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カシノニアの悪夢


「着いたぞ!」


 行き先も聞かずにハルトムートのお宅に伺うことになり反省していた私だが、ハルトムートの背中は気持ちよくて眠ってしまっていたようだ。


 さすが黄金竜。

 毛並みがもふもふでふわふわで、とにかくずっと触っていたくなる魔性の毛並みだった。

 ハルトムートと婚約者なのは納得ができてないけど、ハルトムートのこの魔性の毛並みとは婚約者でいたい。


 「毛並みにつられて婚約者になりたいと思っているなんて馬鹿ではないか」と思われるかもしれないけど、全く好意を持っていなかった相手に「婚約者になりたいです」と思わせるくらい魔性の毛並みなのだから、しかたがないではないか。


 もふもふもふもふもふ。

 私はハルトムートの魔性の毛並みをもふり始めた。


 気持ちいい!


「おい? 聞いているのか? 

 着いたぞ!」


 もふもふもふもふーー。

 また雑音が聞こえるけど、もふり続けることはやめられない。

 もふもふは最高だ!


「む? 

 其方、返事をしないなら私が抱きしめるぞ。」


 ハルトムートの尻尾が縦に揺れた。


 ふわり。

 ハルトムートの魔法で私の身体が移動して、私はハルトムートの背中からお腹に移動していた。


 お腹はもっともふもふなんですね!

 私がハルトムートのお腹の部分の魔性の毛並みにすりすりとほっぺを擦り付けて毛並みを堪能していると、急に私は何かに包み込まれた。


 !?

 なんだなんだ?

 包み込んでくるものももふもふで、私はもふもふの天国にいるかのような幸せな気持ちになった。

 これぞ、もふもふ天国だ!


「其方、それほど私を愛しているのか?

 そんなに私を求めずとも私とて婚約者を大切に愛してやるから安心するがいいぞ。」


 うるさいな。

 また雑音が聞こえる。

 というか、なんだ愛してるって。

 まるで私がハルトムートのことが好きみたいじゃないか!


 はっ!

 私、今、ハルトムートに抱きついてほっぺを擦り付けてる!

 ということは、まるで私が本当にハルトムートのことを好きみたいに見えるじゃないか!


 いや、確かにハルトムートの魔性の毛並みは最高のもふもふで好きだが、ハルトムートのことは好きではない。

 それになんだ?

 私のことをハルトムートが愛すだって?


(そもそも私たち竜と人間だし、、私たちには愛は存在しないです。)


 私はムクッとハルトムートのお腹から起き上がると、「降ります。」と言った。


「む? もういいのか?

 私はいつまでも其方を抱きしめていても良かったのだが。」


「降ろしてください。」


「なぜ其方は私から離れようとするのだ?

 もう少し一緒にいてはだめなのか?」


 竜のくせに耳をペタリとさせて寂しそうにする様は、レティーツィアもさすがにかわいそうかなと思った。

 だけど、レティーツィアはこれでもカシノニア王国の王位継承者として、王女として、カシノニアの悪魔を再び引き起こすことはできない。



ーーー



ーーー「カシノニアの悪夢」とは、歴代のカシノニア王国の中でも最悪の出来事を指す。


 現在の王族には「直系王族」と「傍系王族」がいる。

 だがカシノニアの悪夢以降の現代では、直系王族と傍系王族との間には明確な差が決められて存在しているのだ。


 「基本的に王位継承者は直系王族以外から選ばれることはない」

  つまり、直系王族から王位継承者は選ばれるのだ。


 直系王族は、生まれてすぐに魔力の測定が行われ、その魔力測定の結果で、次の王位継承者の国王または王女が決められるのだ。

 その兄弟の家族も()()()に直系王族になるのだが、王位継承者の直系王族と王位継承者以外の直系王族との間には()()()()がある。


 カシノニアの悪夢以降の()()では、「王位継承者の知識は直系王族の王位継承者のみが知る」ことができるとなっている。

 将来は傍系王族になる予定の兄弟などの家族の王位継承者ではない直系王族には、決して王位継承者の知識は伝えられないのだ。


 この王位継承者の知識に関することは、カシノニアの悪夢の後に国法で決められた最重要事項だからだ。


 だがカシノニアの悪夢の頃の王位継承者の兄弟は、王位継承者が王位を継承した時点から傍系王族となると定められているのは同じだが、

傍系王族になる予定の王位継承者以外の者でも直系王族の知識を知ることが容易にできる「暗黒の時代」があったのだ。




 カシノニアの悪夢では、傍系王族になったばかりの元直系王族の王子が悪徳結婚詐欺師の魔族に騙されたのだ。


 カシノニア王国はもちろんのこと他の4つの国も共通の敵は魔族である。


 カシノニア王国は残念ながらカシノニアの悪夢の後の時代からヒト族だけが暮らす国になってしまっている。

 だが他国から嫁いできたお母様曰く、他の4つの国はヒト族以外のエルフや獣人、竜族、魚人族が共存して暮らしているらしい。




 ーーー「魔族とはすべての悪」である。


 カシノニア王国を含む5つのすべての国では、平民だろうと貴族だろうとすべての民族は生まれてすぐから教えられる教訓である。



 カシノニアの悪夢より昔の時代。

 魔族が元々存在しなかった5つの国以外から突然あとからやってきた魔族達は、もともと暮らしていたヒト族やエルフ、獣人、竜族、魚人族を大量に虐殺し始めた。

 そうやって魔族がこの大陸にやってた時代には、魔族は悪の限りを尽くしたのだ。


 魔族が求めた魔力を豊富に持っている者達から魔族に狙われていった。

 そして次第に魔族は快楽を求め出した。ペット、娯楽として魔力の弱い者たちもいたぶって殺し始めたのだ。

 魔族がこの大陸にやってきた時代に魔族は悪の限りを尽くした。



 魔族に対抗するために、

ヒト族やエルフ、獣人、竜族、魚人族の5つの種族は、

それぞれの国で魔族に対抗するのではなく5つの国で協力して戦っていくことになった。

 ヒト族と比べてエルフ、獣人、竜族、魚人族は長寿で1人1人の魔力や体力は強い。

 だがエルフ、獣人、竜族、魚人族は子供が産まれるまではヒト族とだいたい同じで約1〜2年程だが、成長速度は遅く子育てもヒト族の5〜20倍かかった。

 生まれた後の成長速度が遅いので、ヒト族が大人の20歳なったとして成長速度が遅い種族だとまだ1歳くらいだったりするのだ。

 だが長寿のエルフ、獣人、竜族、魚人族は成長速度が遅いことで時間が経つにつれて数が減ってしまい、魔族との戦いで明らかに不利になった。


 魔族の攻撃が続く中、5つの国は追い込まれていった。

 エルフ、獣人、竜族、魚人族の数は、ヒト族よりさらに減り続けた。

 ヒト族は他の4つの国のサポートのためにエルフ、獣人、竜族、魚人族の国に魔力の多い傍系王族達や魔力の多い貴族を派遣した。

 ヒト族も戦力に余裕はなかったが、直系王族と残された僅かな魔力持ち達で協力して、なんとか魔族に対抗していた。


 5つの国の内1つでも負けてしまえば、その国を拠点にして魔族は5つの国すべてを占領してしまう。

 ヒト族やエルフ、獣人、竜族、魚人族が持てる力を全て使って魔族に対抗していても数が減ってしまった5つの国と数の多い魔族との力の差は歴然だった。


 もはやもう魔族に5つの国が倒されそうになってしまったときに、「女神」が降り立ったーーー。


 女神は5つの国にそれぞれ「5つの守護の宝石」を授けた。

 5つの国の王がそれぞれの守護の宝石を使うと、5つの国それぞれに結界が張られて魔族は弾き出された。


 この「女神による建国神話」は、5つの国のどの民族も知っていることだ。


 だが建国神話から時間が経った時代のカシノニアの悪夢の時代では、魔族を招き入れてしまい大量虐殺が起こったのである。


 兄弟が王位継承して直系王族から傍系王族になったばかりの王子が、美人の悪徳結婚詐欺師の魔族に騙されてカシノニア王国の守りの結界をはっている守護の宝石を()()したのである。

 直系王族で王位継承者になった兄の国王は、すぐに傍系王族になった弟の王子が守りの結界をはっている守護の宝石を解除したことに気がつき結界を張り直した。

 だが、傍系王族の王子が解除したほんの少しの間で、カシノニア王国に住んでいたヒト族や、僅かだが他の4つの国からカシノニア王国に交流のために来ていたエルフ、獣人、竜族、魚人族はすでに大量虐殺にあって殺されていた。


ーーーあっという間にカシノニア王国にはヒト族だけになった。



 なんとか守りの結界をはっている守護の宝石を張り直してカシノニア王国のその当時の直系王族の王位継承者の兄の国王は、カシノニアの悪夢を引き起こした原因の傍系王族の弟の王子に激怒した。

 すぐに傍系王族の弟の王子を処刑にし、「守りの結界をはっている守護の宝石や国の重大事項は直系王族の王位継承者にのみ伝えられる」ことにしたのである。

 また、王位継承者はカシノニアの悪夢を再び引き起こさないために、「直系王族の国王または女王の許可なく恋愛をして騙されてはいけない」、と厳しく国法に定めたのだ。


ーーー


 レティーツィアは、「王位継承者」で「次期女王予定者」である。

 婚約者になったと黄金竜ハルトムートに言われたとしても、カシノニアの悪夢を再び起こさないように容易に心を許してはならないのである。


 今レティーツィアは、お父様である現国王に悪役令嬢ハイデマリーのせいでハルトムートのことの確認が取れない。

 だがそれでも、レティーツィアはカシノニアの悪夢を思い出して騙されないように、ハルトムートを警戒し続けていたのだ。


「降ろしてくれないなら、私に精霊魔法を全て教えてください。

 そうすれば、あなたに頼まなくても自分で飛行魔法を使えます。」


「あぁ、いいぞ!

 其方に精霊魔法を教える間は私は其方といれるのだからな!」


 またご機嫌になったハルトムートは、尻尾を縦に振って魔法を使ってレティーツィアをハルトムートの目の前に移動させて降ろしてくれた。


(早く精霊魔法を覚えてハルトムートから離れられたら、カシノニア王国に戻って悪役令嬢ハイデマリーに奪われたものを全て取り返してやる! 必ず悪役令嬢ハイデマリー、あなたにやり返してやるんだから!)


 ハルトムートがレティーツィアと一緒にいれるとわかってご機嫌に尻尾をふりふりしている間、レティーツィアは精霊魔法を習得して憎い悪役令嬢ハイデマリーに復讐することを考えていた。

 


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