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いい子でいるのはやめました ~虐げられた天才令嬢は、家族全員に容赦のない報復を始める~  作者: みやこ


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第五章 お姉様、あなたは何もできないでしょう?



翌日。


王立魔導博覧会の会場は、華やかな貴族たちで溢れ返っていた。


今年最大の目玉は、グランフェルト侯爵家の新型星灯炉。


『天才少女ミレイユの大発明』と大きく宣伝されている。


「おーっほっほっほ!」


ミレイユは上機嫌だった。


「ご覧なさい、お姉様! これがわたくしと、あなたの違いですわ!」


リゼロッテは会場の端で、欠伸を噛み殺した。


「素晴らしいですね」


「心がこもっていませんわ!」


「心から申し上げています」


(すごいなあ。こんな大勢の前で、よくあんな欠陥品を自慢できる)


ミレイユは豪華な白いドレスを着ていた。


胸元には大粒の魔石。


髪には宝石の髪飾り。


すべて、新型星灯炉の売上金で購入したものだった。


「今日こそ、王太子殿下にも認めていただくんですの!」


「そうですか」


「お姉様は隅で大人しくしていなさい!」


「喜んで」


「本当に悔しくないんですの?」


「全然」


ミレイユは顔をしかめた。


「つまらない人!」


「よく言われます」


妹が去っていく。


リゼロッテはほっと息を吐いた。


(よし。予定どおり、あと三十分)


そのとき。


「おや。これはリゼロッテ嬢ではありませんか」


ねっとりした声がした。


振り向くと、腹の突き出た中年男が立っていた。


ボルツ伯爵。


婚約者になる予定の男である。


「お噂は聞いておりますぞ。魔力のない、何の取り柄もない娘だとか」


「そのとおりです」


「だが、女は美しければよいのです」


伯爵の視線が、リゼロッテの体を舐めるように動いた。


(うわ。視線に油がついている)


「結婚後は、わしの屋敷から出ることを禁じますぞ」


「そうですか」


「社交も必要ない。男の客と話すことも許しません」


「はあ」


「それから、子供は最低五人は産んでもらう」


(人間を何だと思ってるんだ、この脂身)


リゼロッテは微笑みを崩さなかった。


伯爵が手を伸ばす。


「ほれ、こちらへ――」


その瞬間。


「失礼。彼女に何かご用でしょうか」


低い声が割り込んだ。


クロードだった。


伯爵の手首を、白い手袋をした指が軽く押さえている。


「な、何だ貴様は!」


「王立監察局のクロード・レインハルトです」


「レ、レインハルト公爵家の!?」


「ええ」


クロードは穏やかに微笑んだ。


「彼女が嫌がっているように見えましたので」


「い、いや、わしは婚約者として……」


「まだ婚姻契約は成立していませんね」


「そ、それは!」


「でしたら、手を離していただけますか」


伯爵は慌てて後ずさった。


「ふん! いずれ、わしの妻になる女だ!」


「それは楽しみですね」


クロードは微笑んだ。


「もっとも、私の手元にある契約書では、ずいぶん難しそうですが」


伯爵の顔色が変わった。


「……何?」


「本日の発表をお楽しみに」


クロードはリゼロッテに向き直った。


「お怪我は?」


「ありません」


「それはよかった」


「ですが、助けてもらわなくても平気でしたよ」


「存じています」


「だったら、どうして?」


「私が、腹を立てたので」


リゼロッテは瞬いた。


クロードは少しだけ困った顔をした。


「ああいう男があなたに触れるのを、見たくなかった」


「…………」


「個人的な感情です。ご迷惑でしたか?」


(な、何だ、この人)


リゼロッテは困惑した。


妙に正直だ。


しかも。


(……ちょっと、かっこいいじゃないか)


「……迷惑では、ありません」


「それはよかった」


クロードは嬉しそうに笑った。


「では、約束の品を」


差し出されたのは、小さな箱だった。


中には、丸くて可愛らしい焼き菓子が並んでいる。


「蜂蜜とバターの焼き菓子です」


「…………」


「リゼロッテ嬢?」


「クロード様」


「はい」


「あなた、もしかして」


「はい」


「私を餌付けしています?」


クロードは一瞬沈黙した。


そして、爽やかに答えた。


「少々」


「認めた!」


「隠し事は苦手ですので」


リゼロッテは頭を抱えた。


(この人、危険すぎる)


家族の誰も、自分が何を好きかなど気にしたことがなかった。


食事を与えるときも、服を買うときも、贈り物をするときも。


いつも、余り物だった。


なのに、この男は。


彼女が好きなものを覚えている。


彼女が疲れていないかを気にする。


無理に何かをさせようとしない。


(……困った)


リゼロッテは焼き菓子を一つ取った。


「おいしいです」


「それは何より」


「もう一ついただいても?」


「全部あなたのものですよ」


「……結婚詐欺師の才能がありますね」


「最高の褒め言葉として受け取ります」


二人は顔を見合わせて笑った。


そのとき、会場に大きな鐘の音が響いた。


「皆様!」


ミレイユの声が魔導拡声器から流れる。


「お待たせいたしました! これより、わたくしの最高傑作をお披露目いたします!」


拍手が起こる。


中央舞台に、巨大な星灯炉が運ばれてきた。


高さ三メートル。


銀色の装飾が施された、美しい魔導器だった。


ただし。


(うわあ)


リゼロッテは目を細めた。


(さらに改造してる)


昨日の設計では、出力は三倍だった。


しかし、目の前の星灯炉は違った。


(六倍かあ。頑張っちゃったなあ)


安全弁はない。


冷却回路もない。


おまけに魔素の流入量を抑える調整器まで外されている。


本来なら、間違いなく大事故になる代物だった。


「準備は?」


リゼロッテが小声で尋ねる。


クロードは頷いた。


「避難経路の確保は完了。舞台下の封印陣も設置済みです。監察官たちは全員配置についています」


「証拠の確認は?」


「販売記録と組合登録は照合済み。慈善基金についても、銀行の正式な記録が取れました。ダリオの取引相手は昨夜、拘束されています」


「よかった」


「ただし、欠陥炉については現物の鑑定が必要です」


「では、始めましょうか」


リゼロッテは最後の焼き菓子を口に入れた。


(さあ)


彼女は舞台を見上げた。


(まとめて片づけますか)

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