レティーツィアの大切な側近達
アードルフとオーブリー、ギーゼラは王城の中に潜入中である。
今ここにレティーツィア様とハルトムートはいない。
なぜなら、王城へ向かう秘密の地下通路の途中で、レティーツィア様が何か気になることがあるとおっしゃったからだ。
レティーツィア様はその気になることを、
「大丈夫です。 私の気のせいかもしれませんし、何でもないと思うのです……」と言っていたが、とても気になっているようだった。
それは、計画を練って王城の秘密の地下通路を出る直前も、何か気になっているご様子だった。
だから、私たちはレティーツィア様に気になることを優先していただき、スッキリと解決してもらうことにしたのだ。
秘密の地下通路の移動の間、私はレティーツィア様の飛行魔法という精霊魔法の間は怖かったわけではないが、身体が震えて意識もあまりないような状態だった。 一応、念のために言うが、私は怖かったわけではないからな? たまたま身体が震えただけだからな?
まぁ、つまりそんな状態だったので、ギーゼラやオーブリーの服を掴ませてもらっていたのだ。 誠に筆頭護衛騎士として不甲斐ないのだが、それでもその間も筆頭護衛騎士としての警戒は怠ってはいなかった。 だが、秘密の地下通路を通っているときにレティーツィア様が言うような異変は何も感じなかった。 そしてそれは、私だけではなく、副護衛騎士のオーブリーや他の護衛騎士達もそうで、何も異変は感じなかったようだった。
―――だが、レティーツィア様は何かを感じられたのは間違いない。
当初の計画では、王城内をレティーツィア様とハルトムート、俺、オーブリー、ギーゼラと護衛騎士達で、ハイデマリーを探し出して討つ計画だった。
だが、レティーツィア様がこういう風に引っかかるときは、何かあるときだと思う。その思いは、俺だけでなくギーゼラやオーブリー、他の護衛騎士達も同感らしく、何かあるのだと確信していた。
ハイデマリーがレティーツィア様を崖から落としたあの日も、レティーツィア様は何日も前から、
「何かわからないのですが、嫌な予感がするんです」
と言って、怖がっている様子だった。
私たちは「何もありません。大丈夫ですよ」、と言ってレティーツィア様をお慰めしていたが、まさかレティーツィア様の言う通り、ハイデマリーがレティーツィア様を崖から落として、カシノニア王国を乗っ取るなんて予想外だった。
そして、私たちはあの国境沿いで反省したのだ。
もうないだろうが、『もしもう一度やり直せるのならば、レティーツィア様が今度何かあると言ったときは、何があってもレティーツィア様を信じて行動しよう』とそう誓ったのだ。
だから、俺はオーブリーやギーゼラと話し合って、レティーツィア様が気になっていることを解消してもらうことにした。
俺が1人で計画通り王城に潜伏すれば、身軽に動けて王城の内情もわかるし、ハイデマリーを討つこともできる。 その間に、副護衛騎士のオーブリーとギーゼラと他の護衛騎士達をレティーツィア様につければ、レティーツィア様の疑問も解消できるし、安全も確保できる。
そう思って提案したのだが………
「そんなのだめです。 確かに気になりますけど、アードルフが1人だけで王城に潜入するなんて危険すぎます! それに、オーブリーやギーゼラ、護衛騎士達まで、全員私に付けるなんて………、アードルフに何かあったらどうするんですか?!」
あぁ、優しいレティーツィア様はご自分より我々を心配して下さるんだな……
「それに、私が計画通りみんなと王城に行けば良いだけのことです。 アードルフ、あなた1人でハイデマリーの所に行くだなんて言ってますけど、それは1人でハイデマリーを討つということですよね? でも、そんなことを1人でしたら、どうやったってアードルフは生きて帰ってくるのですか?」
「………」
「……………アードルフ。 あなた、1人でハイデマリーを討ち取ったあと、逝くことを覚悟しているのですね?」
「!!」
静かな瞳でレティーツィア様は問われました。
そうです、レティーツィア様。
私は、いや、俺は死ぬのも覚悟でハイデマリーを討ち取りに行くんです。
それに、最初から元々、この計画は危険性が高いものだったんです。
もし、ヴァルトラーナ国王までハイデマリーと共謀していたら、レティーツィア様は実の父親を討たなければならなくなる。 そうしたら、心優しいレティーツィア様はカシノニア王国の国民のために、そして我々側近のために、実の父親を殺さなくては行けなくなります。
きっと、レティーツィア様ならあのとき言ってくれたように、カシノニア王国のためにやってくれるでしょう。 それに、カシノニア王国のためを思えば、レティーツィア王女はハイデマリーと共謀していた場合はヴァルトラーナ国王を討ち取るのが筋なのですから。
私も、カシノニア王国の国民としてはそう思います。
―――でも、一個人、アードルフとしては、レティーツィア様には辛い思いをして欲しくないのです。
オーブリーが言っていた、サクノニア王国への亡命でもいい。
レティーツィアに幸せになってほしいのです。
俺がいなくても、レティーツィア様大好き変人の副護衛騎士のオーブリーと、腹黒いくせに抜けている筆頭側仕えのギーゼラ、それからレティーツィア様に忠誠を誓う護衛騎士達がいれば、レティーツィア様はきっと何とかなるはずなんです。
「………やはり、そうですか。 アードルフなら、自分が犠牲になってでも私のために動きそうだな、と嫌な予感がしたんです。
でも、私は、レティーツィアはそんなこと望んでいません!
アードルフ、いなくならないでください。私は、もう誰も、失いたくないんです!」
「れ、レティーツィア、さま……」
「それに、私は我が儘なんです! アードルフ達が私の気になることをやらせてくれると言うなら、私は調べに行きます。 けど、アードルフが1人でハイデマリーを討ちに行くのは許せません。 もし行くなら、オーブリーも、ギーゼラも、他の護衛騎士のみんなも、アードルフと一緒に行ってもらいます。」
「そんな……ッ」
「自慢じゃないですが、私の護衛騎士達はとてつもなくエリートで強いんです! 側仕えや文官だって、不意打ちの武力では劣るかもしれませんが、知力や知恵では誰にも負けないぐらい頭がキレるエリート集団なんです! 護衛騎士達と、筆頭側仕えのギーゼラが一緒なら、私の側近はもう誰も失わずにすむはずですから!」
「それでは、側近全員を私に付けてしまったら、レティーツィアさまは…………?」
呆然となりながら俺は尋ねた。
だって、それではレティーツィア様が1人になってしまうではないか……
「む? 安心しろ! レティーツィアには、私が付いているからな、ハハハハハッ!!」
「?」
「そういうことです、アードルフ。ハルトムートがいますから1人じゃありません。 それに、私は精霊魔法も使えますしね!」
にっこりとレティーツィア様は私に微笑みかけられた。
「むむ! レティーツィア、その可愛らしい顔は私にだけ見せるように、と言ったではないか!」
「へ? 可愛らしい? 何を言ってるんですか、ハルトムート。 今のは別に普通に笑っただけですよ?」
「レティーツィア、其方わかっておらぬのだ。 明らかに其方に好意を持っている、男にそのような顔を見せるなど、だめだ!」
「えぇ? アードルフは側近ですよ? ハルトムート、そんなことを言ったら、私はハルトムート以外に笑いかけられなくなってしまいますよ。」
「それでいいではないか。私だけに微笑んでくれ。」
「ええええっ。 ハルトムート、それはさすがに無理ですよ。」
「無理って、そんなあっさりと…………うおぉ、レティーツィアああああっ!」
困った顔で断るレティーツィア様に、ハルトムートはレティーツィア様を閉じ込めるように抱きしめた。
「おい、ハルトムート! 我が女神であるレティーツィア様にそんなに簡単に触れるな!」
「オーブリー言う通りよ、ハルトムート。 レティーツィア様がお許しになっているからって、『レティーツィア』なんて、馴れ馴れしく呼ぶのも腹立たしいのに、抱きつくなんて論外よ! レティーツィア様から、離れなさい!」
「嫌だぁ〜! レティーツィアは、私のものなのだ〜!」
「我が女神が、ハルトムートの物だと?!! ありえない!
ハルトムート、君はなんと言う無礼なやつなんだ! とにかく、レティーツィア様から離れるんだ!」
俺がレティーツィア様の言葉に感動している間に、レティーツィア様に抱きつくハルトムートを引き剥がそうとオーブリーとギーゼラが奮闘していた。 他の護衛騎士達も、オーブリーとギーゼラに続いて、ハルトムートをレティーツィア様から引き剥がそうとしている。
でも、肝心のハルトムートに抱きつかれたレティーツィア様は、その状況でも幸せそうに微笑んでいらっしゃる。
あぁ、レティーツィア様。
あなたはハルトムートの前ではそのように素直に笑えるようになれたのですね……
俺はなぜか寂しさを感じながらも、レティーツィア様の幸せそうな笑顔を見て、どこか嬉しくもあった。
「アードルフ、あなたもこっちにいらっしゃい!」
「!」
レティーツィア様は、目の前にいた俺の手を戸惑いもなく大切そうに両手で掴むと嬉しそうに笑っていた。
「私は、これからもあなた達とずっと一緒にいたいわ!」
「!!」
レティーツィア様はそれはそれは可愛らしい笑顔で俺に笑いかけられた。
「アァァっ! レティーツィア様、なぜアードルフなどの手を繋がれるのですかぁ! 僕の手も! 我が女神、僕の手も握ってくださいぃぃぃぃぃ!」
「オーブリー、気持ち悪いわよ! レティーツィア様、男のアードルフより、私の手の方が握りやすいと思うんです。 だから、レティーツィア様、握るならアードルフより私の手にしませんか?」
「レティーツィア様〜、なぜアードルフなのですかぁ。 筆頭護衛騎士の手、だからなのですか〜!」「俺の手も握ってくだざいぃ〜」「アードルフ、羨ましいぞ〜!」
俺がレティーツィア様に手を握ってもらったことで、オーブリーやギーゼラ、他の護衛騎士達の俺への恨みつらみが飛んでくる。
だが、もうそんなこと、関係ない。
レティーツィア様が、俺の唯一の主が俺を求めてくれる。ただそれだけで、俺はもう、この世界の誰よりも幸せで仕方がないんだ!
だが、その後の俺の手を握られたレティーツィア様は、ハルトムートから、
「むむむ、レティーツィア! また、其奴にそんな可愛らしい笑顔を見せて、しかも手を握るなど……! 私以外に、笑いかけてほしくないと言っているのにぃぃっ! もう、レティーツィアはこのまま私の腕の中から解放してやらんからな!」
と、言って拗ねて抱きついてくるハルトムートと、
オーブリーやギーゼラ、他の護衛騎士達を、宥めるために大変苦労されることになっておられた。
だが、宥めるのに可愛らしく苦労されているレティーツィア様には悪いが、俺は幸せで仕方がないので、予想外に今日は俺の忘れられない大切な日になった今日に感謝している。
―――――
そんな俺たちは、レティーツィア様とハルトムートと別れた後、裏切り者の元レティーツィア様の筆頭文官のエイバルと対峙することになってしまったのだった。




