一流の魔術師
私は反省中だ。
反省しながらただひたすらハルトムートの後ろを歩いている。
なぜなら、黄泉の国の入り口の通過儀礼だと思って最後の力を振り絞って名前を名乗ったら、意図せず、そう意図せずに自分から黄金竜ハルトムートの婚約者になってしまっていたのだからだ。
カシノニア王国の王位継承者だった私レティーツィアは王位継承者として英才教育を受けてきたにもかかわらず、とんだ失敗をしてしまったのだ。
レティーツィアは政略結婚ならまだしもこんな形で望まない相手と、しかも自分から二度と取り消せない婚約者の契約を結んでしまったことで気分が沈んでいた。
今レティーツィアの目の前では黄金竜ハルトムートがレティーツィアとの婚約者同士の挨拶を済ませられたとご機嫌で尻尾をブンブン振っている。
すごく嬉しそうですね、ハルトムートさん。
…でもなんでだろう、私はは全く嬉しくない。
いや確かにハルトムートには感謝してる。
だって、ハルトムートがいなければ癒されずに私は確実に死んでいて黄泉の国の住人になっていたことは間違いないだろうから。
でも婚約破棄すらできない婚約者になるなんて、さすがにいやだよ。
しかも、竜だし…。
竜がいるなんて、王位継承者のレティーツィアですら有名な家庭教師から多くのことを学んだけど聞いたこともない。
それに、竜は竜だ。
人間じゃない。
竜とは、ある一部のよくわからない宗教っぽい何か怪しいオカルト集団が存在していると主張しているだけのものだと思ってたのに。
まさか実在して、しかも私の婚約者になるなんて…。
そりゃ、ハルトムートがいたからこの通り身体も魔力も元通りになれたから感謝してるんだけど、、、。
(うーん、、、なんだかやっぱりいきなり婚約破棄すらできない婚約者だなんて納得ができないんだよね。)
「其方、いつまで私の後ろを歩いているのだ?
早く私の背中に乗りなさい。」
「いえ、運動もかねて私は歩いて行きます。」
「む? 何を言っているのだ?
いくら私の婚約者とはいえ其方の歩きではこの先の私のプライベート空間へは入れないぞ?
其方、、まさか婚約者の私の背中に乗りたくなくて精霊魔法の飛行魔法を使うつもりなのか?」
…………なんだそれ?
精霊魔法?
飛行魔法?
そんなもの、聞いたこともない。
魔術師が使うものといえば魔術ではないか。
魔法なんて聞いたこともない。
魔術師とは、魔力属性と魔力量で生まれながらに能力が決まっているものだ。
魔力属性とは、木・火・土・金・水の5つの属性に分けられる。
基本的にほとんどの人はわずかながらでも誰でも魔力を持っていて、魔力属性と魔力量が古代遺跡の魔術道具に合えばだれでも魔術を使えるのはこの国の常識だ。
だが、貴族以外の身分が低い者ほど魔力属性は1つか2つと数が少なく、魔力量も極めて少なくなっている。
カシノニア王国は、古代の一流の魔術師達が作り上げたと伝わる古代遺跡の魔術道具たちを一流の魔術師が多くの魔力属性や大量の魔力量を調節して魔術を使いこなして生活している。
古代遺跡の魔術道具はそれぞれに必要な魔力属性や魔力量が異なっているが、魔力属性や魔力量の少ない平民は貴族のサポートにまわっているため魔術を使っているものはほとんどいない。
貴族が基本的に魔術師として魔力を使って仕事に就いている。
魔力属性が多いほど使える属性が多くなり、魔力量が多いほど力が強くなる。
そのため、魔術師は魔力属性が多く魔力量が多いものが優秀であるとされている。
魔力属性や魔力量は生まれたときに測定される。
それ以降成長しても魔力属性や魔力量は変わらないとされているため、魔術師としての適性があるかどうかは生まれたときに測定するのが国法で定められている。
そこで選ばれた優秀な魔術師のみが古代遺跡の魔術道具に合わせて魔力を注いで魔術を使うのが魔術師の役目だ。
国を支える魔術道具にも様々な魔力属性で膨大な魔力量を必要とするため、国王には強くて一流の魔術師になれるだけの力が求められる。
私が王位継承者に選ばれたのも、生まれたときの測定で国を支える一流の魔術師としての適性があったからだ。
そうだ!
魔法なんて聞いたことがない。
ましてや、精霊なんて存在しないものだ。
つまり、精霊魔法なんてものは存在しない!
…いや、まって。
存在しないはずだった竜が存在するってことは精霊魔法も存在するかもしれない。
「…私は魔術師になるための魔術しか使えません。」
「む? 魔術だと?
其方ほどの魔力があるのに、なぜ低レベルの魔術を使う魔術師などになろうとしているのだ?」
「なっ!
私がなろうとしているのは、古代の一流の魔術師達が作り上げたと伝わる古代遺跡の魔術道具たちを使いこなせる、一流の魔術師です。
多くの魔力属性や大量の魔力量を調節するのは至難の技ですし、魔術を使いこなすことで国の人々の生活を豊かにすることができるのですよ。」
「…一流の魔術師?
魔術師など魔法使いになれなかった者達ではないか。
私の婚約者である其方の魔力であれば魔術師などではなく魔法使いになるべきだ。
魔術師として魔力を使うより、精霊の力を使った魔法使いとして魔法を使う方がより少ない魔力で自由に使えるではないか。
其方であればより多くの精霊と契約できて飛行魔法のなど容易く習得していそうなものだが…。」
「………え?
魔術師より魔法使いの方が優れているのですか?」
まさかだ。
私の目指す一流の魔術師は、ハルトムート曰く魔法使いになれなかったものが目指すものだったのか…!
あぁ、私の一流の魔術師という理想像がガラガラと音を立てて崩れていく。
「あぁ、そうだ。
飛行魔法が使えないならば、大人しくこの婚約者の黄金竜ハルトムートの背中に乗るがいい。
私の背中に乗れるなど、其方は本当に幸運だぞ!」
機嫌良さそうにハルトムートは尻尾を振りながら私に微笑みかけてくる。
竜の顔で微笑まれても全くときめかない。
むしろ竜の牙が見えてヒェェェとなって恐ろしいから微笑まないでほしいのだが。
ハルトムートが微笑みながら尻尾を縦に振ると私の身体はハルトムートの身体の上に移動していた。
「わわっ!」
「暴れるでない。
私の家に着くまで、大人しく私の背中にくっついていなさい。」
え、私今からハルトムートさんのお宅に伺う予定なのですか……と思ったレティーツィアは、行き先を聞かずにさっきまでのんきに反省しながら歩いていた自分に対して「あぁぁぁぁ」となった。
反省してしょんぼりする私と対照的にハルトムートはご機嫌に尻尾をブンブン振りながら飛び立った。




