2章―6:どうしようもない腐れ縁
ハルルにサンギータにヒロ。
三人となんとなくつるむようになってからもうどれくらい経つだろう?
スタート地点の島にある初期村トークンから大陸に渡るときに初めてPTを組んだときからだから、もうかれこれ半年以上の付き合いになるか──
なんとなく顔を合わせることが多くて、一緒に狩りをしたり情報を共有しているうちにいつの間にか懐かれてしまった。いわゆる腐れ縁ってヤツだ。
でもまあ、知り合い以上仲間未満っていう感じの緩い関係は……実はわりと気にいっていたりする。
こうやって気の置けない連中となんのしがらみもなくバカやっていると、リアルでの殺伐とした仕事のストレスが紛れる気もするし。
まあ、それとはまた別なストレスがたまるっちゃたまるか……。
「……皆さん、本当に仲良しなんですね」
アリアが不意にどこかしんみりとした口調で呟いた。
「いや……別に……全然そういうのじゃなくて……」
即、誤解をさけるべく弁明にかかるも、すかさずサンギータが抗議にかかる。
「えぇええーっ!? ズッ友だしっ! イヤよイヤよもスキモノのウチっていうシ! だから、リーダーもサ、武士のササクレなら、サカサカギルド作ってヨ! リーダーじゃなくてギルマスって呼ぶのがサンギータの夢ヨ!」
「別に俺でなくてもいいだろ! つか、誰が武士だっ!」
「エー、だって、日本人は全員武士か忍者かゲイシャでショ? 知ってルっ!」
「全部が全部おかしいが、特に最後の! 偏りすぎだろう! 全日本女子に謝れ!」
「ヤダっ!」
ぷいっと顔を背けて頬を膨らませるサンギータ。
って、おまえは子供かっ! いや、案外……中の人はガキなのかもしれないな。そう考えればいろいろもろもろ合点がいく。
「リュウキのギルドなら入ってあげてもいいかもわよ♪」
上目使いに俺をじーっとあざとく見つめてくるハルルに、ヒロがオーバーリアクションで驚いてみせる。
「なんで俺んトコは駄目でリュウキのならいいワケ!? ハルルン差別駄目ゼッタイ!」
「だって、リュウキはハルルンのお気に入りですわよ?」
「俺もぜひお気に入りにしてあげてください!」
「ヒロはなんていうか、ペットって感じ?」
「はい、それはそれで……もう悦んでっ!」
尻尾をぶんぶんとちぎれんばかりに振る子犬のようなヒロに、ハルルはドSなほほえみを浮かべてみせる。ヒロ……おまえ人としての尊厳はどこへ?
「っていうかだ! もうさ、いっそみんなまとめてウチのギルド来ようか! うんうん、それがいい! そうしようっ!」
ウェルカムといった風に両手を広げてみせるヒロに、サンギータとハルルの毒舌が情け容赦なく突き刺さる。
「ヤダ! ヒロがギルマスとかそこまで落ちぶれてナイ!」
「ペットがギルマスのギルドなんて嫌ですわよ!」
「……え、え、えええぇ」
しょんぼりとうなだれながらも、少しだけうれしそうなのはなぜなんだ?
いずれこういったやりとりをごほうびだと言い出しかねないある種の危うさをヒロに感じながらも、相変わらずの気の置けないアホな会話に笑いを誘われる。
俺が苦笑していると、アリアがほっこりとした笑顔を浮かべて言った。
「やっぱりみなさん本当に仲良し。こういうのっていいですね。なんだかうらやましいです」
「いや、結構疲れますよ? っていうか、死ねますよ?」
「でも、楽しそうですよ?」
「気のせいかと──」
「だとしても、うらやましいです」
アリアが遠い目をすると少しだけ寂しそうに笑う。
どうしてそんな風に笑うんだか……気になって仕方ない。
そもそも、超有名人が俺らみたいなバカばっかりやらかしているパーティーをうらやましがるなんてのが謎すぎる。
逆にうらやましがられる側だと思うのに──
まあ、有名人には有名人なりの悩みがあるに違いない。
大型ギルドは、それこそ一攫千金を本気で夢見るトップランカーの巣窟というのもあって殺伐とした噂も耳にするしな……。いわゆる他人の芝は青いってヤツか。
「……まあ、こんなのでよかったら……いつでも……」
「っ!?」
口ごもりながら言うと、アリアは大きく目を瞠って俺を食い入るように見つめてきた。咄嗟に俺は目を逸らしてしまう。
いつからだろう?
他人の目をまっすぐ見ることができなくなったのは。見られるのも正直苦手だ……。
「……本当にっ……いいんですか?」
それはこっちの台詞だ。
「いや、むしろ本当に俺らみたいなのでいいんですか?」
「いいんですっ!」
俺の言葉にかぶせてくるようなアリアの前のめり気味な即答に笑いを誘われる。
なんだか……やっぱり東雲に似ているなー。
そう思うと同時にやっぱり軽くへこむ。
「あ、コラ! 何ちょっとイイ雰囲気になってル!? ずるーい! 混ぜて混ぜてッ! いい意味デーッ!」
「混ぜるな危険。っつか、いい意味ってなんだ!?」
「ええええっ!? 人を毒薬みたいに言わないであげようヨー。褒めるというイミでは度を越えているシ!」
「毒薬か、似たようなもんだろ?」
「フフ、ハルルンは媚薬ですわよ?」
「はい、それはもう悦んでっ!」
「…………」
本当に……こんなんでいいんだろうか?
やっぱりなかったことに──と、言われやしないかとヒヤヒヤする。
だが、うれしそうにうんうんと頷いているアリア様子を見ると、どうやらその可能性はなさそうで胸を撫で下ろす。
ってか、ゲームの中でくらい他人の顔色を窺いすぎなくてもいいだろうに。
リアルの癖はそうそう変えられない。アバターとかで見た目はいくら簡単に変えられても。
と、そのときだった。
突如、膝のあたりから振動が伝わってきて、ハッと我に返る。
ログインするときにかけておいたタイマーに意識が現実へと引き戻され、たちまち鬱になる。
「悪い、もう時間だ。そろそろ落ちないと──」
「ええええーっ!? もう? まだ20分とかしかしてないよ!? あと1時間半以上あるヨ! ドラゴおかわりいけちゃうヨ!?」
「しねえよっ! っていうか、昨日といい今日といい! ボスクラスの討伐は計画的にってあれだけ言っているのに……いい加減懲りろっ!」
「ハルルン、そういうの苦手わよっ!」
「偉そうに言うなっ!」
「いや、偉そうじゃなくて偉いんだよ? 絶対神」
「そうやって周りが『姫』を甘やかすからマズいんだろ!」
「ははは、そんなの人のこと言えないだろ? リュウキも相当俺らを甘やかしてるしなっ!」
「……ぐっ」
自分の言葉がブーメランになって戻ってきて突き刺さる。
「で、まるでカチカチの絆を結ぶヨで結ばれるヨなギルド、いつツクルの!? 今でしょー!」
「いや、つくらないし!」
「もういい加減観念して作ったほうがいいと思いますわよ?」
「全然思わないし! ってか、もう時間マジでヤバいから……仕事に戻るな!」
ヤバいヤバいと言いながらもこうしてついダラダラ付き合ってしまう自分の流され体質が恨めしい。まあ、そうでなけりゃ、とっくにあんな会社辞めてるか……。
「そもそもこんな真夜中なのに──今夜も仕事とか? ホントわよ?」
ハルルからあらぬ疑惑をかけられて、さすがにカチンとくる。
「……昨日も言ったはずだが? しばらく会社で徹夜だっての……ブラックなめんな」
「あんま根つめるなよー? 仕事なんて命削ってまでやるもんじゃない。言い方はちと悪いが代わりはいくらでもいるし大方急がば回れってーもんだ。でも、俺たちにとってリュウキはリュウキしかいない。おまえ一人の身体じゃないってこと忘れるなよ?」
「お、おー……」
根は意外と真面目なヒロが真顔で励ましてくれる。
いや、心配してくれるのはものすごくありがたいが……いちいち誤解されそうな言葉をわざと選ぶのはなぜなんだ?
サンギータとかすげーニタつきながら、妄想全開って感じで受けだの攻めだのブツブツ呟き始めているし……。
まったく──本当にこいつら……どうしようもない。




