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2人の愛の物語 2




レティーツィアは、目の前のハイデマリーの変化に目を見張った。



何この黒いモヤの塊は――と思った時、レティーツィアの頭の中に『負の感情』『魔族』という単語が一瞬出てきた。



――なんだそれ、聞いたことがない、とレティーツィアが思ったのもつかの間に異変が起こった。



黒いモヤに包まれたハイデマリーが、こっちを向いたのだ。

ギロリとした目がこちらを向いたのがレティーツィアにはわかった。



「――――ユ ル サ ナ イ …………」



そう、ハイデマリーが呟いた途端にハイデマリーの身体から、レティーツィアに向かって黒いモヤが一気に襲ってきた。


恐怖で固まってしまったレティーツィアの身体は動かず、そばにいてくれたエイバルが助けようと、「レティーツィア様っ!!」と叫んでいるのがわかる。



(――いや! 何かわからないけど、あれは邪悪な物だとわかってしまう。 でも、動けない……助けて、ハルトムートッ!!)




「――レティーツィアぁああっ!!!」


ふわり。


誰かが私を抱きしめて、庇ってくれた。


いつも、私を守ってくれる、安心する腕だ。


私を抱きしめてくれるのは――――



「う、う゛ぁあ゛あああっ!!!」



苦悶に満ちた叫び声に反射的に視線を上げると、そこには苦しむハルトムートの姿があった。



「は、ハルトムート?! 私を庇ってくれた? え、何が起こったの!?」

「ゔゔゔゔゔッ、ゔぁあ゛あ゛あ゛ぁ――――」



ハルトムートは、私を抱きしめたまま座り込んでいく。


ふと、ハルトムートの足元を見ると。



「ハルトムート…………、足が……」



――ハルトムートの足は、石になっていた……



「――――ニ、ゲロ……ゔぁあ゛あ゛あ゛あ゛ッ!!」



ハルトムートは、足先から少しずつ石に変わっていっていた。


身体が石に変わるほど、ハルトムートは苦しそうに叫び続けていた。



「ふふふ。レティーツィア、そいつはお前の大切な者なの?

お前を石にしようと思ってたんだけれど、そいつが邪魔しちゃったのよね。けれど、そいつが石になって、レティーツィアが苦しむのなら、問題はないわ。お前の大切な物は、全て滅ぼしてあげるから!」



苦しむハルトムートと、そのハルトムートを見て衝撃を受けるレティーツィアを見て、黒いモヤに包まれたハイデマリーが嬉しそうに言った。



(いや、いやだ。ハルトムートは私を庇って、こんなことになった。いやだ、ハルトムートを失いたくない。いや、イヤイヤイヤイヤぁーーーー!!!!)



私は心の底から叫んだ。



「――どんな君でも、私は愛している……!!」



そして、ハルトムートは石化で苦しみながら、レティーツィアに()()()をした。





――――その時、レティーツィアの中の何かが弾けた!



膨大な記憶が、レティーツィアの中に蘇ってくる。それは、レティーツィアが女神フロレンツィアだった頃の記憶だった。



女神として勉強した日々。


未熟ながらも、初めて世界の創造に成功した女神フロレンツィアのこと。


創った世界に、ヒト族やエルフ、獣人、竜族、魚人族から出た『負の感情』を押し付けられて魔族が生まれてしまったこと。


フロレンツィアが気づいた時には、魔族がフロレンツィアの大切なヒト族やエルフ、獣人、竜族、魚人族を虐殺し始めてしまっていた。


フロレンツィアは、魔族を救う方法はわからなかったが、ひとまず魔族からヒト族やエルフ、獣人、竜族、魚人族を守ることにしたこと。


そして、そこでカシノニア国王だった、ハルトムートと出会い、恋に落ちたこと。


――でも、ハルトムートはフロレンツィアのせいで堕ちてしまった。


結局、未熟な女神のフロレンツィアは、愛するハルトムートも、生み出した魔族も幸せにできなかった。

唯一、フロレンツィアが彼らを助けられるのは『試練』を受けて力を得ることしか残されてなかったこと。



そうだった。そして、フロレンツィアは試練を受けて、記憶と女神の力を失ったレティーツィアとなったのだった――――



(――――やっと、思い出した。

そうなんだ。私の本当の名前は、フロレンツィア。

未熟で、ハルトムートを愛した女神、フロレンツィアだ――)



思い出した時、レティーツィアの見える世界は変わった。


女神フロレンツィアだった時の記憶を完全にレティーツィアは思い出したのだ。


肩まで石になっていたハルトムートは、レティーツィアの変化に気がついたようだった。



「――思い出したのだな。すまなかった……だが、私はフロレンツィアでもレティーツィアでも、どんな其方でも愛する。愛している……!!」

「はる、と、むーと……いいの。もう、いいのよ。私も、あなたを愛してるわ。」

「あぁ、ありがとう」

「だから、――――あなたを石にはさせない!」



女神フロレンツィアの記憶を思い出したレティーツィアは、謝るハルトムートを許した。そして、レティーツィアもハルトムートを愛していると伝えた。


ハルトムートは、もう首まで石になっている。


――時間がない。

早く、ハルトムートを救わなければならない。






レティーツィアは、女神フロレンツィアとしての力を引き出した。


レティーツィアこそが、女神フロレンツィアだったのだ。

レティーツィアは、女神フロレンツィアであり、レティーツィアでもある。

女神フロレンツィアとレティーツィアは一体となった。

試練を乗り越えたレティーツィアには、女神としての力が自在に使えるようになっていた。


そして、試練を乗り越えたレティーツィアは、女神フロレンツィアだった時より女神の力が格段に上がっているのを感じていた。



(――いける。 前の女神フロレンツィアだったときより、レティーツィアとして試練を乗り越えた今なら、『負の感情』も『魔族』もなんとかできる!)



「ハイデマリー、あなたを負の感情である黒いモヤから解き放ちます! そして、あなたには罪を償っていただきます!」


「はぁ? 何を言ってるのよ!!」



ハイデマリーは、レティーツィアが言ってることが意味がわからないと言う顔をした。



――――レティーツィアは、ハイデマリーを見つめながら、力が増した女神の力を発揮した。


レティーツィアを中心に放たれる温かい眩い光が世界中に放たれ出した。


その光を浴びるた途端に、ハルトムートの石化はとけていった。


そして、ハルトムートの神に準ずる力も浄化されて、力はそのままあるが、神の世界の法に抵触しない清浄な力へと転換することができた。



そして、ハイデマリーを包み込んでいた黒いモヤも、レティーツィアから溢れ出る温かみを感じる光から逃げるように出ていった。


でも、黒いモヤがハイデマリーから出た瞬間に、ハイデマリーは気を失って倒れてしまった。


ただし、前の女神フロレンツィアだった時に成しえなかったことを、レティーツィアはやり遂げることができた。


やっと、この世界でやり残したことをやり遂げたのだ。




――――やっと、終わった。

レティーツィアはほっとした。



これで、この世界から『負の感情』は浄化できた。

この世界は自然の『負の感情』を浄化できるようになったのだ。


『負の感情』を押し付けられていて苦しんでいた魔族も、今までのように殺戮の感情に囚われることはなくなるだろう。


やっと『魔族』のことを救うことができた。



「ハルトムート、やっと魔族を救うことができました!」

「あぁ、そうだな。レティーツィアの以前からの願いをようやく叶えることができたな。」

「はい。 やっとです。 やっと、『負の感情』から魔族を解放できました。」

「よくやったな、レティーツィア」



女神フロレンツィアときの悲願がやっと叶った瞬間だった。


負の感情に包まれてしまった魔族は、女神の力ですべて浄化されて、この世界の負の感情からやっと解放された。


きっと、この世界での役割を終えた魔族達の魂は女神の力で癒され、他の世界で新たな魂として生まれていくだろう。



女神フロレンツィアを上回る力を手に入れたレティーツィアは、永年苦しんでいた魔族が、他の世界で新たな魂として生まれたのなら幸せになりますように、そして、『負の感情』や『魔族』に関わった全ての魂が癒されて幸せになりますように、と幸福を願った。


そうして、ささやかながら、女神としての祝福を彼らに送った。



きっと、女神の祝福を受けた魔族は、他の世界では幸せになれるだろう――




そして、女神の力を手に入れたレティーツィアとハルトムートが感慨深げに抱き合っている時、

「罪人ハイデマリーを牢屋へ早く連れて行け!」と、ヴァルトラーナお父様が王城騎士に指示を出していた。


あっという間に、ハイデマリー派の残党は処理されて、牢屋へ連れて行かれた。


そして、ハイデマリーがヴァルトラーナお父様から奪っていた、半分の守護の宝石もカシノニア王国の国王の元に帰ってきたのだった。






――――そのあとの流れは怒涛の流れだった。


まず、ヴァルトラーナお父様は、カシノニア国王の国王として、

カシノニア王国の国民へ一連の騒動の謝罪を行った。


そして、のびのびになっていたレティーツィアの継承の儀式を、サクノニア王国をはじめとする5カ国が揃うこの機会に執り行った。

そうして、レティーツィアは正式に『王位継承権をもつ次期女王予定者』と認められた。


さらに、ヴァルトラーナ国王は混乱を招いた国王という責任をとって、ハイデマリー派の残党の処理が終了したら国王を退位し、その次のカシノニア王国の次期女王としてレティーツィアを指名した。


また、次期女王レティーツィアの婚約者としてハルトムートを正式に発表した。







レティーツィアは、ヴァルトラーナお父様やクラウディアお母様、ベネディクトお兄様、ハルトムートと一緒に、処刑される前のハイデマリーに会いに行った。



「――――失敗したわたくしを笑いにきたの?」



ハイデマリーの第一声はそれだった。


以前の豪華な服ではなく囚人のみすぼらしい服を着せられたハイデマリーは、それでも姿勢よく牢屋の椅子に座っていた。



「其方は己のしでかしたことを少しでも反省しているか?もしそうならっ――――」

「してないわ! わたくしは、自分のしたことに後悔も反省もしてない!」

「……よく考えろ、これが最期の機会なのだぞ? 充分に反省しているなら、処刑ではなく終身刑にすることもできっ――――」

「わたくしを哀れまないでっ!!」

「…………」

「わたくしは永遠に王族よ! 哀れながら生きるだなんて、まっぴらだわ! わたくしは、潔く処刑でもなんでも受け入れるわ!」

「――――それが、其方の望みか?」

「もちろんよ! わたくしの一生に後悔はひとつもないわっ!!」

「……そうか」



晴れやかな笑顔で、ハイデマリーは私たちに言った。


ヴァルトラーナお父様の苦々しく顔と、何かから解放されたような晴れやかなハイデマリーの笑顔が、極めて対照的だった――







――――そして、次の日、ハイデマリー派の残党の処刑は行われた。

雲一つない、青空の日だった。


ハイデマリー派の残党の処理が終わった次の日、正式にヴァルトラーナお父様は、カシノニア王国の国王の座を降りた。

そして、レティーツィアはカシノニア王国のレティーツィア女王として即位した。

また、ハルトムートが初代カシノニア王国だったことや、レティーツィアが女神フロレンツィアの生まれ変わりだということも公表した。





そして、その後のヴァルトラーナお父様は、国民への謝罪のためにその後の人生は国の復旧のために尽力した。

クラウディアお母様を王城に残したままで、ヴァルトラーナお父様は1人王族の位を国に返上した。

今まで経験のない国民の生活を苦労しながら自ら体験し、国民とともにあろうとした。


レティーツィアは荒れたカシノニア王国の国土を女神の力で作物を実らせ甦らせていったが、ヴァルトラーナお父様も今までの贅沢な生活はやめて土地を耕したりして生活していくことになったのだった。


ヴァルトラーナお父様は国民から教わりながら畑を一緒に耕し、生活を支えることに尽力していった。

国民と王族をつなぐ架け橋となるために、ヴァルトラーナお父様は残りの生涯を尽力されていた。


時々、私やクラウディアお母様、ベネディクトお兄様が、

ヴァルトラーナお父様の一人暮らしの小さな一軒家に尋ねる時には、ヴァルトラーナお父様は『国民のご意見番』として、カシノニア王国の国民のためにあろうとしていた。









――そして、レティーツィアが18歳になった時に、私とハルトムートは正式に婚姻を結んだ。


カシノニア王国やサクノニア王国をはじめとする他の4カ国からも使者が来てくれて、祝福をいただいた。


だが、数年経ったとはいえ、まだカシノニア王国は復興中の最中だったので、式は簡略化して質素に行った。


そして、レティーツィアが20歳の時に女の子が1人生まれたが、その女の子はレティーツィアほどではないが魔力が高い女の子だった。


レティーツィアとハルトムートは、その子どもが女王として即位してからしばらくはカシノニア王国で過ごしてサポートをしていた。

そして、孫やひ孫が生まれたときも温かい目で見守っていた。


だが、その女王が高齢で退位してなくなったあと、レティーツィアとハルトムートの2人はカシノニア王国をからからも影から見守ると言って、2人だけの()()に隠居した。

2人だけの空間がどこなのか、聞き出そうとした者もいたが、2人は誰にもその場所を教えなかった。


2人だけの空間で、レティーツィアとハルトムートは隠居した後も世界を見守り続けた。



そしてその後、女神の力で浄化されたカシノニア王国や他の4カ国では、2度と『負の感情』や『魔族』は現れることはなかった。








―――――






(数百年後、ある語り部の男の話)



数百年後。




「さぁ、みんな知ってるか?

カシノニア王国には伝説があるんだぞぉ〜。

その昔、『女神による建国神話』に出てくる女神フロレンツィア様は、我がカシノニア王国のレティーツィア女王だったという伝説だ〜! すごいだろぉ〜?」



男は得意げに語る。



「えぇ〜、ほんとぉ? 女神様ってほんとにいるのぉ?」



話を興味深そうに聞く子どもの中の1人が不思議そうに声をあげた。



「あぁ、いるとも! 女王フロレンツィア様がレティーツィア女王として生まれ変わられて、荒れてどうしようもなかったカシノニア王国を復興されたんだ。 だから、今のカシノニア王国は豊かで栄えてるんだぞ。 それで、伝説には続きがあって、女王の位を退位された女神レティーツィア様とハルトムート様は今もこの世界をどこか別の空間から見守ってくださってるそうだ。」

「わぁ、ほんと! すごいねぇ!」



男の話に、子どもは感心の声をあげている。



「ねぇねぇ、それなら、今のカシノニア王国の王族も女神様?」


「いんやぁ、それは違うそうだ。 女神となったレティーツィア女王は、唯一神に準ずる力を持ったと言われるハルトムート様との間に生まれた自分の娘は、女神ではないと公表されておられた。」

「えぇ〜、女神様じゃないのぉ〜!!」

「女神が良かった〜」



男の返答に、子ども達は不満そうな声を上げた。



「おいおい、そんなにブーブー言うなって。 

それでも、女神の生まれ変わりのレティーツィア女王と神に準ずる力を持ったハルトムート様の娘だったことは違いねぇんだ。だから、今の王族も、カシノニア王国を豊かにする、すげぇ魔力持ちってわけなんだしな。」

「そうなんだぁ! 魔力いっぱいなんだぁ。 すごいねぇ!」

「ねぇねぇ、それってほんとなのー?」


「あぁ、ほんとだぜ! お前らも大きくなって学校に通うようになったら、習うようになるさ。」

「へぇ〜、そうなんだぁ〜」



子ども達が感心したような声を出している。



「レティーツィア女王のお父様であるヴァルトラーナ様が尽力されて、国民にも教育が行き渡ったからな。 まぁ、お前らも勉強できる時にたくさん勉強しとけよ〜」

「えぇ〜、勉強きらーい。」


「へへっ、まぁ俺もそうだけどよ。いざと言う時役立ったらするからさ、お前らも楽しく生きるためにやっといた方がいいぜぇ」

「ふぅ〜ん、わかったぁ!」


「あぁ、それじゃあ、俺は次の物語を語りに行くな。 またな。あばよっ!」



子ども達は男の話を聞いて楽しそうに笑って返事をした。


男は子ども達に話し合えると、颯爽とどこかに歩いていった。







女神フロレンツィアは、過酷な試練を乗り越えて、レティーツィア女王として生まれ変わった。


そして、女神としての力が増したレティーツィアは、愛する世界と、魔族、そして誰よりも1番愛したハルトムートを救うことができた。



守るべき国や世界があり、お互いに課せられた思い責任を持つレティーツィアとハルトムートの2人。

でも、2人はその責任から逃げずに立ち向かっていった。

苦難にもたくさん遭った2人だけど、それでも諦めずに周りを労りながら世界をよくしようと励んだ。


その結果、2人はようやく幸せを手に入れたのだった。


女神の力を持ったレティーツィアと神に準ずる力を持ったハルトムートは、悠久の時の中を、2人で優しく世界を見守りながら幸せに暮らしました。


――――これは、レティーツィアとハルトムートの『愛の物語』である。




(おわり)

























これで、完結です。

拙い文章で申し訳ないですが、それでも完結できて、よかったです。


何度か心が折れかけてしまって、「完結できそうにないかもしれない……」と思った時もたくさんありました。

でも、そんな時にブックマークや評価をして下さった方がいてくださり感動したりして、励まされてました。また、特に感想を下さったことは嬉しすぎて、そのあとは「頑張るぞぉおお!!」とすごく元気をもらいました。

みなさん、ありがとうございました。しかも、後書きまで読んでくださるみなさんが、大好きです。ありがとうございます。

まだまだ書きたいことがあるのですが、長くなりそうなので、すみませんがこの続きは活動報告の方に書きます。


『悪役令嬢にやられたのでやり返しますが何か? 〜追放されましたが最強でチートな魔法使いになって復讐します〜』にお付き合いくださり、ありがとうございました。

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