第十九節 必然の出逢い ①
「あ──おかえりなさいませ!」
エアルツのなかにある異空間。交響劇団の拠点にて、ユリア、テオドルス、ラウレンティウスが帰ってきた。呪いを浄化したあと、三人はエアルツから受け取っていた魔石に魔力を込めた。それが魔石に込められた術式を起動するための動作であり、その瞬間、三人は光に包まれて交響劇団の拠点へと転移した。降り立った場所は、拠点の中庭。そこにミュニケがいた。
「回収と浄化、すべて終わりました。すみませんがミュニケさん。ラルスの治療をお願いします」
「いや、俺は別に……」
「かしこまりました。ラウレンティウス様、こちらへ」
ミュニケが手招きをすると、ラウレンティウスは首を振る。
「いや。軽いケガなので──」
「魔術攻撃だろうが物理攻撃だろうが体に悪いなにかが含まれていた可能性だってあるんですよ!? この世界での戦いを軽く見てはいけません!」
「あ、はい」
ミュニケに怒られて、ラウレンティウスはようやく首を縦に振った。
「ユリア様とテオドルス様にも傷があるのでは? 服が破けておりますよ」
「無傷ではありませんでしたが、もう治りました」
「え!?」
ユリアがさらりと返答するとミュニケは驚愕する。
「アイオーンから血をもらってから、治癒力が高くなったんだ。おかげで治療いらずな人間になってな! だからオレたちは平気だ」
テオドルスから笑顔でそう言われ、ミュニケは目線を斜め上にあげて考える。
「えー……っと~……。そういえば……そんなことをおっしゃっておられていた、ような……?」
未来から来たというだけでも混乱する内容だというのに、問題はそれだけではなかった。受け取ったあまりにも情報が濃かった。なので、彼女はそのことを忘れていたようだ。
「──しかし、傷はなくとも、ユリア・ジークリンデ殿もテオドルス殿も、あとで服を仕立て直さないとだね。もちろんラウレンティウス殿もだ」
背後からエトルフィーの声が届く。振り返ると彼女だけでなく、セウェルス、シノ、ゼリオスカがいた。
「……全部、終えてきたんだな」
セウェルスが言うと、ユリアは頷く。
「ええ──。無事に欠片を回収したわ」
「……それはよかった。そして、帰ってきて早々悪いが、これの浄化も頼みたい」
と、セウェルスは手に持っていたものをユリアに見せた。それは、封印術によって呪いを制御されている〈黄金の杯〉の欠片だった。それが三つもある。
「えっ……。この欠片は……?」
「……僕たち五人で回収したものだよ。君たちが向こうの欠片を回収しに行っている間にね」
シノが静かに告げる。五人ということは、ルキウス以外の全員でという意味だ。
「本来、無関係なはずのアナタたちが戦っているというのに……当事者であるアタシたちがやらないのは、道理に合わないでしょう……?」
悲しげに微笑むゼリオスカ。
「大丈夫……。もう迷わないよ」
笑顔がないエトルフィー。誰もが覚悟を決めて、回収してきてくれた。
「……──」
ユリアは口を閉ざしたまま、セウェルスから欠片を受け取った。テオドルスも何も言わずにその光景を見守る。
「……ところで、セウェルス。あなたは、〈調停者〉という役目を負っていたのね?」
「戦った〈きょうだい〉から聞いたのか」
「ええ」
「……」
セウェルスが答えてくれない。本人が何も言わないからこそ、ゼリオスカたちも黙っている。今は話してくれなさそうな雰囲気だ。
「……では、イヴェットたちはどこにいるの? 〈黄金の杯〉の再現を頑張ってくれているのかしら」
「ああ。まだ体力があったヌエメラもそっちに協力しに行っている。ルキウスもだ。そして、劇団に所属している〈きょうだい〉たちも力を合わせて〈黄金の杯〉を再現しようと試みている」
「どこで?」
「劇場だ。会いたければ会ってくるといい」
「そうね……。この欠片の浄化を終えてから向かってみるわ」
◇◇◇
それから、しばらくの後。ユリアとテオドルスは拠点内の空間にある劇場へとやってきた。
「ただいま」
劇場のある建物の扉を開いて、まず目に入ってきたのは、種族など関係なくうなだれた様子で観客席に座る者や客席の通路で寝転ぶ者がいる光景だった。そして、舞台の上にはあまたの術式の痕跡とイヴェットたち。
「あ……おかえり! よかった、無事だったんだね」
イヴェットが声を張ると、舞台の上で座って俯いていたクレイグとアシュリーが顔を上げる。ルキウスは欠片をいじっていたが、イヴェットの声に反応して顔を上げた。観客席に座っていた者たちは後ろを振り向き、通路で寝ていた者も起き上がる。ヌエメラはそこにいた。
「ユリアやオレは、〈黒きもの〉との戦争を駆け抜けてきたからな。このくらいは朝飯前だ」
「ラウレンティウスは?」
アシュリーが問う。
「怪我の治療よ。でも、軽い傷だからすぐに終わると思うわ」
そしてユリアは舞台に上がり、イヴェットに手に持っている欠片を手渡す。
「──欠片よ。私たちが持っていっていた分と、私たちとセウェルスたちが回収した分」
「ありがとう。さっきまで頑張っていたんだけどね……やっぱり、ひとつやふたつの欠片だけだと力が足りないから再現が難しくて……。でも、これだけあれば出来るかもしれない」
「やってみますか? おれは、まだやれますよ」
すると、観客席側から「じぶんも」、「俺っちも」、「あーしも~!」などという声が上がった。
「うん、やってみよう。──イグ兄、アシュ姉。やれそう?」
「あいよ~……」
「うえー」
と、クレイグとアシュリーは答える。この姉弟は、ほかの面子と比べて元気がない。そのことにテオドルスが首を傾げる。
「どうした? ほかのみんなと比べて力尽きているな?」
「一番頑張ってくださっているのは、このおふたりなので」
と、ルキウス。
「ある意味、神に挑んでんだぜ。オレら……」
クレイグはため息をつき、言葉を続けた。
「イヴェットが再現して、その再現された力の詳細を姉貴が分析。その際、姉貴にはいろんな情報が一気に頭に流れてくるらしくてよ。まずは落ち着いて情報整理しねぇと自分でも何もわからんってことでオーバーヒート寸前なんだ。だから、オレは姉貴からもらった情報を受け取って、ルキウスの魔力に記録する係──魔術を発動させるための説明書を作ってるような作業やってんだ。慣れねえ作業だけど、姉貴が『ただでさえ情報量ヤバくて死にそうやのに、その作業もやってたらガチで死ぬ』って言うからオレがやることになったんだよ」
「なるほど……。その情報はルキウスに持ってもらうの?」
「はい。いろんな意味で、おれが一番適任だと思いましたので」
その次にルキウス。
「まずは、姉さんたちと縁深い〈きょうだい〉であること。そして、神の力だからこそ、それを獲得した際にどうなるかはわかりませんので、神から生まれた〈きょうだい〉であれば拒絶反応はないと思ったんです」
「どこまで術の情報を抜き出せたの?」
ユリアが問うと、クレイグは微妙そうな顔をした。
「あんまりだな……。そもそも〈黄金の杯〉の欠片が不足してるせいで再現するのが大変なんだよ……」
「お前さんらに魔力を与え続けて作業できる環境にしているアタイらも大変だよ。こっちは老体なのにさ」
すると、観客席にいたヌエメラが気怠そうに紡ぐ。
「老体なのはガワだけなんだろ」
「むしろ実年齢って、ウチらより下ちゃうん?」
「おや。気づいたかい? この見た目でいる意味がさ」
ヌエメラの意地の悪そうな笑顔に、アシュリーとクレイグは顔をそらしてユリアを見る。見た目で騙すとは性格が悪い。




