第六章 天才少女、盛大に自爆する
「皆様! これこそが、魔導技術の未来ですわ!」
ミレイユは得意満面で宣言した。
観客席には国王夫妻、王太子、王立学院の教授たち、各国の大使まで並んでいる。
侯爵ロルフは満面の笑みを浮かべていた。
「ミレイユ! 我が家の誇りだ!」
「ありがとうございます、お父様!」
義母ベアトリスはハンカチで目元を押さえる。
「なんて素晴らしい娘なのかしら……!」
(泣くのはまだ早いですよ、お義母様)
リゼロッテは思った。
(本当に泣くのは、これからです)
「それでは、起動!」
ミレイユが魔石に触れた。
星灯炉が輝いた。
眩しい金色の光が会場を満たす。
「おおっ!」
「素晴らしい!」
「なんという出力だ!」
観客たちが歓声を上げる。
ミレイユは高らかに笑った。
「おーっほっほっほ! この輝きをご覧なさい!」
ところが。
五秒後。
ゴゴゴゴゴ……。
不気味な音が響き始めた。
魔導器の表面に、赤い亀裂が走る。
「……あら?」
ミレイユが首を傾げる。
ゴゴゴゴゴゴゴ……!
「ミ、ミレイユ! 何だ、その音は!」
父が叫んだ。
「わ、わかりませんわ!」
「止めろ!」
「止め方なんて知りません!」
(でしょうね)
リゼロッテは静かに立ち上がった。
星灯炉の温度が急上昇する。
会場の空気が熱を帯びる。
観客たちが悲鳴を上げた。
「爆発するぞ!」
「逃げろ!」
「誰か、魔導師を!」
ミレイユは泣きそうになっていた。
「お父様! 助けて!」
しかしロルフは、娘を置いて逃げ出そうとしていた。
(親子愛、ここで終了)
義母も同様だった。
「ミレイユ! 何とかしなさい! あなたの発明でしょう!」
「お母様ぁ!」
(素晴らしい家族ですねえ。見事に誰も助け合わない)
リゼロッテは指を鳴らした。
「停止」
たった一言。
星灯炉の周囲に、無数の銀色の文字が浮かび上がった。
空中に幾何学模様が展開する。
巨大な六角形の結界が炉を包み込んだ。
次の瞬間。
ドォォォォンッ!
凄まじい爆発音が響いた。
だが、爆風は一切外へ漏れなかった。
爆発した炉心は、結界の中で粉々になった。
熱と光が収まる。
静寂。
会場にいた誰もが、目を見開いていた。
リゼロッテは指を下ろした。
「……ふう」
そして呟いた。
「まったく。後片づけまで私の仕事ですか」
クロードが横で微笑んだ。
「お見事です」
「舞台下の封印陣のおかげです。設置、ありがとうございました」
「設計者はあなたですがね」
「重たいものを運ぶのは面倒なので」
「それは光栄です」
国王が立ち上がった。
「今の術式は何だ!?」
その声に、リゼロッテは一礼した。
「古代刻印術でございます、陛下」
「古代刻印術だと!?」
王立学院の教授たちが騒然となった。
「馬鹿な! あれは失われた技術のはず!」
「魔力を使わず、空間に直接術式を展開したのか!?」
「誰だ、あの娘は!」
リゼロッテは内心でため息をついた。
(あーあ。目立っちゃった)
しかし、もう隠す必要はない。
彼女はまっすぐ顔を上げた。
「グランフェルト侯爵の長女、リゼロッテと申します」
父の顔が引きつった。
「リ、リゼロッテ……?」
「そして」
彼女は微笑んだ。
「発明者登録番号零零一番。通称『灰梟』です」
一瞬の沈黙。
直後。
「灰梟だとおおおおお!?」
会場が揺れた。
王立学院の教授が立ち上がる。
「新型星灯炉の原型を発明した、あの灰梟か!?」
「古代刻印理論を完成させた!?」
「五年間、正体不明だった伝説の発明者!?」
ミレイユの顔から血の気が引いた。
「う……嘘……」
ロルフも口を開けたまま動かない。
ベアトリスは扇子を取り落とした。
リゼロッテは、にっこり笑った。
「ええ。ちなみに、妹のミレイユが自分の発明として発表していた魔導器は、すべて私が設計したものです」
「なっ……!」
ミレイユが叫んだ。
「嘘ですわ! そんなの嘘!」
「では、原設計図をお見せしましょう」
クロードが合図を出す。
監察官たちが、巨大な映写用魔導鏡を運んできた。
そこに映し出されたのは、五年前の発明者登録記録。
登録番号。
原設計図。
匿名登録時に封印された本人確認証書。
すべてが正式な組合の印章つきだった。
「これは……!」
「登録の日付が、ミレイユ嬢の発表より三年も前だぞ!」
「しかも設計図が完全に一致している!」
オルドが壇上に上がった。
「魔導師組合長として証明いたします! 星灯炉の原型を発明したのは、リゼロッテ・グランフェルト嬢です!」
ミレイユが叫んだ。
「違う! わたくしが発明したのよ!」
「ミレイユ」
リゼロッテは優しく声をかけた。
「それなら、簡単な質問に答えてくれる?」
「な、何よ!」
「炉心の第三刻印は、どうして左回転なの?」
「…………」
「右回転にすると魔素が逆流するからよ。では、第五刻印と第七刻印の間にある空白は?」
「そ、それは……!」
「熱を逃がすための余白。じゃあ、安全弁を外した理由は?」
「だって……邪魔だったから……」
観客席から、ざわめきが広がった。
リゼロッテは微笑んだ。
「そう。邪魔だから外したのね」
「……!」
「それで、さっき爆発したの」
ミレイユは真っ青になった。
「だ、だって! お姉様がちゃんと教えてくれなかったから!」
「三日前に説明したわ」
「知らない!」
「昨日も説明したわ」
「覚えてない!」
「危険だからやめなさい、とも言ったわ」
「うるさい!」
(はい、自白いただきました)
クロードが一歩前に出た。
「その発言は、重大な意味を持ちます」
「……え?」
「安全上の危険を指摘されていたにもかかわらず、意図的に安全装置を取り外した。しかも、王族を含む多数の人間の前で運転した」
クロードの表情から笑みが消えた。
「ミレイユ・グランフェルト。あなたには、危険魔導器の無許可製造、技術登録詐欺、そして重大な危険を認識したうえでの不正運用の容疑がかかっています」
「い、いやああああっ!」
ミレイユが悲鳴を上げた。
「お父様! 助けて!」
「わ、わしは知らん!」
ロルフは慌てて叫んだ。
「すべてミレイユが勝手にやったことだ!」
ミレイユが父を見つめた。
「……え?」
「そうだ! わしは何も知らなかった! 娘が独断で――」
「お父様が、もっと出力を上げろって言ったじゃない!」
「黙れ!」
「王家との契約が取れなければ借金を返せないって!」
「黙らんか!」
「お父様が、わたくしに命令したんでしょう!」
(うわあ。内輪揉め、早いなあ)
リゼロッテは少し感心した。
(これなら残りの証拠、出さなくてもいいかな)
もちろん、出す。
徹底的に。
そのために用意したのだから。




