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閑話 ハイデマリーと秘密の隠し部屋


………ようやく、明日だ。



ハイデマリーは王城のテラスから、順調に行われる明日の結婚式の準備を眺めた。



やっと明日。

私は愛しのヴァルトラーナお兄様と結婚するんだ。



あぁ、なんて素晴らしいんだろう。

この日をずっと待っていた。










ヴァルトラーナお兄様に恋をした日をハイデマリーは忘れない。


だって、あの日は、ハイデマリーにとって1番素敵な日だったのだから。


ハイデマリーはその日、人生で初めて人を愛するということを知った。


―――世界で1番、何よりも好きな人ができた日だ。






そして、ハイデマリーが大好きなヴァルトラーナお兄様を、クラウディア王妃が無理矢理、結婚して奪っていた最悪の結婚式も覚えている。



―――あの日は人生で1番許せない日だった。



ヴァルトラーナお兄様とクラウディア王妃の結婚式には、傍系になったとはいえ、王族のハイデマリーも出席していて、その様子を見つめていた。


ヴァルトラーナお兄様は隣の国、サクノニア王国との関係を配慮してなのか、結婚式の間はずっとクラウディア王妃のことを見つめていた。



許せなかった。

あぁ、羨ましい……



私にも滅多に見せてくれたことがないような優しい、蕩けるような優しい笑顔でクラウディア王妃を見つめていたのだ。



そのヴァルトラーナお兄様の表情を見て、カシノニア王国の国民も、関係を気づくことになる隣の国のサクノニア王国の人たちも、みんな2人のことを祝福していた。


私も公式の場なので傍系とはいえ王族として祝福しているように振る舞った。

だから、誰も私が本当の心の底から祝福していないとは気づかなかった。








異母兄とはいえ、ヴァルトラーナお兄様が王位継承者になった時点で、私は傍系王族に落ちた。


でも、それでも!

私にもヴァルトラーナお兄様と結婚できるチャンスはあったらよかったのに……!


傍系に落ちても私はカシノニア王国の王女。

結局は王族のままで、私は決まりに縛られたままだった。



サクノニア王国との友好のために第一夫人の正妻にはクラウディア王妃がつくことになった。


それはつまり、第一夫人の正妻としてしか嫁げない決まりに縛られた私には、ヴァルトラーナお兄様との婚姻ができない、ということだった……







――――私は絶望した…………








私が王族のハイデマリーでなければ、それでも第二夫人などの側女にでもなれたのに。それさえも、私には選択すらできないのだから…………








その時の情勢では、サクノニア王国との関係改善はカシノニア王国にとって、とても重要なことだった。


けど、私にはヴァルトラーナお兄様の思いはわかっていた。

口ではクラウディア王妃を愛してると口にしていても、きっとヴァルトラーナお兄様もカシノニア王国の王位継承者として無理をしているだけなんだ。


私が今、ヴァルトラーナお兄様とクラウディア王妃の結婚式を祝福しているように演技しているのと同じなんだ、と私にはわかった。





それでも、私の父でもあるカシノニア王国の国王は、きっとカシノニア王国とサクノニア王国の関係改善のためのヴァルトラーナお兄様の結婚を止めることは決してないだろう。私にだって、それは明らかだった。




だから、私は計画を練った。



―――そうよ!ヴァルトラーナお兄様がカシノニア王国の国王になって、お父様が国王じゃなくなったときを狙えば良いんだわ!




それは、ヴァルトラーナお兄様に結婚のことを告げられて悲しんで、傍系王族として与えられた屋敷で考え込んでいるときに、突然天啓のように急に私の頭の中に降ってきたのだ。


その天啓に従った私は、傍系王族として与えられた屋敷にある『秘密の隠し部屋』を見つけた。


そして、私は王位継承権のない傍系王族には知ることすら許されない知識を得た。




―――その『秘密の隠し部屋』の中には、『王族の秘密』が書かれていたのだ。




決して傍系には知らされることはない『守護の宝石』のことも書かれていた。その知識さえあればなんとかなる、と思った。




邪魔なお父様がいなくなり、ヴァルトラーナお兄様がカシノニア王国の国王になるまでの我慢なんだ……と私は我慢した。








ただ、我慢だと分かっていても辛くて耐えがたいことはあった。


それは、ヴァルトラーナお兄様とクラウディア王妃が仲良くしている様子を見せつけられることだった。




特に、結婚式のあと、ヴァルトラーナお兄様とクラウディア王妃の『床入り』は許せなかった……!


なぜ私の大好きで愛してやまないヴァルトラーナお兄様が、サクノニア王国との関係改善のために犠牲にならなければいけないのかと思うと、憎かった。


それからも、クラウディア王妃はヴァルトラーナお兄様との床入りを頻回に求めるようで、2人は毎日のように床入りをしていた。



結婚してから何日かすると、クラウディア王妃がねだったのだろうけど、ヴァルトラーナお兄様とクラウディア王妃は寝る場所も一緒になってしまった。


これでは『毎日床入りをしている』、と言っているものじゃないか…………、と私の心は悲鳴を上げた。


あまりのクラウディア王妃のヴァルトラーナお兄様への独占欲が腹立たしかった。





そんなに毎日床入りをしているから、クラウディア王妃はすぐにご懐妊されて、長男のベネディクトが生まれた。私の甥でもある。

だが、私はちっとも可愛いと思えなかった。


そのあと、クラウディア王妃は産後の肥立が悪かったのか体調を崩されるようになった。


………これでやっと、クラウディア王妃がヴァルトラーナお兄様から離れてくれる、そう思った。


でも、それでも。クラウディア王妃がヴァルトラーナお兄様との床入りを希望されているのか、寝室だけはずっと一緒だった。



嫌だった。ヴァルトラーナお兄様がクラウディア王妃と同じ寝室を共にしているのが許せなかった。




けれどそのあと、4年間はクラウディア王妃に子どもはできなかった。だから、まだ我慢できた。




けど、またクラウディア王妃はご懐妊された。

ヴァルトラーナお兄様は、ご懐妊されたクラウディア王妃の抱きしめながら泣いていた。


みんなはクラウディア王妃がご懐妊されたことを喜んでの感動の涙だ、と言っていたが違うと思う。………私にはわかるのよ。


ヴァルトラーナお兄様は、サクノニア王国との関係のためを思って生きるのが辛いのだ。



―――そして、とんでもない魔力の女の子、レティーツィアが生まれた。



プラチナブロンドの白銀のようなほとんど白に近い金髪で、女神の生まれ変わりと言われるようになる、私の姪だ。


憎いクラウディア王妃の子どもなのに、とても愛らしくて優しかった。そして、正当な王位継承者で次期女王予定者として、なにより自分に厳しく、努力家な子どもだった。




なぜか私も憎い女の子どものその子、レティーツィアには優しくできた。演技ではなく、本当に優しくできた。なぜなのかはわからない。


ただ、ヴァルトラーナお兄様に愛されたレティーツィアと過ごす時間は、クラウディア王妃の子どもだと分かっていてもなぜか癒された。我慢する日々の中で、私の癒しだった。


レティーツィアのそばにいると、ヴァルトラーナお兄様といるみたいに私の気持ちはなぜか満たされた。なぜか、優しい気持ちになれた。


結局、憎いクラウディア王妃の娘なのに、なぜかレティーツィアのことを私は嫌いになりきれなかった―――










………なのに。それなのに。


レティーツィアが継承の儀式をする前に、お父様が国王の座をヴァルトラーナお兄様に譲られて隠居されてしまった。


それはレティーツィアの存在を私に意識させ、そして大いに揺らがせた。




私の計画が動き出…………動き出してしまう―――――


お父様が国王でなくなり、ヴァルトラーナお兄様がカシノニア王国の国王になった。それなら、ヴァルトラーナお兄様の王妃になるために私は動かなければいけない………、そんな思いが私の中に溢れていく。

我慢しようとしても、そんな思いがあふれてくる。



クラウディア王妃を処分して、その場所に私が王妃となってとって変わるという思い強くなっていく。レティーツィアを見ていると揺らいでいた思いが、いつのまにか悪い方へどんどん傾いていくのを感じた。








―――それでも、我慢した。でも、レティーツィアの12才が近づいてきて、『王位継承者』で『次期女王予定者』の継承の儀式が近づいてきてしまって、どんどん悪い方へと傾いていく。


継承の儀式が行われてしまえば、次期王位継承者はレティーツィアになってしまう………、その思いが強くなっていく。




レティーツィアが継承の儀式をすれば、私が望む王妃にはなれない。私が仮にクラウディア王妃を排除して、ヴァルトラーナお兄様と結婚して子どもを産んでも、王位を継承するはレティーツィアになる。あんなに魔力の高い子どもは歴史上をみても、そう生まれるものじゃない。


私は、私の子どもは王位継承者にはなれない――――




それがわかったとき、全てが憎く感じた!


私を迷わせるレティーツィアのことも! 私からヴァルトラーナお兄様を奪ったクラウディア王妃も! そして、甥のベネディクトのことも!


全部、全部嫌になった!!






―――だから、私はあの日、決行したのだ。





『ヴァルトラーナお兄様を救うんだ………』

私の頭にはそれしかなかった。







だから、…………1番可愛くて、1番私を迷わせたレティーツィアをおもいきり崖から落として処分したのだ。



でも、なぜだろう?


レティーツィアがいなくなったあと、自分が自分じゃなくなったみたいに、気分が高揚していくのをハイデマリーは感じていた。















ハイデマリーの視点ではわかりにくいですが、ヴァルトラーナ国王は本当にクラウディア王妃を愛しています。演技ではないです。

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