
「そもそも、そこまでどうやって行くつもりなんだ? 交流のない遠い国に行くならば、エアルツのような長距離移動が得意な仲間が必要となるだろう?」
──飛行能力があっても、遠い島まで行くのはけっこう大変なことだからな。オイラはそうでもねえんだけどよ。
「よって、ボクとエアルツは、のちにヒノワ国が生まれる島へと同行したいと思っている」
やがてエトルフィーは観客席のほうへと顔を向け、声を上げる。
「我が団員たちよ。キミ達はどうしたい?」
「行きます!」
「行きた〜い! 新天地〜!」
「微力ながらお手伝いします」
「未来に繋げるという大役だぁぁぁ!」
「やれることは全部やっていこう!」
交響劇団の団員達は意欲的な言葉を述べていく。そう言うということを解っていたエトルフィーは得意げに微笑みながら「と、いうことらしい。これで助っ人は十分だろう?」と言った。
──それにオイラは星霊だからよ、シュイたちが老いていってもその先の未来を見守っていけるぜ。ヌエメラも人間の姿で武器ばっか作ってねえで、ちゃんと見守れよ~?
「はいはい、わかってるって」
「ワタシも、モクと一緒にヒノワ国が生まれる島に行くわ。手伝わせて。ワタシも星霊だから、大きくなったシュイやその子孫たちを──そして、アナタたちが知っている未来の歴史を守っていくわ」
ゼリオスカも名乗りを上げると、そこからひとつの疑問点を提示した。




