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第二関門


ーーーモゾモゾと怪しげに動き続けるハルトムートの右腕。

 その狙いはやはりレティーツィアを抱きしめることだろう。




 ハルトムートは先程レティーツィアに名前を呼んだら抱きしめるのをやめると言った手前だ。

だが、未だにレティーツィアの了承を得ていない状況でこのまま抱きしめるかどうかを迷っている様子である。

 『レティーツィアをすぐにでも抱きしめたい。だが、抱きしめた後におそらくレティーツィアに嫌がられて嫌われてしまうかもしれないな……』、と迷い続けるハルトムート。

 だが、迷う間にも少しずつ放心状態のレティーツィアにハルトムートの右腕は無意識にモゾモゾと少しずつ近づいていた。



ーーーそんなことに何も気づかないレティーツィアは、いまだ放心状態になったままであった。




ーーー




 ピカァーーー!!!


 突然、レティーツィアとハルトムートの周りの湖が虹色に光り輝きだした!



 その光で、レティーツィアはハッっと放心状態から何事かと元に戻って辺りを見渡した。

 レティーツィアが元に戻った時に、素早くハルトムートはサッとレティーツィアを抱きしめようとしていた右腕をレティーツィアからさりげなく離した。

 虹色に光り輝く湖を見つめるレティーツィアは気づいていないが、ハルトムートはさもレティーツィアが放心状態の間に抱きしめようと迷っていたことなど何もなかったかのように紳士的な表情に素早く戻していた。




ーーー虹色に輝く湖。

 その中にはキラキラとさまざまな色で美しく光る粒子のようなものが見えた。

 キラキラとした虹色の粒子は、ハルトムートとレティーツィアを包み込むように優しげに揺れている。



(…なにこれ!?)



「あ、あのっ! あの光はなんですか?」


「あぁ、第二関門が無事に終わったのだ。」


「え…、どういうことですか?」


「清めの儀式の山場を私とレティーツィアが乗り越えた、ということだな。

 …どうだ?

 清めの儀式の山場を乗り越え、精霊の目を目に入れた今の其方ならば精霊たちが見えるのではないか?」


「え…、えっと、精霊ですか?

 ……あの、あなたのような竜の姿は見えませんが…。」



 ハルトムートはレティーツィアが精霊の目を手に入れて精霊が見えているようなことを言うが、レティーツィアには全くと言っていいほど精霊の姿が見つけられず戸惑っていた。



「ハハハッ!

 レティーツィアは可愛いな!

 精霊王でなければ竜の姿ではないぞ!

 ただの精霊たちであれば光を放っているだけになるな。

 低級の精霊ならば小さく弱い光だが、上級の精霊になれば大きく強い光を放っているのが見えるだろう。

 其方は大量の精霊の加護を得ており精霊たちに愛されておるから、さまざまな精霊たちが其方の周りにいるぞ!

 ……どうだ、見えるか?」



 ハルトムートの精霊の説明を聞き、レティーツィアは自分の周りを見渡してみた。

 

 やはり光り輝く粒子のような光は、ハルトムートとレティーツィアの周りを中心に集まってきているようである。

 レティーツィアの周りに集まる光は、まるでレティーツィアに子猫が懐くような姿を連想してしまうように親しげな様子でふわふわと飛んでいる。

 光る粒子をじっとレティーツィアが見つめていると、その粒子の光の違いは虹色のきらきらと輝く色や光の大きさの違いが確かあると気づくことができた。



「…これが、精霊たち、なんですね……!

 綺麗……」


「ハハハッ!

 見えたようだな!

 そうだ! 私たちの周りに沢山集まっているだろう?

 第二関門を乗り越えた私たちを精霊たちが祝っているのだ!」


「…私が、精霊の目を……。

 これで。 これで、私にも精霊魔法が……!」


「そうだ。

 其方は精霊魔法を使うための精霊の目を手に入れたのだ。 その精霊の目があれば、其方は精霊魔法を使えるようになるはずだ。

 そしてその精霊の目は永遠にレティーツィア、其方の物だぞ、ハハハッ!」



 レティーツィアは幻想的な精霊たちに包まれ続けながら、精霊魔法を使うための精霊の目を手に入れることができた感動に打ち震えた。

 清めの儀式を行なって無事に精霊の目を手に入れられるかどうか、本当はレティーツィアはずっと怖かったのだ。



 もし清めの儀式の中断とみなされて消滅につながってしまったら。

 もし清めの儀式に失敗してしまったら。

 


 考えれば考えるほど、疑問や心配事が尽きなかった。

 それならば、悪役令嬢ハイデマリーへの復讐を誓うレティーツィアには危険な道だろうと迷ったりしている余裕はなかったのだ。


 ただ、前へ……


 少しでも前へ進んでいくための力が欲しかった。

 清めの儀式にもし中断や失敗した時のことなんて、考えても足がすくんで前に進めなくなるかもしれないと思ってずっと考えないようにしていたのだ。



 清めの儀式の第二関門突破。

 よかった。

 本当によかった……!



 レティーツィアが今までのことを振り返って感無量な思いでいると、ハルトムートが「では、そろそろいいか?」と聞いてきた。



「は、い……?」



 やや語尾が上がり疑問を呈したような形になってしまったが、ハルトムートはレティーツィアの了承だと認識したようだ。



「清めの儀式を終了させるための挨拶を行うぞ!」


「え……? は、はい!」



 ……そうだった。

 レティーツィアとしては、目的の精霊の目を手に入れることができたので満足してしまっていたが、まだ清めの儀式の途中だった。



 「遠足は帰るまでが遠足です」、というではないか!

 いや、まぁこの清めの儀式は遠足ほどドキドキと胸が高鳴るような楽し気なものではないし、むしろハラハラしてしまうものなのだから比較対象ではないかもしれないが……



 レティーツィアは、精霊の目を手に入れて緩んでいた気持ちを引き締め直した。



ーーー清めの儀式の間は手を離してはならない。

 もしレティーツィアが手を離してしまったら清めの儀式を中断したとみなされるかもしれない。

 


(…まだ清めの儀式の山場の第二関門を乗り越えただけで清めの儀式は終わってない、…続いてるんだ。 …絶対にハルトムートの左手を離さない……!)



 レティーツィアはハルトムートの左手を握る自分の右手の力をほんの少し強めた。

 レティーツィアが手を握る力を強めたことに気づいたのか、チラリとハルトムートがレティーツィアの方を見つめて軽く頷いた。



 繋いだままのハルトムートの左手に引かれてレティーツィアとハルトムートは、湖の中のもと来た道を戻って湖の湖畔へと向かってゆっくりと進みだした。


 

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