飛行魔法マスター
ーー飛行魔法でほんの少し浮いたままのレティーツィア。
「いいぞ、レティーツィア!
良いイメージを精霊達に伝えられて安定した飛行魔法を使えているぞ!
どうだ、このままの調子でもう少し高く飛ぶことはできるか?」
「……っ! はい、やってみます……‼︎」
「よし、そうか!
ならば、私の使う飛行魔法を参考にしてみると良いぞ!」
レティーツィアの横でハルトムートが飛行魔法を使ってふわりとゆっくりと飛び上がった。
そして、レティーツィアより高い位置でクルクルと円を描くように自由に空を飛んでみせた。
人間の姿で飛行魔法を使って飛ぶハルトムートは、見た目がなまじ整っているだけにまるで神聖な物語に出てくるような天使のように美しかった。
……まぁ、天使といってもハルトムートは土の精霊王で精霊なので、天使ではないのだが……。
上空を優雅で軽やかに飛ぶハルトムートは、飛行魔法の飛び方がレティーツィアに伝わるようにするためか、時折レティーツィアの方へ美しい微笑みとともにアイコンタクトをしてきていた。
(……ハルトムートったらどさくさに紛れてキザな行動しちゃって……。)
ハルトムートが整った美しい顔でレティーツィアへ向けてサラッと自然な仕草でしてくる行動に、レティーツィアは心の中でだけ文句を言った。
だがやはりハルトムートが人間の姿でわかりやすく教えてくれる飛行魔法は、レティーツィアにとってとてもわかりやすく参考にしやすかった。
レティーツィアは、ハルトムートの飛行魔法をまだ遠くから客観的に見たことがない。
レティーツィアは今までずっとハルトムートの背中に乗せてもらっていたので、飛行魔法で浮いている感覚はあるがまだ自由自在に飛び回るイメージが不安定なままで出来ていなかったのある。
だから精霊達に浮かぶ以外の空を飛ぶイメージを伝えようとしても、レティーツィアは自分が空を飛ぶイメージをはっきりと伝えることがまだできていなかったのだ。
レティーツィアは、ハルトムートが具体的で尚且つ人間の姿で飛行魔法のお手本を見せてくれて助かったのだ。
一通りの飛行魔法をハルトムートは見せ終わったのか、レティーツィアのすぐ近くまでゆっくりと降りてきた。
レティーツィアは、今ハルトムートに見せてもらってイメージが固まった飛行魔法のイメージを精霊達にすぐに伝えた。
ゆっくりと飛ぶようにイメージしたので、レティーツィアの身体は思った通りに徐々に浮かび上がりだした。
(……よしっ! この調子なら……!)
レティーツィアはさらにハルトムートがお手本を見せてくれた飛行魔法を参考にした。
クルクルと上空を円を描くように回ってみたり、上下に移動してみたり……と、あっという間に精霊達との意思疎通とイメージのコツを掴んで、レティーツィアは自由自在に飛べるようになった。
「むむ……‼︎
やはりレティーツィア、其方は飛び抜けた精霊魔法の素質があるようだな……!
……ふむ、この調子ならば……。
レティーツィア、このまま他の精霊魔法も使ってみるか?」
「え……、いいんですか?
私としては早く精霊魔法をマスターしたいので学びたいですが、なんだか私ばかりが教えてもらってばかりで申し訳ないです。」
「あぁ! もちろん良いとも‼︎
私は其方が望むことを叶えてやりたいと思っているのだ!
だからな、レティーツィア。
これは私が好き好んでしていることなのだから其方が心配して、気に病むことはしなくて良いぞ。
この私に対して、其方だけは遠慮などする必要はないのだからな!」
「……」
「其方は、早く精霊魔法が使えるようになりたいのだろう?
ならば、どんどん私を頼るが良い!
私とて伊達に土の精霊王ではないのだ。
……そ、それにな……、レティーツィアに頼られると、私も不快ではないしな……!」
「………!」
威勢よくレティーツィアに話していたハルトムートだが、最後は耳を赤くさせながら呟くようにぽつりと呟いた。
そして、そのハルトムートの呟きはレティーツィアの耳にも聞こえていた。
ーーハルトムートはレティーツィアの命の恩人だ。
そして今はレティーツィアの望みを叶えるために、なんの見返りも求めずに全面的に協力してくれているのだ。
(……もしハルトムートが私とあんな無理矢理な形で婚約者の契約が結ばれていなかったら、今だってハルトムートは私に縛られずに自由にいられたのだろう……。 もう婚約破棄はできないって言ってたけど、こんなに私に良くしてくれるハルトムートのためにいつまでも私がハルトムートを縛り付けているなんて良くないに決まってるわ。 ……いつかハルトムートを私から解放して自由にさせてあげなくっちゃ……!)
信じていた人である悪役令嬢ハイデマリーに裏切られてから、レティーツィアは復讐することばかり考えていた。
だが、そうしている間もレティーツィアの心はどこかでずっと悪役令嬢ハイデマリーの行いに傷ついて荒んでいたのだ。
なのに、……なのにハルトムートはそんなレティーツィアへずっと不器用ながら優しくしてくれるのだ。
ハルトムートの優しさに触れ、レティーツィアは自分の心の中がぽかぽかと温かくなってくるのを感じた。
そして、ハルトムートに対して感謝の気持ちで一杯になった。
「……ありがとうございます、ハルトムート……。」
レティーツィアは、ハルトムートの優しさに触れて潤みそうになってくる瞳を必死にこらえながら、感謝の気持ちを込めて優しくハルトムートに微笑みかけた。
レティーツィアの微笑みを見たハルトムートは意外そうに驚いたような顔を一瞬見せたが、その後すぐにはにかむような笑顔をレティーツィアに見せて頷いた。
レティーツィアはハルトムートへ心を開き始めました。




