秘密の地下通路
フロレンツィアの愛を実らせて、アードルフ達側近みんなに最後の晩餐になるかもしれない料理を堪能してもらった。
「美味しいですぅ〜!」とギーゼラや側近達は言って、満足してくれたようで、私も嬉しい。
私もなんとなく食べたくなった甘辛い照り焼きが入ったサンドイッチを作って、ハルトムートと一緒に並んで食べた。
「ハルトムート、どうぞ。」
「ありがとう。 やはり、レティーツィアが作る料理は美味しいな。」
「そう言ってもらえてよかったです。 おかわりもありますので、他に食べたいものがあれば遠慮せずに言ってくださいね。
と言っても。 まぁ、材料のフロレンツィアの愛は、ハルトムートのプライベート空間からいただいてしまってるので、私はフロレンツィアの愛を実らせてるだけなのですが……」
「うむ? そんなこと、気にせずとも良い。 レティーツィアなら、遠慮などせずとも良いのだ。 私が持っている物は自由に使っていいのだぞ?」
「ふふ。 はい、ありがとうございます。」
「ハハハッ、気にせずともいいのだ。」
なんとなく、ハルトムートのプライベート空間のフロレンツィアの愛を使わせてもらってることが気になっていたが、ハルトムートは遠慮せずとも良いと言ってくれた。
ありがとう。
ハルトムートは、優しいな……
私はわがままばかり言ってるのに受け止めてくれるし。
ハイデマリーに崖から落とされた後に、ハルトムートと出会えて本当に良かったよ……
だから私は、『ハルトムートへの感謝の気持ち』を込めて、にっこりとハルトムートに笑いかけた。
「………!!!!」
「?」
すると、人間の姿をしたハルトムートの顔がみるみるうちに赤くなった。
なんだろう?
「ハルトムート? 大丈夫ですか?」
「ぅ、うむ! 大丈夫だ! ………だが、レティーツィア。 その笑顔を向けるのは私だけにしてくれないか?」
「……あ、すみません。 私、そんなにひどい表情だったんですね。」
「い、いや! そうではないのだ!! そうではないのだが……うぅむ……レティーツィア。 とにかく、だ! その笑顔を向けるのは私だけにしてほしいのだ!」
「……?」
やはりそんなに私の笑顔は酷いのだろうか?
私は今まで私の笑顔が酷いとは言われたことがなかったんだけど、ハルトムートの言い方は必死そのものだ。
なぜハルトムート以外の人に笑いかけてはいけないのか、についての説明はぼかされてしまってる気はするけど、まぁいいか……
「レティーツィア、私以外の人にはその笑顔は向けないでくれないか?」
「え? はい、わかりました」
隣に座るハルトムートが私の手を握って、珍しく真剣な眼差しで言ってくるから、私の心臓も変な音を立て出す。
竜の時と違って、人間の姿のハルトムートでは、なぜかレティーツィアはハルトムートにペースを乱されがちになるような気がする。
「ありがとう、レティーツィア!」
「……!!」
レティーツィアの返事を聞いて、ハルトムートが嬉しそうに笑いかけてくる。
だけど! その笑顔が、なんだか心臓に悪い!!
なぜかわからないけど、レティーツィアの心臓はどきどきとさらに変な音を立て出すし、ハルトムートに握られている手もなんだか意識してしまう。
―――この気持ちは、なんなのだろう……?
レティーツィアは、答えのわからない疑問を抱いた。
なんだかわからない感情を抱えたレティーツィアは、とにかく違うことに気持ちを逸らそうとした。
今のカシノニア王国の食糧不足は深刻だし、国民は食べ物に困っている。
レティーツィアは、国境沿い一面に広がる砂漠を眺めた。
―――昔はこの場所も今より豊かだった場所だ。
失われた植物や食糧不足で国民を思い、レティーツィアは切ないような、悲しいような気持ちになった。
ここが豊かになって、食べ物がたくさんできたら、きっとカシノニア王国の国民の生活は今よりマシな環境になる―――
レティーツィアは、精霊魔法を使って、まず砂漠を豊かな土地に変えて甦らせた。
その土地に大きな湖や実のなる植物、薬草などを作り出していった。
それだけでなく、すぐに食べられそうな大きさの芋などの植物も大量に作り出していく。
レティーツィアが精霊魔法を使う姿を見て、後ろのオーブリーが「まさに、女神だ………!!」と叫んでいる気がした。
だが、オーブリーには構わずにレティーツィアはそのまま砂漠を精霊魔法で豊かにしていく。
砂っぽかった空気が、森や草木の匂いのする空気にわかっていくのがわかる。
―――見渡す限り一面の砂漠が、見渡す限り豊かな緑の水のある活気ある土地に生まれ変わっていく。
なぜか、ハルトムートと接してどきどきが止まらないレティーツィアは、考えられる限りのカボチャやりんご、お米や麦といった食べられそうな植物を全部実らせていったのだった。
そして、そのレティーツィアの様子見ていたハルトムートは暗い顔でぽつりと呟いていた。
「これは、あの方と同じくらいの力なのではないか……」
そのハルトムートの呟きは、レティーツィアや他の誰の耳にも届かなかった。
だが、その時のハルトムートの表情は暗く、なにかを深く考え込むようであった。
―――
レティーツィアは、アードルフ達側近から『明日がハイデマリーとヴァルトラーナ国王の結婚式が行われる日』だと知らされた。
レティーツィアとハルトムートが助けたとはいえ、国境のこの場所から王城に向かおうとしたアードルフ達側近が、スパイに見張られて王城騎士に捕まりそうになっていたことから、ハイデマリーに警戒されているのは間違いないのだろう。
それならば、きっと捕まえた王城騎士以外にもハイデマリーが放ったスパイや王城騎士達が、王城へ行くのを阻止してくるのだろう。
何か、ハイデマリーの裏をかける方法はないだろうか?
レティーツィアは考えた。
そのとき、レティーツィアはヴァルトラーナお父様から教えてもらった知識を思い出した。
『守りの結界をはっている守護の宝石や国の重大事項は直系王族の王位継承者にのみ伝えられる』ということになっているが、
『王位継承者』で『次期女王予定者』のレティーツィアは知っているのだ。
―――『秘密の地下通路』。
その地下通路のことは、ヴァルトラーナお父様から教えられてレティーツィア知らない知識だ。
もしかしたら、ハイデマリーと共にヴァルトラーナお父様が裏切っているかもしれないが、流石に明日の結婚式の警備と、アードルフ達レティーツィアの側近への警備だけで、今のカシノニア王国の状況では手一杯だろう。
それに、秘密の地下通路は、王族にとって『諸刃の剣』でもある。
―――誰にも知られずにカシノニア王国の地下に張り巡らされた秘密の地下通路。
膨大な面積に渡る地下通路は『王位継承者』のみに秘密にされている物で、有事の際だけ使う物なのだ。
もし、カシノニア王国の敵に知られてしまえば、逆手にとって『秘密の地下通路』を使って侵略も簡単にされてしまうだろうからである。
もし、ヴァルトラーナお父様が本当にハイデマリーと共謀していれば、『秘密の地下通路』のことも教えているかもしれない……
けど、今のレティーツィアにはもう『秘密の地下通路』に頼るしかなかった。
膨大な『秘密の地下通路』は、その膨大な面積ゆえに多くの道がある。王城への道も多くある。
でも。レティーツィアが知るヴァルトラーナお父様なら、カシノニア王族の『秘密の地下通路』のことはハイデマリーには伝えないと思う。
レティーツィアに『秘密の地下通路』のことを『諸刃の剣』と言って教えてくれたのは、ヴァルトラーナお父様だ。
確実な確証なんてものはないけど、きっと今のレティーツィア達にとって1番安全なのは『秘密の地下通路』なんだと、レティーツィアには思えた。
だから。レティーツィアは、アードルフ達側近を連れて、『秘密の地下通路』の入り口に向かうことを話すことにした。
――――
レティーツィアは、捕まえた王城騎士達を明後日まで眠るようしにして、眠ってもらった。 だがレティーツィアだけでは王城騎士の眠りが深くなりすぎそうだったので、細かい精霊魔法のサポートをハルトムートに手伝ってもらった。
明日のハイデマリーの結婚式の時は眠ってもらった方が、レティーツィアの行動を邪魔されずにすむが、王城騎士が眠り姫になっても困るしね。
だって、ただ王城騎士はその忠誠がカシノニア王国の国王にあるだけで、一概に悪い奴らってわけでもないのだから。
レティーツィアも王女として王城にいたときは王城騎士に守ってもらったことがあるし、今の王城騎士が従う国王の方針とレティーツィアのやることが違うってだけなのだ。
レティーツィアは、信用のおけるアードルフ達側近とハルトムートを連れて、『秘密の地下通路』の入り口に向かった。
その時、レティーツィアは『半分の守護の宝石』を使って、アードルフ達側近とハルトムートに向けて力を放った。
優しい包み込むような『半分の守護の宝石』の力は、まるで何者からも害されないような安心感を覚える物だった。
そして、その力を浴びた時、アードルフ達側近やハルトムートにも目の前に佇む巨大な扉が目に入った。
「これは、一体………?」
アードルフだろうか、レティーツィアの周りからそんな戸惑いの声が聞こえてくる。
「これは『秘密の地下通路への入り口』です。『守護の宝石』を持ち、正式な手順を踏まないと現れない扉です。さぁ、ここから中に入って、王城まで急ぎましょう。明日のハイデマリーの結婚式を阻止して、カシノニア王国を救うのです!」
「「「「「はいっ!!!」」」」」
アードルフ達側近は気合いの入った返事をした。
私は、見たことのない『秘密の地下通路への入り口』に戸惑うアードルフ達側近とともに、『秘密の地下通路』に入った。
そのあと、私が入ってきた『秘密の地下通路への入り口』を振り返ると、すでに『秘密の地下通路への入り口』は閉ざされていた。
あっという間に、私たちが入ってきた入り口はもうすでにそこにはなかった。
………そうか。
『秘密の地下通路』に入るのも、出るのも、『守護の宝石』がなければダメな仕様になっているんだ。
さすが、秘密とつくだけあって、防犯面はバッチリなんだね。
私は『守護の宝石』の恐るべき力の片鱗を感じながら、アードルフ達側近とハルトムートを連れて王城へと向かった。




