第十九節 必然の出逢い ③
「……でも、未来のためにしないといけないことが、まだあるよね……。『何をしたら、あたしたちが知る未来どおりになるのか』──それと、『未来にいる〈黒きもの〉は、どうやったら討てるのか』ということも……」
やがて、イヴェットが憂う。ひとつの悲願を達成しても、まだやらねばならないことがある。
いまだ未来にいる〈黒きもの〉の全貌すらわかってない。なにより、この時代の〈黒きもの〉ですらある程度倒せるのかどうかだ。〈黄金の杯〉の欠片を未来へ持っていくことはできないだろう。
「〈黒きもの〉に関連した重要な未来を細かく見ていくと、ヒノワという国に安置されていた『光陰』と呼ばれる武器のこと。そして、ラウレンティウスたちが〈きょうだい〉の子孫ならば、先祖は誰かということだね──」
シノがそう言うと、ミュニケが小さく手を上げた。
「〈きょうだい〉の子孫についてのお話ですが……ひとくちに『〈きょうだい〉独特の魔力の気配』といいましても、細かに気配を感じると各々違いがございます。ですので、ここで一度ラウレンティウス様たちとシノ様の魔力を調べさせていただいてもよろしいですか?」
「ああ」
ふたりはミュニケに手を差し出し、ミュニケはふたりの手に触れて魔力の気配を調べた。アシュリー、クレイグ、イヴェットも手を差し出す。しばらくして、ミュニケはある答えを出す。
「──……やはり、ラウレンティウス様たちは、シノ様の魔力に近い性質を持っておられますね。それに、純粋な人間と夫婦になって子を持った〈きょうだい〉はシノ様しかおりません。なので、ラウレンティウス様たちはシノ様の子孫なのではないかと思うのですが……そう決めつけるのはまだ早いでしょうか……?」
シノは考え込むように目線を下げる。
一時、場に静寂が流れると、クレイグが「そういや……」と、ある話をはじめる。
「ナナオばあちゃんの実家って、光陰が安置されてた常世山を管理してた一族だった。なら、ヒノワに〈きょうだい〉が居てくれてねえと意味がない──。なあ、ユリア。床に魔術で地図を描きてえから、オレが描けるように場を整えてくれねえか?」
ユリアは頷き、舞台の床にそのようなことが出来るよう場を整えた。その後、クレイグが指先に魔力を収束させ、それをペンのように走らせていく。やがて、ユリアたちにとって見慣れた地図が描かれた。
「──よし……。この場にいる全員、この地図を見てくれ。ここが今、オレたちがいるあたり。なおかつ、未来ではオレたちの生まれ故郷の国があるところだ。そして、オレ、姉貴のアシュリー、ラウレンティウス、イヴェットの祖母はこの列島の国で生まれた。祖母の生家は、光陰を安置していた山の管理していた一族なんだ」
クレイグが地図を指しながらひとつずつ説明していく。やがて、顔を上げて〈きょうだい〉たちを見渡した。
「誰か、この列島に行ったことはねえか? それか、ここに〈きょうだい〉がいるという情報を聞いたことはないか?」
それぞれ目線を合わせる者。考え込む者。何も思いつかなくて首を振る者──〈きょうだい〉たちはそれぞれの反応を示す。しかし、エトルフィーだけは手を挙げた。
「交響劇団を作る前、ボクとエアルツはいろんな場所へと旅をしていたんだ。だから、そのあたりの島々にも行ったことがある」
「そうなのか?」
「しかし、そのあたりの島には魔術に疎い者が多く、戦いを好まない穏やかな性質の者ばかりだった。種族に関係なくね。〈きょうだい〉も見かけなかったし、〈きょうだい〉にとって重要ななにかがある感じでもなかった」
〈きょうだい〉はいない。何かがあるわけでもない辺鄙な列島。ならば、〈きょうだい〉の力を持つ未来の人間や、光陰という喋るヒノワの武器はどこからやってきたのか──。
「そんなの、その列島に行く理由なんざいつだって作れるだろう? そもそも、行く理由だって今できたようなものじゃないか。シノの子孫と未来のために、その列島に移り住むっていう理由がね」
その時、ヌエメラが口角をあげてそう言った。
「……たしかに、今このときも未来にとっては過去だね。諸問題を解決してから、その島に移り住むことはできる」
シノがそう答えたあと、ヌエメラは続ける。
「だろう? それから、あたいも『未来のお前さんらと関連がある』という裏付けを提示できるよ」
「証拠があるのですか?」
ミュニケが問う。
「ああ、あるよ。たぶんだけどね。あたいの勘が間違ってても責めないでおくれよ? ──ということで、ラウレンティウスとクレイグ。お前さんらが光陰から貰ったという武器をもう一度、あたいにじっくりと見せとくれ」
また? と、ラウレンティウスとクレイグは首を傾げる。出会ったばかりの頃にも、ヌエメラはふたりの武器に興味を示してじっくりと観察していたのだが。ひとまず、ふたりは自分の武器をヌエメラに渡した。
「……あの時、見てたのは表面だけだったからねぇ。けど、この武器がカタナと呼ばれる武器の構造と似ている──」
すると、ヌエメラは武器の紋様部分をいじり、そこから小さな部品を外した。その後、二つの武器の柄と刃部を分離させる。そこから見えたのは、茎。柄の内部を通る芯だ。
「あ、あはっ──あっはっはっはっはっはっはぁっ!」
それを見た瞬間、ヌエメラは天を仰ぎながら大笑いした。
「な、なんだよ」
突然の爆笑にクレイグが訝しむ。
「いやぁ、ねえ……。もともと、これらの武器にはあたいが作ったような感じはあったんだけどさ……。今の時代の武器は、こういった構造はしていないんだよ。柄と刃は、こんなふうに突起と穴と固定する部品で物理的にくっつけるんじゃなく、素材の性質と魔術を利用してくっつけるのさ。だから、この武器を一番初めに見たときは、まさかこんな構造になっているなんて思いもしなかったんだよ。武器の模様と固定している部が同化するように作られていたからね」
それからもヌエメラは面白そうに語る。
「それに、もしも本当にあたいの作品なら、刃の根元のところにヌエメラって名前が刻まれてるはずなんだよ。けど、これらにはそれが見当たらない。だから別の誰かが作ったものだと思っていたんだが──ユリア・ジークリンデの記憶の中にあった『ヒノワの知識』を知って、〈きょうだい〉の血筋だのシノの子孫だのという話を聞いてから、まさかと思って見てみたら……」
と言って、ヌエメラはふたりに茎を見せる。
「見てみな。なんて書いてある?」
「──……ヌエメラ……」
「自信を持って言えるよ。この癖のある筆跡は、あたいの文字だ。贋作とかでもない。あたいはまだ有名な職人じゃないからね。生まれてからまだ十年ほどだし、武器を作り始めたのは生まれてから二年目のことだった」
ラウレンティウスとクレイグが光陰から貰った武器は、ヌエメラが作ったもの──その事実にふたりは驚いている顔をしているが、うまく言葉が出てこない。そんなふたりを見ていたヌエメラはフッと笑い、息をつく。
「いやはや……遥か未来にあたいの武器があるとはねぇ……。なんで光陰は、それらの武器を後生大事に持っていて、それをお前さんらに与えたんだろうねぇ?」
「それじゃ、アンタらは……」
「ま。可能性は高まってきたってところかい」
ヌエメラが不敵に微笑むと、次はルキウスが口を開いた。
「話が変わりますが──姉さん記憶を見て、おれも思っていたことがあります。おれの武器でもある細い帯って、包帯とけっこう似てますよね」
関連した内容の話かと思えば、まったく違った。どうして今それを問うのか。テオドルスは不思議そうに少年を見る。
「その帯は、ルキウスの身体能力を上げてくれている道具だったな。たが、急にどうした? それと包帯と似ているだなんて」
「包帯と似ていますが、身体能力を上げる補助具とする以外にもいろいろとできるんです。変装することとか、魔力の気配も消すこととか」
と言って、ルキウスは片腕に巻いていた包帯を解いた。
「この細帯は、本来、戦うための補助具ではなく、戦いから逃れるために作られたものなんです。身体能力を上げてくれるのも、逃げるためなんです。神の意思から生まれた〈きょうだい〉なのに、おれが未熟な生まれ方をしたから、兄さんがお守りとして買ってくれたものです。おれがそれを戦闘に使っているだけで──」
そして、彼は顔に白い細帯を巻いていく。顔全体を包み、首をも覆う。帯同士が重なったところを開けて隙間を作り、目と鼻の空間を確保した。
「だから……こんな芸当もできるんです」
刹那、ルキウスの声が少女のように変化した。そして、髪の色も鮮やかな赤へと変わり、魔力の気配が失っていく。
「……!」
その姿は、ユリアたちにとって見覚えがあった。
「……姉さんたちがリュシエンヌという子を女の子だと判断したのは、名前と声ですよね? 姉さんの記憶を見るかぎり、その子は長袖とか包帯で体つきが隠れていましたから。それに、喉のあたりも包帯で隠れていたようですし」




