フロレンツィアの愛
ハルトムートに案内されて黄色の膜のようなものをぬけると、神社のような古典的な家と神木のような大きな木や果物の木が生えていた。
うわぁ、、なんて幻想的な風景なんだろう!
もしここがハルトムートのお宅だと最初に説明されていなければ、間違いなく私は黄泉の国だと思ったに違いない。
それほど幻想的で神秘的な場所だ。
悪役令嬢ハイデマリーのせいで心が荒んでいる今の私には癒しのような空間だと思った。
「精霊魔法を教える前に其方腹は空いておらぬのか?
私は料理が得意ではないのだが、其方が望むならば作ってやらんこともないぞ。」
得意そうに尻尾をふりふりして、ニコリと牙を見せて笑顔を見せて私に提案してくるハルトムート。
あの憎い悪役令嬢ハイデマリーを倒すことばかり考えていたから忘れていたけど、たしかに私お腹すいてるじゃない。
お腹がすいてることに気がついたら、何か食べたくなってきた。
レティーツィアだってお父様やお母様、兄弟やそして、、ハイデマリーに以前は料理を作っていたから作れるのだ。
(それにハルトムートには恋愛感情もなければほとんど好きにもなれないけど、、、お世話になったのは事実だからお礼くらいしないと悪いじゃない…。)
「あなたは料理しなくていいです。
私があなたの分も料理するから待って休んでいて下さい。」
「おぉ!
其方が婚約者の私のために料理を作ってくれるのか?」
嬉しそうに弾む声を出すハルトムート。
また尻尾がふりふりと揺れている。
もうハルトムートの魔性の毛並みの虜だから、あんまり視界に入るところで尻尾をふりふりされるともふりたくなるから困るよ。
「お世話になっているお礼ですよ。
それで、料理器具や食材はどこにありますか?」
「料理器具? ないぞ?
コップや皿、スプーン、フォークなどはあるが、、私は料理が得意ではないからな!
食材なら庭になっている桃が沢山あるだろう?」
は? 調理器具がないだと?
しかも食材は桃だけとか、、、終わっているじゃないか。
「…あなたは桃だけを食べてきたのですか?」
「あぁ、そうだな。
封印の眠りに入っている間は何も食べないが、起きて活動しているときにここで食べるのは桃だけだな!
私の桃は凄いのだぞ!
いくら食べてもすぐにまた新しい桃が実っているのだ!」
桃だけしかないのに飽きずにこの笑顔とは。
しかも、ハルトムートがさっき私に言ってきた料理を作ってくれるって話も今となっては料理なのか怪しい。
調理器具がないならお皿に桃を乗せだだけとかだろうな。
私なら桃以外にも他のお肉とかお米とか野菜とか色々な食材を食べたくなりそうだけど、、、。
笑顔でハルトムートが満足そうなんだから、あえてつっこまないでおいた方がいいだろう。
「そう、わかったわ。
じゃあ私は桃を取ってくるわね。」
「1人でか?
はじめての場所で婚約者を1人になんてこの黄金竜ハルトムートにはできぬぞ。
私も其方についていこう。」
私は本当に目の前の庭だし1人でも構わなかったんだけど、意外と心配症というか婚約者として責任感の強いハルトムートがついてくるっていうならそれでいいか。
私の後ろをハルトムートがどすどすとついてきてる気がするけど、私は振り返らずに「好きにして下さい」と言って桃の木まで歩いた。
ーーー
私は大量の桃が実っている木の下に来た。
甘くて美味しそうな匂いが桃の木に近づくにつれて匂っていたが、そばにくるとその匂いはさらに強くなった。
いい匂いだなぁ。
こんな桃初めて見た。
「…この桃、なんていう名前なんだろう、、。」
無意識にぽつりと思ったことを話していた。
「……あぁ、これか。
これの名前は、、、フロレンツィアの愛…というのだ。」
私はハルトムートが言い淀んだことより、無意識に自分が呟いてしまっていたことに返事がきたことの方に驚いて動揺した。
無意識の発言だったなんて恥ずかしい!
バレたくなくて慌てて誤魔化した。
「そう! いい名前の桃ね。
これを今日は取って食べましょう。」
私は自分の無意識の発言に動揺していたから、私の後ろのハルトムートの寂しそうな様子に全く気がつかなかった。
フロレンツィアの愛は名前が長いから名前はやっぱり桃でいいや、と思いながら私は機嫌よく桃を取り続けた。
ーーー
フロレンツィアの愛を大量に持ってハルトムートに案内された部屋に通された。
カシノニア王国の昔を思わせる和風テイストにまとめられた部屋だった。
い草の匂いのする畳の床に、木枠と和紙で作られた障子、和風な和紙でできた照明、木でできた温かみのある机なとがある広い部屋だった。
(私、この雰囲気なんだか好きだな…。)
今のカシノニア王国の和風の雰囲気も好きだけど、やっぱり私は昔のカシノニア王国の和風テイストの雰囲気の方が好きだ。
果物を机に置いてハルトムートのセンスの良さを少し見直した。
私が座ると、すぐにハルトムートが井戸から水を魔法で汲んで用意してくれた。
「座って食べましょう?」
調理器具も何もないので、桃の皮を手でむいて食べるだけしか出来ない。
だけどこの桃すごく美味しい!
あっという間に1つを食べ切れた。
まぁ、私が1つ食べている間にハルトムートは3つも食べていたけど。
2つ目も私は美味しくてあっという間に食べ切った。
でも、果物ばかりも飽きてくる。
3つ目の桃を眺めながら、温かい野菜のスープが飲みたいと思った。
じーっと桃を見つめながら、「野菜スープになーれー」と我ながら子供っぽいが幼稚なことをしていると思うけど見つめ続けた。
すると机の私の見つめていた桃がぽんっ!っと野菜スープになった。
しかも、ご丁寧に野菜スープはスープの器にスプーン付きでホカホカな状態であった。
(…なんで??)
私が混乱していると、桃をむしゃむしゃ食べていたハルトムートも驚いたのかホカホカの野菜スープを凝視していた。
「…なぜだ!?
どういうことだ!
なぜ其方はフロレンツィアの愛を実らせられたのだ!?」
ハルトムートの雰囲気がどんどん怖い雰囲気になり、ハルトムートから微量の魔力が漏れている感じがする…!
私の身体にハルトムートの魔力が効果を及ぼして息苦しくなる。
私の心臓はどんどん鼓動が早くなり、溢れるように冷や汗が湧き出てきた。
(…まずい。 このままだとハルトムートの魔力の制圧で身体がもたない。)
ハルトムートほどの魔力持ちなら微量の魔力を漏らすことで「制圧」という魔力持ちに攻撃の威圧をかける効果を持っている。
…息苦しい。
そもそも、フロレンツィアの愛を実らせるって何?
この桃は元々木に桃として実っていたではないか。
それに、今この桃は実ったのではなく、桃から野菜スープに変化したのだ。
ハルトムートの言うフロレンツィアの愛を実らせるって言う意味がわからない。
「……実らせて、いません。
私はただ、野菜スープになれ、と思った、だけです。」
私が言い終わると、ハルトムートの制圧は収まった。
ハルトムートからの魔力の漏れがなくなり、私は呼吸が楽になりすぐに「すーはーすーは」と、深呼吸をして酸素を取り込んで呼吸を整えた。
「…はっ! す、すまない!!
つい取り乱してしまったようだ。
私は別室で過ごしてくつろぐが、其方はこの部屋で休むと良い。
この部屋には押し入れの中に布団があるし、入浴用の浴室とシャワールームもトイレも付いている。
腹がすけばまた取りに行って食べれば良いし、飲み水は私が準備した分で足りなければ井戸から汲んでくると良い。
私は明日まで来ないから安心してくつろぐと良い。」
「えぇ。」
私の返事を聞くとハルトムートは気まずそうに急いで部屋から魔法で転移して出ていった。
なんだったんだろう、さっきのは。
今まであんなハルトムートを見たことがない。
………それに、、フロレンツィアの愛を実らせたって、どういうことなの?




