プライドを乗り越えて
ーー精霊との意思疎通とイメージ。
なんとなくわかりそうなのだが、精霊との意思疎通とイメージがどういうものなのかがはっきりとレティーツィアにはわからなかった。
(わからないときに何がわからないのかがはっきりしないのが一番の問題なのよね。 何がわからないのかが漠然としてるから何をどう質問したらいいのかもわからないし……。)
レティーツィアは精霊との意思疎通とイメージについて考えてみたが、やっぱりわからなかった。
次にどうしたらいいのかがはっきりわからないまま考えこむほどに、レティーツィアの中でどんどん行き詰まってしまっている感が強くなり次第に焦りが出てきた。
(私は悪役令嬢ハイデマリーに復讐するためにも、こんな所で足を止めるわけにはいかないのよ。 ……早く、早く飛行魔法だけでも習得しなくちゃいけないのに……!)
ーーレティーツィアは素直に人にお願いするのが苦手なところがある。
無意識にすんなりとお願いをできるときもあるのだが、いかんせん本当に大切なときにレティーツィアのプライドというか自尊心が邪魔をしてしまう時があるのだ。
レティーツィアは、カシノニアの悪夢を防ぐための恋愛マスター教育の中で素直で可愛らしい女の子に徹すると良いと教育を受けた。
だが、同時にレティーツィアはカシノニア王国の王位継承者として人に侮られないように尊厳を保つことの大切さの教育も受けた。
カシノニア王国のための政略結婚のためならばと、模擬での恋愛マスター教育の間は所謂男性から好まれるだろう愛らしい少女になりきってお願いをする練習もして、恋愛マスターの合格をレティーツィアは得ている。
だがら、レティーツィアもやろうと思えば世の男性が求めるようないつもニコニコと愛想を良くして、素直にお願いもできるはずなのである。
だが、レティーツィアはプライドが邪魔して素直になりきれずにハルトムートにお願いができないでいた。
今の状況では、どんなに考えてもレティーツィアには精霊魔法に関する知識は全くないといっても過言ではない。
その上でどんなに精霊との意思疎通とイメージについて、知識のないレティーツィアが考えたところで明確な答えなど出てこないだろう。
レティーツィアだって、一人で考えたって限界があることはわかっているのだ。
もはやレティーツィアがこれ以上考え込んだところで精霊との意思疎通とイメージの答えは出るはずもなく、むしろこれ以上レティーツィアが一人で考えこんでも時間の無駄だろうということはわかっている。
だが、レティーツィアはハルトムートに素直に精霊との意思疎通とイメージについて聞くことに躊躇いがあった。
すでにハルトムートは精霊との意思疎通とイメージが大切なのだとレティーツィアに伝えてくれているのだ。
その上でレティーツィアがハルトムートにわからない、と伝えたらどうなるのだろうか。
レティーツィアは恋愛マスターモードになりきっていない素の自分では、ただでさえ素直じゃなくて異性の男性からは可愛くないだろうとわかっているのだ。
だがハルトムートの前では、レティーツィアはなぜか恋愛マスターの教育を受けたときにはなりきって合格をとれた恋愛マスターモードになりきることができず、素直にお願いができそうになかった。
(ハルトムートにわからないから教えてほしいと伝えたら、もしかしたら心の中で笑い物になってしまうかもしれない。 ……でも、こんなところにいても私はカシノニア王国の王位継承者なんだから、聞きたくないからって逃げて聞かずにいることなんてしちゃいけないんだ……!)
レティーツィアは邪魔をするプライドを捨てて、勇気を出してカシノニア王国のためにハルトムートに素直にわからないから教えてほしいと伝えることにした。
「……あ、あの……。
こんなこと聞きづらいのですが、…… 精霊との意思疎通とイメージってどういうことなのかさっぱりわからなくて。
だから、……もしよければ教えていただくことはできませんか……?」
レティーツィアは不安のためにやや俯きがちになっていたので、無意識にハルトムートへの上目遣いになっていた。
しかも、ドキドキとさせながらハルトムートに伝えているために頬はほんのりと赤くなっており、伊達に美少女すぎる整った顔のレティーツィアであるので、ハルトムートの心を直撃していた。
「……うっ……!」
ハルトムートの心は確実に無意識のレティーツィアの上目遣いが可愛すぎて悶絶しており、声にならない声が漏れてしまってのだが、レティーツィアとしては自分の可愛らしさに自覚がないので気付かない。
(……ううっ。 やっぱり、精霊との意思疎通とイメージだってヒントも貰ってるのにわからないだなんて言ったからしっと失望されたわよね……。)
レティーツィアはハルトムートに失望されたかもしれない誤解して凹んでしまっているが、ハルトムートはレティーツィアの無意識の可愛らしく愛らしい仕草にノックアウトされているだけなのだ。
レティーツィアは自分がいかに美少女であり、カシノニア王国の国民の誰もが一眼見たらレティーツィアに恋せずにはいられないほどの美少女なのに、レティーツィア自身は自分の美に疎かった。
おそらくレティーツィアのコンプレックスである、建国神話に出てくる女神のよく似た瞳や髪の色のせいで国民が囃し立てて自分の容姿を褒め称えているだけで、レティーツィア自身は美少女だと言われていても実際はそんなことないんだろうなと心の何処かで思ってしまっているせいだ。
ハルトムートから、精霊魔法にとって重要である精霊との意思疎通とイメージについてはもう教えてもらえないんだろうなと思い、レティーツィアは小さくため息をついた。
「おほんっ! ……私に任せておきなさい……!」
「えっ……、それって私に教えてくれるってことですか?」
「そうだ。
私が精霊との意思疎通とイメージについて其方に伝えると言ったのだ。」
予想外のハルトムートの答えにレティーツィアは驚きながらも、これで精霊魔法を学べそうだとほっと一安心した。
レティーツィアは、プライドが邪魔するからといってやりたくないことから逃げるんじゃなくて挑戦することができたので、今回のことでレティーツィアは少しですが成長できました。




