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ハルトムートと女神フロレンツィアの過去 1


ハルトムートの過去編です。

長くなってしまったので、1と2の、2つに分けました。



本来の歴史と、レティーツィア達に伝わっている歴史は違う。




『女神による建国神話』では、その時代から5つの国に分かれていたと言われている。そして、『守護の宝石』も5つだったと言われている。だが、それは間違いだ。



――本来の歴史では、国も守護の宝石も1つだった。



確かにヒト族以外に、エルフや獣人、竜族、魚人族など5つの種族はいたし、それぞれが5つの地域に集まる傾向にあった。だが、それでも、それぞれの種族は共存して、1つの国を作っていたのだ。









――はるか昔。

ハルトムートは、カシノニア王国の国王だった。

昔のカシノニア王国は、世界の中心だった。


レティーツィアの時代で知る者はいないが、

5つある全ての国の総称こそ『カシノニア王国』という名前の巨大一大王国だったのだ。




そして、その世界でハルトムートは、まさにこの世界の王だった。




若く聡明な王だと、国民達から慕われて、ハルトムート自身も自分に自信があった。

そして、まだその時代では、ヒト族以外のエルフや獣人、竜族、魚人族は、仲良く暮らしていた時代でもあった。



『私はカシノニア王国の王だ。

何も、私の手に負えないものなどない。

全ては私の思い通りなのだ。』



今では恥ずかしいが、当時のハルトムートはそんなことを本気で思っていた。


カシノニア王国が栄えていくほど、ヒト族やエルフ、獣人、竜族、魚人族はそれぞれの数を増やしていった。

そのせいで、カシノニア王国内では争いが増える機会も多くなった。

以前だったら何も問題がなかったのに、土地や食べ物が足りなくなってきてしまったからだ。


そうすると、心にも余裕がなくなった。

前までは仲良くできていたのに、それぞれの着ている服、姿形、文化、そんな些細なことだけでも争いが起こるようになった。



――ハルトムートはヒト族だが、カシノニア王国の王だ。



なんとかみんなが争わずに、ヒト族、エルフ、獣人、竜族、魚人族

が仲良く暮らせるように、争いはやめるように訴えた。


それでも、カシノニア王国内での争いは止まらなかった。


そして、次第に争いがあるのが普通になっていった。




――それが、ある日を境に変わった。




世界は、魔族に侵攻されてしまったのだ。


カシノニア王国内に多くの魔族が入ってきてしまった。


ハルトムートは、その時初めて魔族という存在を知った。

世界にヒト族、エルフ、獣人、竜族、魚人族以外の生物が生きているなんて、その時になるまで知らなかったのだ。




魔族に対して、ハルトムートは無力だった。


まだ、『守護の宝石』がない時代だったので、ヒト族、エルフ、獣人、竜族、魚人族の誰にも、魔族に対する決定的な対抗手段を持っていなかったのだ。


カシノニア王国の外から来る魔族は、確実にカシノニア王国を蝕んでいった。




『このままではだめだ……世界は終わってしまう』




ハルトムートは、その時代のヒト族やエルフ、獣人、竜族、魚人族と話し合いをすすめた。


そして。

ヒト族は知能を絞って新たな戦略を練り、新たな武器を作って戦った。

エルフは精霊魔法をカシノニア王国に広めて戦いに備え、戦った。

獣族と竜族は強靭な肉体で戦った。

魚人族はカシノニア王国の外の海からやってくる魔族を海から入ってこれないように戦った。



ヒト族やエルフ、獣人、竜族、魚人族。

それぞれが、できる限り戦った。

でも魔族は圧倒的だった。


カシノニア王国は、圧倒的な魔族の力で次第に落ちていった。

残されたのは、かつていた人口の100分の1にも満たなかったかもしれない。



ハルトムート達が『もうだめだ』と諦めた時に、世界には女神が降りてきた。


――――それが、フロレンツィアだった。圧倒的なオーラで、この人が、この世界の女神なのだと一目でわかった。



そして、ハルトムートは初めて一目惚れをした。


言葉では言い表せないが、一目見た瞬間に恋に落ちたのだ。




フロレンツィアは、白銀のようなほとんど白に近いプラチナブロンドの髪、金の瞳の、美しい少女だった。

白で様々な複雑な刺繍が施された、ゆったりとした質の良い服を着た美しい女性。それが、フロレンツィアだった。


フロレンツィアはこの世界を作った女神だと言った。


「わたくしはフロレンツィアと言います。この世界を創った女神です。新たに生まれた魔族からあなた達を救う力を授けましょう。」


そう言って、フロレンツィアはカシノニア王国の王であるハルトムートに『1つの大きな守護の宝石』を渡し、結界を張る力を与えたのだ。




フロレンツィアの『守護の宝石』の力で結界が張られた。その結界は強く、魔族は入ってくることができなくなった。



「あなた達も、魔族も、わたくしの世界の住人です。ですが、まさか、新たに生まれた魔族があんなに凶暴だとは思いませんでした。」



悲しそうにフロレンツィアが嘆いた。


本当は、結界で魔族を外に締め出したくはない。

魔族にも、この世界で幸せに生きてほしい。


そう、フロレンツィアは言っていた。



「フロレンツィア。私がこの世界を守るから安心するのだ!」



ハルトムートは、フロレンツィアを笑顔にしたかった。

そして、カシノニア王国の国王として、ヒト族やエルフ、獣人、竜族、魚人族が幸せに暮らせる世界を守りたかった。



「ふふ。そうですね。ハルトムートに任せれば安心です。」



フロレンツィアは嘆くのをやめて、そう言って笑顔になった。


その笑顔を見るだけでハルトムートは満たされた。



『この笑顔があるのなら、私は何もいらない』



無意識のうちに、ハルトムートの愛する全ては変わっていった。

カシノニア王国から女神フロレンツィアへと、大切なものが移っていっていった。





ハルトムートとフロレンツィアは恋仲になった。


神の世界には帰らずに、フロレンツィアは女神としての力を抑えて人間の姿でカシノニア王国に滞在してくれた。


ハルトムートは愛するフロレンツィアと両思いになれて嬉しかった。まるで、夢でも見てるような幸せな毎日だった。



だが、1つだけフロレンツィアに満足できないことがあった。


――それは、魔族。


魔族の存在は、ずっとフロレンツィアの心を占め続けた。

守護の宝石の結界でカシノニア王国の外に追いやれたのに、未だにフロレンツィアの心の中には、魔族への思いがあった。


ハルトムートは、それが気に食わなかった。



「わたくしが創った世界がこんな素晴らしい世界になって、わたくしは嬉しいです。ですが、やはり魔族にも幸せになってほしいです。守護の宝石を作ってしまったので、多くの力を使ってしまいましたが、魔族のために何かできないでしょうか……」

「魔族など、フロレンツィアが気にしなくても良いのだ。あやつらは、この結界から追い出されて自業自得なのだ。」

「いいえ、違います。魔族もわたくしの創った世界の大切な子どもたちです。愛しい存在です。

あの子達は負の感情を押し付けられてしまった魔族なので凶暴ですが、それでも幸せに生きてほしいのです。」

「…………」



フロレンツィアは、ことあるごとに魔族のことを気にかけて心配をしていた。



『私のフロレンツィアなのに、なぜ魔族どものことを考えるのだ。フロレンツィアは、恋人の私以外にも、この世界の全てを愛してしまっている。だが、その中でも魔族は特に気にかけられている。

気に入らない。魔族はフロレンツィアと私にとって邪魔だな……』



魔族がいなくなれば、フロレンツィアを独り占めできるのではないか?


フロレンツィアを愛すほど、魔族を労わるフロレンツィアに気がつく。

ハルトムートはそんなフロレンツィアを見る内に、そんな考えがハルトムートの頭の中を占めるようになっていったのだ。




『フロレンツィアを支えられる力がほしい。カシノニア王国の国王なだけではだめだ。』



ある日、ハルトムートはフロレンツィアからもらった守護の宝石の力を自分自身に向けた。



うぐっ…………う、うぁああああ゛っ!!!!!!!!



強烈な暴力的な力がハルトムートの身体を蝕んで、莫大な女神の与えた力が全てハルトムートに注がれた。


ハルトムートは身体が作り変わるのを感じた。



『力が湧いてくる。この力があれば、私が魔族を滅ぼして、フロレンツィアを憂いをなくすことができるはずだ……!!』



入ってくる女神の壮絶な力は辛かったが、フロレンツィアのことを思うとハルトムートは耐えられた。


これで、フロレンツィアと私との間に邪魔者はいなくなる……




ハルトムートの凶行により、カシノニア王国に張られていた全ての結界は崩壊した。

平和だった世界は、一瞬で崩れ去り、魔族による虐殺が再開されてしまった。



異変に気づき駆けつけてきたフロレンツィアは、女神の力を取り込んで魔族を倒しているハルトムート見て衝撃を受けた。



フロレンツィアにとって、ヒト族やエルフ、獣人、竜族、魚人族、それに魔族のみんなが全て大切な存在だった。

その中でも、はじめての恋人のハルトムートは特別だが、どの種族も等しく愛していた。


それに、フロレンツィアは知っていた。

魔族が凶暴になったのは、ヒト族やエルフ、獣人、竜族、魚人族の負の感情を押し付けられて生まれた存在だから、ということを。


フロレンツィアは女神として、まだまだ未熟な存在だ。


はじめて創った世界で、負の感情を上手く処理できなかった。

そして、魔族という種族が、他の種族の全ての負の感情を背負って生まれてしまったのだ。


神は世界を創って一人前だ。

フロレンツィアも自分の世界を苦労してやっと創造できたので、一人前の女神になったばかりだ。

だが、できた世界はフロレンツィアの理想とは違う世界になってしまった。


――フロレンツィアが望んでいたのは、全ての種族が幸せになる世界。


負の感情なんて、見て見ぬふりをした。


そうして、ヒト族やエルフ、獣人、竜族、魚人族を創った。


満足していた。

世界は幸せで溢れていたから。


なのに、彼らは争いを始めてしまった。


そして気がついたら、――世界は負の感情だらけになっていた。




フロレンツィアが創った世界は、フロレンツィアの意図とは別に負の感情を押し付ける存在として魔族を作り出してしまった。


海の底に溜まりきらなくなった負の感情は、魔族を生み出す。

魔族達は、生まれた瞬間から、誰かの負の感情を押し付けられて、心を壊してしまうのだ。

永遠に負の感情に蝕まれる魔族。

フロレンツィアは、苦しむ魔族をなんとかしてあげたいと思った。


だが、カシノニア王国に入り込んで虐殺を繰り返す魔族の行いは、さすがのフロレンツィアでも許せなかった。


フロレンツィアは、ヒト族やエルフ、獣人、竜族、魚人族を守らなければならなかった。

もちろん負の感情を押し付けられた魔族だけを除け者にしたくなかったが、その時のフロレンツィアには魔族に溜まった負の感情を処理できる力はなかった。

だから、守護の宝石をこの世界の王であるハルトムートに授けて結界を張らせたのだ。


しかし、負の感情を押し付けられてしまった魔族は仲間外れにされてしまった。それをなんとかしたかった。

フロレンツィアにとっては、魔族もヒト族やエルフ、獣人、竜族、魚人族と変わらない、フロレンツィアの愛する者たちに変わりはない。






ハルトムートと予期せずに恋に落ちて恋人になったあとも、魔族のことが気にかかって、ハルトムートとは口付け以上のことはできなかった。



「……フロレンツィア……」



ハルトムートが色っぽく低い声でフロレンツィアに口付け以上のことを望んでいるのは感じていた。


でも、自分の生み出した子どもの同然の魔族が辛い時に、自分だけが幸せでいることなど、どうしても許せなかった。



「フロレンツィア……そろそろ、私もフロレンツィアと先に進みたいのだが……」

「ごめんなさい、ハルトムート。どうしても魔族のことが気になって、これ以上は……」

「っ! フロレンツィア、…………愛している」

「ごめんなさっ――んっ」

「もう謝らないでいい。だから、黙ってくれ。この口は私が塞ぐ。」



そう苦しそうな顔で言うハルトムートは、フロレンツィアの息が苦しくなるまで深い口付けをするのだった。



フロレンツィアがもっと力がある女神なら、世界を創造したあとの法則ができてしまったこんな状況でも魔族を救えただろう。


だが、この世界を創造した女神のフロレンツィアとて、すでにできてしまったこの世界の法則を曲げるには力が足りなかった。


だから、フロレンツィアはこの世界の愛する者を救うために、どうしたらいいのかわからなかった。








それなのに――




フロレンツィアが愛したハルトムートは、フロレンツィアが大切にして救いたいと思っていた魔族を殺していた。


しかも、ハルトムートにフロレンツィアが持てる力を注いで渡した守護の宝石を悪用されてしまっていた。


女神であるフロレンツィアの力を取り込んだハルトムートは、神に匹敵する力をコントロールできず、力に飲み込まれて暴走していた。


フロレンツィアには時間がなかった。

迷っている間にも、負の感情に支配された魔族はカシノニア王国に攻め込んで、ヒト族やエルフ、獣人、竜族、魚人族を虐殺している。

それに、女神の力を飲み込んで力を暴走させたハルトムートも、魔族達を容赦なく殺していっている。



――――まるで、地獄だわ




フロレンツィアは、人から女神に姿を変えた。



「どうして……!どうして、ハルトムート!!」


思わずフロレンツィアはハルトムートに叫んだ。

ハルトムートにはフロレンツィアの声は届いていないようで、返事はない。


ハルトムートはなおも強大な力で魔族を殺している。


そして、神の力を手に入れて暴走するハルトムートから女神として力を奪った。 愛するハルトムートの意識を無理矢理落として、強制的な眠りにつかせた。


フロレンツィアがハルトムートを眠らせた間も、魔族の虐殺は続いている。

早く止めないと……!



そして、フロレンツィアは急いで一時的にカシノニア王国に結界を張ったのだった。



結界が張られて騒動が落ち着いた後も、ハルトムートの凶行による影響は大きかった。

もう、ヒト族やエルフ、獣人、竜族、魚人族がカシノニア王国として1つにまとまることは出来なかった。

それくらい、『ヒト族』と、『エルフや獣人、竜族、魚人族』の間には溝ができてしまっていたのだ。


レティーツィアは、彼らの望みを聞いた。


『エルフや獣人、竜族、魚人族は、それぞれに分かれて別の国を持ちたい』と言った。


フロレンツィアはカシノニア王国を5つに分けることにした。

ヒト族やエルフ、獣人、竜族、魚人族、それぞれが中心の種族になって暮らす5つの国を作ることにしたのだ。


ただし、最初にフロレンツィアが守護の宝石を作った時に、守護の宝石はハルトムート、つまりヒト族が使えるように法則を定めてしまっていた。 なので、どの国にも守護の宝石で結界を張る王族という役割を置くことにした。


そして、フロレンツィアは新しく5つの守護の宝石を作った。

前の守護の宝石ように大きくはない、5分の1のサイズに分かれた5つの守護の宝石だ。


そして、新しく作った守護の宝石には、もう2度と女神の力が奪われないようにしておいた。


その守護の宝石を、ハルトムートの兄弟達王子達に渡して、カシノニア国とそれ以外の4つの国に結界を張ってもらった。

そして、新たにヒト族やエルフ、獣人、竜族、魚人族、それぞれの国が誕生したのだった。




――それが、本当の歴史だ。『女神による建国神話』に残らなかったが、それが本当の歴史だ。



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