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ハルトムートの記憶


―――ハルトムートの脳裏には思い出したくない、辛い記憶が甦ってくる。



「どうして……!どうして、ハルトムート!!」



悲しそうにハルトムートに問いかけてくる少女。

――その人は、ハルトムートが唯一愛した女性だった。



違う。違うんだ!

ワタシは、私は。 *******を傷つけるつもりなど、なかったのだ!



伝えたい言葉は沢山あるのに、ハルトムートは悲しむ少女に何も言葉をかけられなかった。

なぜなら、ハルトムートは少女が1番大切にしていたものを何もかも奪ってしまったからだ。


少女は誰にでも優しく、ほがらかで。 ハルトムートのことも大切に愛しんでくれていた。


わかっていた。 少女が優しい人だと。

そんなことは、初めて少女に会った時からハルトムートにはわかっていたのだ。



……なのに、なのに!


ハルトムートは我慢ができなかった……!!

――ハルトムートは己の欲望を抑えることができなかったのだ。



そうして、結局、1番愛して求めていた少女を、ハルトムートが1番傷つけてしまった……



「どうして……!どうして、ハルトムート!!」

あの少女の声が、ハルトムートの耳から離れない――






―――――






「ハルトムート? ハルトムート、聞こえていますか? ハルトムート〜? ……あれ? 本当に聞こえてないんですか?」



レティーツィアはハルトムートに呼びかける。


秘密の地下通路に入ったは良いが、ハルトムートの様子がおかしくなってしまったようだ。


ハルトムートと打ち合わせをして相談したいことがあったんだけど、ハルトムートは一体どうしたんだろう?


何か様子が変なんだよね。


これは、私が秘密の地下通路を開けるためにハルトムートの異変に気がつけなかったせいだ。



「なんと……!我が女神レティーツィア様の声を無視するとは、許せまんねぇ。 レティーツィア様、此奴の処分はこのオーブリーにお任せいただいてもよろしいでしょうか?」



私がぼんやりとした様子のハルトムートに声をかけているうちに、オーブリーがハルトムートに対して危険な発言をしてきた。



何言ってるんだ、オーブリー。


見てわからないの?ハルトムートは目がうつろになっていて、何処かここではないような場所を見ているような、普通じゃない状況なんだよ?


いきなり、処分だなんて……ダメに決まってるじゃない!!



「え、状況……? オーブリー、あなた、処分って何を言ってるんですか?! 恐ろしいことをそんな素敵な笑顔で言わないでください! ダメですよ、処分なんて。 絶対に、ハルトムートを処分なんてしちゃダメですからね!」


「あぁ、そんなときまで我が女神はお優しいのですね……!」


「お、オーブリー。 気持ちが悪いですから、そんな目で見つめたまま、泣かないで下さい。 今はハルトムートを起こさないといけないんですから! それ以上泣くのは、ダ メ、ですからね!」


「うぅ……我が女神レティーツィア様の仰せのままにっ!」



はぁ。オーブリーを止められたけど、なんだか疲れたよ。

オーブリーは好きだけど、気持ちの悪いオーブリーはやっぱり主の私だって気持ち良くはないんだから。


ただ、気持ち悪くなったオーブリーを止められるのは私しかいないから、主の私が止めるしかないんだけど………



「オーブリー、少し大人しくしててください。ギーゼラ!」


「はっ!」


「やめろ!僕をレティーツィア様から離すなど、この世界から太陽を奪うつもりかぁあああ!」


「はいはい、オーブリー。 あなたはレティーツィア様の邪魔にならないように、私たちと少しあちらに行きましょうね!」



私がギーゼラを呼びかけると、お任せください!、とばかりにオーブリーを私から離れた場所に移動させてくれた。


その間、オーブリーは抵抗していたが、護衛騎士に比べてか弱い筆頭側仕えのギーゼラに抵抗はできないようで、ズルズルと引きずられていった。


それで、なぜかギーゼラに連れていかれるオーブリーをアードルフや他の護衛騎士達が哀れそうに見つめていた。 中には、両手を合わせて合掌をしている側近で見える。


ん? どうしたんだろう?

なんで、みんなそんな顔でギーゼラに連れていかれるオーブリーを哀れそうな目で見るのだろう? ギーゼラは優しいのに、おかしいね。



「ハルトムート、起きて下さいハルトムート!ハルトムート〜、ハルトムート〜!!」



ギーゼラに連れて行かれているオーブリーはおいといて、私はぼんやりしたまま目覚めないハルトムートに呼びかけ続けた。







―――――






私の名を呼ぶ声がする。


――あぁ、愛しい声だ。 この声を私は求めていたのだ。


そして、私の視界はハッキリしてくる。



「ハルトムート〜!」


「む? その声はレティーツィアか? そんなに慌てて、どうしたのだ?」



そう、私が声をかけると、少しムッとしたような顔をしたレティーツィアが頬を膨らませた。


なんだ? なぜ、機嫌が悪いのだ?



「……どうしたのだ、レティーツィア?」


「むぅ。 ハルトムートが悪いんです。 急にぼーっとしておかしくなったまま、私が呼びかけても返事も何もなかったんですから!」


「私が? まさか。 私がレティーツィアの呼びかけに応じぬなど、あるわけがない。」



私がそういうとレティーツィアはまた拗ねたような顔をした。



「あ〜。その様子じゃ、私の言ってること、信じてませんね?

ほんとですよ? ハルトムートったら、私が振り返ったら様子がおかしくなってたんですから。 何度も私、ハルトムート、って呼びかけてたんですから!

ねぇ、アードルフ!そうよね?」



レティーツィアが可愛らしく、アードルフに同意を求めるように呼びかけた。



「いかにも。 レティーツィア様はそれは可愛らしく何度もハルトムート、と呼んでいらっしゃいました。それにも関わらず、ハルトムート様ときたら返事もせず………………全く、どうしてやろうかと思いましたよ」


「え? アードルフ、最後何を言ったの? 最後の方、何かボソッと言わなかった? 小さい声で上手く聞き取れなかったんだけど。」


「レティーツィア様、お気になさらずとも大丈夫です。」


「そ、そう?」


「そうです」


「うーん……なんだかわからないけど、アードルフがそう言うなら、それならいいです。」



アードルフはにっこりと笑って、優しい微笑みをレティーツィアに向けていた。



……だから、アードルフよ。

そのように恨みがましい目で私を睨みつけてくるな。



だが、アードルフのこの恨みがましい目と、向こうでギーゼラに押さえつけられているオーブリーの様子を見れば、レティーツィアの言っていることは本当なのだろう。

あのレティーツィアをためにしか動かない、オーブリーとアードルフとギーゼラの3人が動いているのだ。


どうやら私は、*******のことを思い出して、ぼんやりしてしまっていたようだな……



「それで、レティーツィア? 私に何か言いたいことがあるのか?」


「あ、はい、そうなんです。 王城まで急いでみんなを連れて行きたんですけど、この国境沿いの地下からでは距離があるので、どうしようかなって思って。 それを、ハルトムートに相談したかったんです。」


「む? 精霊魔法を使えば良いのではないか?」


「え、いや、それは無理ですよ。 だって、ハルトムート、アードルフ達は精霊魔法が使えないんですよ? だから、ハルトムートの背中にみんなを乗せてもらえたり、何か方法がないかな〜、なんて思って。」


「私の背中に乗せるのは許可できん。」


「え? なぜですか? 私のことは乗せてくれたじゃないですか?」


「当たり前だ。レティーツィアは私の背中に乗っても良いに決まっている。 だが、他はだめだ。レティーツィアの側近だと言っても、だ め だ!」


「えー。そんなー。」



レティーツィアが不満そうに私を可愛らしく見つめてくる。


うっ、レティーツィア、睨んでる姿も可愛いぞ。

だが、可愛いがだめだ。


私が背中に乗せるのは、レティーツィアだけだからな。



「それじゃあ、明日のハイデマリーの結婚式を阻止できません。

国境沿いの地下のここから王城までは距離があるんです。アードルフ達がどうするつもりだったのかは知りませんが、徒歩では間に合いません。」



レティーツィアは困ったように言った。



「れ、レティーツィア様。失礼ながら、私達も馬を準備していたんです!スパイの奴らのせいで、準備した馬を何処かにやられてしまいましたが、私達も考えなしだったわけではないのです。」


「!」



レティーツィアに失望されないために、アードルフが必死にレティーツィアに考えがあったのだと訴えている。



「あら、アードルフ? 結局、スパイにバレて準備した馬を失った時点で、だめなのよ。私たちの計画は失敗したのよ。もし、レティーツィア様があの時現れなかったら、もう私たちどうしようもなかったんだから。」



いつのまにか、遠くにいたギーゼラとオーブリーもレティーツィアのそばに戻ってきていた。



「ギーゼラ、お前……」



アードルフが諦めきれない、と言った表情でギーゼラを見つめる。



「いや、それでも。俺たちにも考えがあったことは伝えなければ。俺たちなりに頑張ったことをレティーツィア様にはわかってもらいたい。レティーツィア様に誤解されるのは、嫌だ……」


「まぁ、そうだよねぇ。失敗したとはいえ僕達も、我が女神であるレティーツィア様のために頑張ったよねぇ。」


「あぁ、そうだ。」


「まぁ、それもそうね。アードルフとオーブリーの言う通りね!

レティーツィア様、私たちは失敗してしまいましたが、私たちにもハイデマリーを止めようと考えはあったんです!」



アードルフとオーブリーとギーゼラはレティーツィアに計画が失敗したことを伝えた。



「いえ、私こそすみません。余裕がなかったとはいえ、言い方が悪くなってしまいました。

アードルフやオーブリー、ギーゼラ達みんなの頑張りを、あんな言い方をしてしまって。すみませんでした。」



レティーツィアはすぐにアードルフ達側近に謝っていた。


……あいかわらず、レティーツィアは優しい娘だ。


私が知っている王族とは、権力を驕り高ぶって、下のものを見下すものが多かったのだが。やはり、レティーツィアはいい意味で良い王族だ。



「いえ、レティーツィア様。謝らないでください。」


「そうです、我が女神。レティーツィア様が謝る必要などありません。」


「そうです、レティーツィア様。レティーツィア様がいなければ、私達は助かってなかったんですもの。まだ生きてハイデマリーへの仕返しを考えられるのは、レティーツィア様のおかげなんです。」


「アードルフ、オーブリー、ギーゼラ……」



レティーツィアは目を潤ませながら、アードルフ達側近達がかけてくる言葉に感動しているようだ。



「だから、レティーツィア様が余裕がなくてそんな発言してしまっただなんて、ご自分を責めないでください。私たち側近がレティーツィア様を助けられないのが悪いんですし、一緒に考えさせてください、レティーツィア!きっと、他の護衛騎士達もきっとレティーツィア様に感謝しているはずですわ!

ね、そうよね、貴方達!」



ギーゼラが、他の護衛騎士達に声をかけた。



「そうです!レティーツィア様の力にならせてください!」

「俺もレティーツィア様と一緒に考えます!」

「レティーツィア様の負担を俺たちにも分けてください!」


「レティーツィア様、大好きです!」


「「「「「「お、おい、お前、それは抜け駆けだろ〜!」」」」」」



護衛騎士達は思い思いに、それぞれの思いを伝えていた。



それを見たレティーツィアは「ありがとう、みんな……」と言いながら照れたように嬉しそうな顔をしていたした。


それを見つめるアードルフ達側近の目も優しげだった。




―――幸せな世界だ。

ハルトムートはレティーツィア達を見ていてそう思った。




ハルトムートには、きっと先ほど思い出した辛い記憶を忘れることはできないだろう。でも、レティーツィアといればこうして優しい思い出が沢山できていきそうだなと自然と思えた。

そう思うと、いつのまにかハルトムートの顔には自然と笑顔が浮かんできていた。



「レティーツィア。すぐに王城まで行くための解決策ならあるぞ!側近達ではなく、レティーツィアが側近達にも精霊魔法をかけてやれば、みんなですぐに王城にいけるのだ!」


「え。ほ、ほんとですか?!」



側近に囲まれていたレティーツィアは、驚いたように私の方を見てきた。



「あぁ。私は、レティーツィアに嘘はつかないからな。」



私は、レティーツィアに向かってそう言って微笑んだ。

























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