エイバルとの再会
「ふぅん、君たちやっぱり乗り込んできたんだぁ。」
俺の目の前には知ってる、いや知りすぎている男がニヤつきならが立っていた。
こいつは、レティーツィア様を裏切ってハイデマリー側についた、元レティーツィア様の筆頭文官のエイバルだ。
「エイバル、貴様……ッ!」
思わず俺はエイバルに向けて言いようのない怒りの声をあげていた。
「あっれー? アードルフ、怒って顔が真っ赤になってるよぉ?
それとも、僕に会えて嬉しいのかな?」
「お、お前! そんなわけあるはずないだろう!!」
「ふふっ、そんなムキになっちゃってさぁ。 アードルフは可愛いねぇ。 けど、まぁアードルフで遊ぶのもこの辺にしようかなぁ。
…………君たちはレティーツィアとは一緒じゃないの、かな?」
「ッ!!我が女神を、レティーツィア様を呼び捨てにするな、エイバル!!」
オーブリーが堪えきれずに反論する。
オーブリー、何お前まで出てきてるんだよ!
俺なんか見捨てて、ギーゼラや他の護衛騎士達を連れて逃げてくれたらよかったのに……!
「おや、オーブリー。 君もいたんだねぇ。
君の気持ち悪いレティーツィア様愛は、こんな状況でも健在なんだねぇ。 しかし、君も僕に見つかって王城騎士達に囲まれてるのに、よくもまぁそう強気だよねぇ。」
「エイバル、君に我が女神レティーツィア様を侮辱する資格はない!」
エイバルがオーブリーやアードルフを馬鹿にしたように揶揄う。
その中に、元側近なのに主だったレティーツィア様を侮辱したような発言があり、オーブリーやアードルフの怒りを煽っていた。
「それはどうかなぁ? あぁ、でも元は同じレティーツィア様の側近として言わせてもらうとね、君たちは惜しかったよ。ただ、君たちより僕の方が賢かったってだけなんだけどさぁ。
僕なら高貴な方用の地下の牢屋から調べたと思うなぁ。」
今更、何を好き勝手に……
ましてやエイバル、お前は裏切り者じゃないか……
「裏切り者のお前の言葉など……!」
「はぁ。 アードルフ、君は真っ直ぐすぎる。 まぁ、それが君だから仕方がないんだけど……………ん? あぁ、そろそろ時間だね。
君たちを連れて行かないといけないようだ。久しぶりにもう少し話したかったんだけど、残念だよねぇ。」
だが、エイバルは王城騎士に何かを囁かれたようで、オーブリーやアードルフと遊ぶのを渋々やめたようだ。そして、エイバルは王城騎士にアードルフとオーブリーを捕縛するように命令を下した。
「やめろっ! エイバル、貴様は同じレティーツィア様の側近だった我々をまた裏切るのか?!」
「……………君は、君たちは、一体何をもって裏切りと言うのさ―――」
王城騎士と激しい闘いをしているアードルフはエイバルに叫んで呼びかけた。 だが、エイバルは感情を映していないような瞳でアードルフを見て、ぽつりと聞こえないような小さな声で呟いただけだった。
「アードルフとオーブリーの2人だけで王城に乗り込んでくる可能性は低い。 アードルフが1人じゃなかった以上、おそらく王城内にレティーツィアの他の護衛騎士達が侵入しているはずだ。今すぐ、捜索にあたれ!アードルフとオーブリーは僕が連れて行く。」
「「「はっ!」」」
エイバルはアードルフやオーブリーを拘束させた後、残りの王城騎士をレティーツィア様の護衛騎士の捜索にあてて動かした。
今この場にいるのは、アードルフとオーブリーとエイバル、それから2人を拘束するための王城騎士が4人だ。
「エイバル。貴様、我らをどこに連れて行くつもりだ?」
アードルフは拘束されて無理矢理歩かされながら、エイバルに問いかけた。
「答えろ、エイバル!」
「アードルフ、叫んでいても何も解決しないよ? それに、君だって気づいているんだろう? 僕は今ハイデマリー様の配下なんだよ?
当然君たちを連れて行く先も、ハイデマリー様の所に決まっていいるじゃないか?」
エイバルはアードルフの方は見ずに、王城騎士達の先頭を歩きながらそっけなく答えた。
「エイバル。 いくら僕たちを裏切ったとはいえ、レティーツィア様を崖から落としたハイデマリーの配下になるなんて………」
「………………」
思わず言ったオーブリーの言葉へのエイバルの返事はなかった。
エイバルはアードルフやオーブリー達を拘束して歩かせている王城騎士の前を歩いていた。だから、アードルフにはエイバルがその時一体どんな表情をしていたのかも見えなかった。
―――――
エイバルが、アードルフとオーブリーを王城騎士達に拘束されて連れて行かれた先にはハイデマリーがいた。
ハイデマリーはカシノニア王国の国王しか座ってはいけない椅子に座って、何かの書類を処理している所のようだった。
「ハイデマリー様、やはりレティーツィアの側近が侵入してきましたので捕まえてきました。」
「まぁあっ! エイバル、やはりあなたは有能ね! 国境沿いにいた王城騎士達と連絡が取れなくなって、行方が掴めずにいたレティーツィアの側近をこんなに簡単に捕まえてくれるなんて。 私の頭痛の種が1つ減ったわ。」
「当然のことをしたまでです。」
「いえ、やはりあなたの手柄だわ。 私の側近や王城騎士達にも、レティーツィアの側近が国境沿いから動いたら捕まえるようにって命令していたはずなのに、知らない間にこの王城の中まで侵入されてしまっていたみたいだし。 ほんとに、あなた以外は役に立ちそうにないわぁ。」
「滅相もございません。」
「そうねぇ、ご褒美に何かあげないといけないわよね。 うふふ、何がいいかしら?」
いやらしく微笑みながら、ハイデマリーはエイバルを見つめた。
……なんだ、このハイデマリーの笑い方は。
この人はこんな笑い方をする人ではなかったはずだ。
エイバルへのハイデマリーの見つめ方が、以前会ったことのハイデマリーとは雰囲気は明らかに異なっていた。それを見て、思わずアードルフとオーブリーは得体の知れない気持ち悪さを感じたのだった。
「もし可能でしたら、元側近だったアードルフやオーブリーの監視をさせていたいだきたいと思います。」
「あら? それはなぜ? ……………もしかして、わたくしを裏切るつもりかしら?」
ハイデマリーは見た目は優しい笑顔でエイバルに問いかけた。
――だが、その優しい笑顔はレティーツィア様とは徹底的に違う。
レティーツィア様の笑顔が相手を包み込むような優しい笑顔なら、ハイデマリーの笑顔は優しさという仮面を被っただけの表面的な物だ。
――ピリッとした緊張感がハイデマリーから漂ってきている。
エイバル、お前こんな女の配下になって働いてきていたのか。
アードルフは、なんともいない緊張感の中で身を固くした。
「それはありません。 ただ、彼らの監視は私が適任だと思っただけです。」
「……どうしてかしら?」
「アードルフとオーブリーを捕まえたのは、私です。 他の者には、彼らの行動すら予測できていませんでした。」
「……だからなんだと言うの?」
「えぇ、だから、そういうことです。」
「? エイバル、あなた何が言いたいのかしら? わたくしも気が長い方じゃないのだけれど……」
イライラとしたハイデマリーの気配が伝わってくる。
対するエイバルは特に気にした様子もなく、毅然とした様子で応対してしる。
「私以外が監視にあたっても、彼らは逃げ出せてしまうでしょう。ですが、元レティーツィアの側近だった私が監視をすれば、彼らだって逃げ出せないはずです。」
「まぁ、……それもそうね」
「ですから、誰よりも彼らを捕まえた私が監視するのが良いかと思いました」
「あなたが、彼らを逃す気はない。……つまりは、そういうことかしら?」
ハイデマリーは嘘は許さないという厳しい目でエイバルを見つめた。
「えぇ、もちろんです」
対するエイバルも、何も嘘はついていないという顔で言い切っていた。
「……………いいわ。
レティーツィアの側近の彼らはあなたに任せるわ。」
「かしこまりました。」
恭しくエイバルはハイデマリーに頭を下げた。
「それじゃあ、わたくしはもう行くわ。 明日にはわたくしの結婚式だっていうのに、いつまでも言うことを聞かない貴族達を懲らしめに行かなくちゃいけないもの。」
「………」
ハイデマリーは、頭を下げるエイバルにアードルフとオーブリーを任せると、機嫌が良さそうに部屋から出ていった。
ハイデマリーが立ち去った後、アードルフは僅かにエイバルが私たちを逃してくれるのではないかと期待した。
だが、すぐにその期待はエイバルによって裏切られた。
「君たちがなにを期待しているつもりか知らないけどさ、君たちは今から牢屋行きだよ?」
「「………………」」
結局、アードルフとオーブリーは、エイバル指揮の元で牢屋に連れて行かれて監視されることになってしまったのだった。
牢屋の中。
俺の横でオーブリーが、「我が女神、お役に立てずにもゔじわげありまぜんんッ」と、悔しそうな顔で泣いていた。
だが、泣いていないが俺も同じ気持ちだった。レティーツィア様と別れてすぐに捕まってしまってしまって、悔しくて仕方がなかった。
レティーツィア様は、みんなは、無事だろうか―――




