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2章―7 必然の偶然?と新しい仲間

 どうしようもないと思いつつも……憎めない。まさに腐れ縁。

 それに引きずられる自分が一番面倒くさい。


 本当は仕事を終えた後、今日こそ新しく手に入れた魔宝石の試運転をするつもりだったんだが──昨日は結局できずじまいだったし。


 つか、仕事を終えた後、窓一つない牢獄みたいな仮眠室で倒れ込んでそのまま昏々と死んだように眠りこんだもんで、残りのログイン時間は、仕事の休憩ごとにちょいちょいログインしてクエストの報酬をとりにいったりアイテムの整理をしたりと、こまごまとした用事しかこなせなかった。


「リーダー、ドラゴおかわり行こーヨ! 魔宝石とドラゴのウロコ、ここぞとバカリにぞろぞろ防具の強化に必要ヨ! 剥ぎ取れるの一度にせいぜい10枚くらいダシ。思いやりがにじみ出るいい意味でのご協力しようヨ!」

「…………」


 意訳すると、装備の強化を急いでいて、そのためのドラゴ討伐ってことか……。

 やれやれと思いながらも、つい口を滑らせてしまう。


「……たぶん朝の5時くらいには仕事なんとか終わらせてログインすると思うから……それならなんとか……」

「ラジャー! 5時だネー! のんびりにも程があるくらいの涅槃待機しとクー!」

「おぉおっ! 了解! そんじゃ俺も今から仮眠しとく!」

「リュウキ、モーニングメッセージ送るわよ!」

「リュウキの代わりに俺が悦んでっ!」

「だが、断るわよ!」

「ぇえええ……」


 盛り上がる面々を見ながら、あああ……またやってしまったと後悔する。

 この面倒ごとを自ら背負いこむ癖はいい加減なんとかしたほうがいい。

 分かってはいるのに、もう何度繰り返しているやら……。


 自己嫌悪に陥っていると、今まで俺たちのやりとりをまぶしそうに見守っていたアリアが遠慮がちに声をかけてきた。


「……あの、せっかくですし、私もお手伝いしましょうか?」 

「っ!? い、いいんですか? 朝の5時ですし……さすがに迷惑じゃ……」

「いいえ、時間はなんとでもなりますし、これもご縁ですし、それに……」


 アリアは、何か言いたそうに口を開くも、視線をさまよわせてから閉ざしてしまう。


 なんだろう? 何を言おうとしたんだろう?


 気にはなるものの、さすがに突っ込んで尋ねるのも憚られて、気のせいだと思うことにする。


「おおぉお! 『白銀の魔奏士』が仲間になりたそうにこちらを見ているっ!」

「ヤッター! うれしすぎるってくらいのとんでもないナカーマ♪」

「まあ、改めてよろしくしてあげるわよっ!」

「……ですから……その呼び名はやめてくださいって何度も……」


 みんなはアリアを囲んでさらに盛り上がる。

 その光景がやっぱり卒業式の東雲の姿に重なって苦笑する。


 それにしても、まさかアリアに一度ならず二度までも助けてもらうなんて。

 偶然なんてことあり得るのか? それとも──


 必然の偶然?


 そんな言葉が頭をよぎった。


                ※ ※ ※


 ゲームからログアウトする。


 洞窟の風景が薄らいでいったかと思うと、見慣れた屋上のうらぶれた風景が戻ってくる。休憩所とは名ばかりのボロボロに錆びたパイプ椅子と灰皿が置かれただけの狭いスペース。


 さすがに二晩続けてのボス討伐は修羅場続きの身にはつらい。

 そのはずなのに、なぜか清々しく心地よい疲れを感じながら、俺は夜空を見上げた。


 都会の空は町そのものが夜でも明るいせいもあって、星なんてほとんど見えないけれどさすがに月くらいは見える。


 明るい満月が空の高い位置で銀色に輝いていた。

 

 不意に、アリアの銀髪を思い出して、いつもどこか寂しそうな彼女の横顔が頭をよぎる。

 

 なぜ二度も俺たちを助けてくれたんだろう?

 彼女の助けがなかったら──という考えがふと頭をよぎって急に背筋が寒くなる。


 いや、別にゲーム内での死であって……リアルで死ぬわけじゃない。


 頭じゃわかっているのに、あまりにもリアルすぎた死の恐怖が思い出されて、今さらのように手が小刻みに震えてくる。


 今夜のはまだいいとして……昨日のはガチでヤバすぎた。

 ビルの5Fくらいの高さから地面に叩きつけられそうになるとか──そうそうないだろっていう……。

 

 凄まじい勢いで地面に向かって落下していくときの感覚までもが生々しく思い出されて、気が付けば手のひらがじっとりとした汗で濡れていた。


「……リアルすぎっていうのも……シャレにならないよな」


 VRはリアルな体験をできるっていうのが一番のウリだ。


 だが、リアルな戦闘をトコトン追求した結果、痛みも恐怖も何もかもがホンモノのように感じられた挙句に、死すら例外じゃないなんて……。


 それはもう本当にゲームといえるのだろうか?


 昨日の夜から胸の奥にこびりついた不安が、焦げ付いたままくすぶっている。


 そういえば……今まで考えもしなかったけど、実際にゲーム内で死んで強制ログアウトとなったプレイヤーのその後が気になる。


 何せ昨日の恐怖は尋常じゃなかった。


 気が付いたら死んでいて、強制ログアウトをくらっていたというなら、そう問題はないだろう。


 だが、即死できるとは限らない。

 あの恐怖をじりじりと心身に埋め込まれた挙句に死を迎えたのだとしたらどうだろう?


 下手したら心が壊れてしまうんじゃないだろうか?


 少なくともなにがしかの後遺症は残りそうな気がしてならない……。

 例えば、ゲームでPTSDとか……ヤバすぎだろ。


 このゲームの薄気味悪さの正体がようやく少しだけ分かったような気がして、ため息交じりに苦笑する。


 まあ、例え、そういったリスクがあったにしても、このゲームをやめるつもりなんてまったくない自分のほうがむしろもっとヤバい気がしてならない。


 やればやるほど、工夫すればするほど強くなれる。稼ぐこともできる。

 しかも、それをリアルに還元できる。


 完全平等な世界っていうのが、まさかここまでハマるものだとは思わなかった。


 生まれた場所、環境、親等によって、初期ステータスが天と地ほどもの差がある不平等なリアル。どんなに必死にもがいても、そう簡単には変えられない世界と比べたらどんなにいいか……。


 加えて、誰かに助けを求められたり、役立てたっていう手ごたえが得られる経験は、今の仕事じゃまずありえないことで──恨みを買いこそすれ、感謝なんてされるはずもないエグい仕様のソシャゲばっか乱発してるしな。一体何人の人生を駄目にしたか……考えるだけで鬱になる。


 だからこそ、腐れ縁の無茶ぶりにもついつい応えてしまうんだろうな。


 一日二時間のログインじゃ足りない。


 もういっそのこと、ずっとログインできたままだったらどんなにかいいか。


 そんな考えが胸をちらついて……慌てて打ち消した。


 それはものすごく危険な考えなような気がする。


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