ハルトムートと女神フロレンツィアの過去 2
ハルトムートの過去編です。
長くなってしまったので、1と2の、2つに分けました。 これは、2つ目です。
フロレンツィアは、神にも勝る力を持ってしまった、異端の存在のハルトムートを黄金竜としてカシノニア王国の崖の下に封印することにした。
そして、そのハルトムートを抑える役割も兼ね備えた4匹の竜を創造した。
うん、これでいい。
これで、大好きな人との別れる準備はできた。
愛しすぎて、未熟な女神の私のことを全てを愛してくれた人。
だけど、私の望んだ愛し方じゃなかった。
私は魔族のことで弱音をハルトムートに漏らしてしまったけど、魔族を殺してほしいなんて思ってなかった。
でも、私のせいでハルトムートは治める王国も、支えてくれる国民も失ってしまった。
そして、ハルトムートももう人間ではいられない。
女神の力を取り込んでしまったハルトムートは神ではない。
でも、人間でもない。
――ハルトムートは、神に準ずる者になってしまった。
これが他の神に知られてしまえば、きっとハルトムートは女神を傷つけた罪人として、一瞬で消されてしまうだろう。
存在も、魂も、何もかもない者にされてしまうだろう。
そんなのはいやだ。
女神になるために悠久の時を生きてきた中で、ハルトムートだけなんだ。
ハルトムートだけを私は本当に愛したのだから。
失いたくない。
でも、そのためには力が必要だ。
未熟な女神の私にはまだ力がない。
だけど、あの方法を試したら?
女神の私でさえ、消えて消滅してしまうかもしれない。
それでもいい。
それでもいいから、魔族もこの世界も、そして愛するハルトムートも救いたい。
女神になる勉強中に、他の神から聞いた神だけが使える奇跡がある。
『神がその身の消滅をかけて試練に臨むなら、通常ではありえない力を新たに授かれるという』
私が試練に失敗して消滅したら、この世界の創造主がいなくなりこの世界は崩壊してしまう。
でも、それでもきっと私ごと消滅すればハルトムートが他の神に見つかることはない。
ハルトムートも世界の崩壊と共に、新たな魂として他の神の作った世界の、新たな人生を送れるはずだ。
今の神に準ずる力を持ったハルトムートを神の世界の法に引っかからないようにするには、これしかない。
未熟な女神のフロレンツィアには、これしかもう神に準ずる力を持って暴走状態のハルトムートを止める方法は思いつかなかった。
フロレンツィアが、今何もしなければ、ハルトムートの神に準ずる力は暴走をさらにして、そのうちハルトムート自身を消滅させる。
それか、神に準ずる力の暴走に気づいた他の神が危険を察知して、ハルトムートを消滅しに来るだろう。
だから、ハルトムート、ごめんね。
あなたの意見を聞かずに、あなたを封印することを許して。
フロレンツィアは、ハルトムートの封印の魔法陣を組んでいった。
神に準ずる力を暴走させるハルトムートだけど、女神のフロレンツィア自身が封印の要になれば、フロレンツィアが試練を受ける間の時間稼ぎはできる。
それから、封印をする前にフロレンツィアはハルトムートと幸せな時を過ごした、フロレンツィアのプライベート空間をハルトムートに譲り渡すことにした。
この空間があれば、ハルトムートを支えてくれるだろう。
もしフロレンツィアが試練に失敗して、ハルトムートが別の神の世界に行った時も、何があってもハルトムートとともにあり、支えてくれるはずだ。
それに、この空間の使い方は、ハルトムートと何度も来たことがあるから説明しなくてもハルトムートだけはわかるだろう。
フロレンツィアは、神に準ずる力を持ってしまい眠らされたままのハルトムートを見つめた。
端正に整ったハルトムートの顔は、今は安らかな眠りについているから見ることができない。
フロレンツィアの大好きなハルトムートの金の瞳は閉じたままだ。
「こんなことになって、ごめんなさいハルトムート。もう2度とこうして会うことはないかもしれないけれど、私は必ずあなたを救います。……愛しています、ハルトムート。このプライベート空間は、今後はあなたのものです。」
フロレンツィアは、ハルトムートの口にそっと口付けを落とした。
いつも口付けはハルトムートからだったから、フロレンツィアから口付けをするのはこれがはじめてだ。
「照れてなんかいないで、私からもっと早くハルトムートに口付ければよかったな…………もし、試練を乗り越えて次にハルトムートに会えるなら、今度こそ私から口付けがしたいな。」
後悔に歪んだ顔をしたフロレンツィアは、愛したハルトムートをもう一度見た。
愛する人を今から封印する。
もっと一緒にいたかった。
試練を乗り越えられる可能性はほとんどない。
他の神から聞いた話では、新たに強力な力が与えられるとはいえ、決して神が消滅をかけてやってはいけないことだと教えられた。
それでも、暴走する神の力を持ってしまった、愛するハルトムートを救うにはこれしか方法がない。
私のこの世界で1番愛するハルトムート。
「ハルトムートの人生が良きものとなりますように――――」
悲痛な顔をしたフロレンツィアは、女神の自分を核にして、ハルトムートを封印した。
魔法陣は七色の光を出し、とんでもない風をハルトムートとフロレンツィアを中心に巻き起こした。
ハルトムートを封印するために、フロレンツィアの身体は砂のように崩れ去っていく。
そして、フロレンツィアの核はハルトムートを封印するために、
ハルトムートのプライベート空間となった、桃源郷の桃のキングで眠りについた。
「ハルトムート、いつまでも愛してる…………」
フロレンツィアの呟きだけが、最後にその空間に残された。
ハルトムートを封印したフロレンツィアは、試練に挑むことになった。
神だけが挑むことができる試練の内容は、世界だけが知っている。
他の神や女神も、ましてや今から試練に挑むフロレンツィアもその内容は知らない。
『内容は。
記憶と力を失って新たにレティーツィアとして生まれた女神フロレンツィアが、ハルトムートの封印を解くこと。
桃源郷の桃のキングに眠りについたフロレンツィアの核を取り戻すこと。
女神だった頃の記憶をなくしたレティーツィアが、フロレンツィアの最後の願いである、ハルトムートとの口付けをすること。』
以上の3つだった。
―――――
あの時、ハルトムートが守護の宝石を取り込んで神に準ずる力の暴走を起こした時。
力は抑えられなかったが、ハルトムートにもまだ意識はあった。
溢れ出る力は、ハルトムートの抑えきれない欲望を肥大化させた。
ハルトムートがもう魔族を殺したくないと思いかけても、
『このままでは一生フロレンツィアは魔族を気にして、ハルトムートのものにはならないのだぞ?』と、良くない心の声が囁く。
――抑えられない。
もう、自分では抑えられない。
魔族を殺し尽くしたら、今度はきっとハルトムートはヒト族やエルフ、獣人、竜族、魚人族を殺し尽くしてしまうだろう。
いやだ。こんなのを望んでいたのではない!
誰か助けてくれ。
もう、自分ではこの力を抑えられないのだ……!!
そんな時、フロレンツィアが女神として降臨してくれた。
その光景は、ハルトムートがフロレンツィアに一目惚れした時と同じで、圧倒的なオーラを放ちながら光輝いていた。
「どうして……!どうして、ハルトムート!!」
悲しそうな顔をしたフロレンツィアが私に向かって叫んでいる。
違う。違うんだ!
ワタシは、私は。 フロレンツィアを傷つけるつもりなど、なかったのだ!
ハルトムートは必死に心の中で叫んだ。
だが、力に飲み込まれてしまって自由にならないハルトムートには、フロレンツィアに言葉を発することはできなかった。
すまない、フロレンツィア。
其方を傷つけたくはなかったのだ。
ただ、私は自分の欲望を抑えられなかった愚か者なのだ。
あぁ、フロレンツィア。
私が唯一愛した少女であり、女神フロレンツィア。
わたしはこのまま力に飲み込まれて死んでしまうのだろうか?
せめて、フロレンツィアに謝りたい。
そして、もし次に会うことが叶うのならば、もう一度フロレンツィアと愛を育みたい。
ハルトムートがそう願った時、悲しそうな顔をした女神フロレンツィアによって、強制的にハルトムートの意識は眠りにつかされた。
そして、フロレンツィアに封印された世界で、ハルトムートは新たに黄金竜として役割を与えられた。
黄金竜として封印されたハルトムートは、封印された世界の中でもレティーツィアからハルトムートのプライベート空間を譲られたのだと理解できた。
そして、フロレンツィアがハルトムートを救うために、フロレンツィア自身を核にしてハルトムートの莫大な力をハルトムートごと封印してくれたのもわかった。
それから、何かは詳しくわからなかったが、神に準ずる者となったハルトムートには、凶行のせいでフロレンツィアが途方もない事を挑戦したことも理解できてしまった。
もう一度、フロレンツィアに会いたい。
私は愚かだった。フロレンツィア、愛しているのだ。
神に準ずる者となったハルトムートにはわかる。
もう、この封印を解くことができるのはフロレンツィアだけなのだということを。
そして、きっと途方もない挑戦をしたフロレンツィアには、もうハルトムートは出会うことは難しいのだと。
フロレンツィアがもし挑戦に失敗したら、フロレンツィアは消滅して、この世界は崩壊するのだと。
でも、ハルトムートはフロレンツィアのいない世界で助かってしまうのはいやだ。助かってしまえば、きっとハルトムートはフロレンツィアのことを忘れて、新たな世界で新たな人生を送らなければならなくなる。
ただし、フロレンツィアのいない世界など、なんになるのだ?
フロレンツィアがいないのならば、生きている価値などあるのだろうか?
フロレンツィアは誤解している。
フロレンツィアがいない世界でハルトムートが助かっても、もうハルトムートは幸せにはなれないのだ。
きっと、フロレンツィアに出会う前のハルトムートのように、ただただ人々の役に立つことだけをして、本当の愛を知らない空虚な人生になるだけだ。
もう解かれることがない封印を思いながら、ハルトムートはひたすら後悔をし続けたのだった。
―――――
そんなある日、当然ハルトムートの封印は解かれた。
ありえないと思っていた封印を解かれた瞬間に、その者と婚約の契約が行われた。
その者は、レティーツィアの名乗っていた。
記憶はないようだったが、ハルトムートには本能的にわかった。
この封印を解いた少女のレティーツィアこそ、フロレンツィアに違いない、と。
だが、すぐにレティーツィアはフロレンツィアではないのではないかもしれない、とも思った。
わからない。
この、レティーツィアという少女は、フロレンツィアなのか?
極めて、不確かでまだ確定していない存在に感じた。
そしてハルトムートは、レティーツィアのことを一目見た時に、フロレンツィアの時に感じた懐かしい思いが湧き上がってきた。
愛おしい。
愛している。
やはり、レティーツィアはフロレンツィアなのではないか?
いや、そんなはずはない。
フロレンツィアならば、こんなに力が弱いはずがない。
それとも、レティーツィアはフロレンツィアとは別人なのだろうか?
レティーツィアがフロレンツィアなのではないかと思うような言動をするたび、ハルトムートの心は大きく揺れた。
動揺して、レティーツィアに冷たい態度をとってしまうこともあった。
フロレンツィアに謝りたい。
もう一度会いたい。
そんな思いが強くなった。
けれど、ハルトムートは感情以外の魂のレベルで、レティーツィアのこともどうしようもないほど愛してしまっていた。
こんな思いを抱くのはフロレンツィアに悪いことなのではないか、とハルトムートは思い悩んだ時もあった。
だが、カシノニア王国を乗っ取るハイデマリーを倒すためにレティーツィアと過ごすうちに、やはりレティーツィアはフロレンツィアなのではないか、と思う機会が増えていく。
そして、ハルトムートのレティーツィアへの想いも止まらなくなっていく。
最後のハイデマリーとの戦い。
あの時、レティーツィアはハルトムートを助けてくれた。
――――そして、ハルトムートが口付けると、レティーツィアは女神フロレンツィアの試練を乗り越え、記憶を思い出してくれた。
すまなかった。愛しいフロレンツィア。
……やっと、また会えたのだな。
最後にハルトムートと女神フロレンツィアの記憶を思い出したレティーツィアはお互いに見つめあって笑顔で微笑んだ。
――ハルトムートは思う。
女神フロレンツィアも、レティーツィアも、愛している。
結局、ハルトムートが愛するのは彼女だけなのだ、と――




