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いい子でいるのはやめました ~虐げられた天才令嬢は、家族全員に容赦のない報復を始める~  作者: みやこ


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第三章 天才令嬢、ようやく本気を出す



翌朝。


王都の魔導師組合本部に、一人の令嬢が現れた。


「すみません」


受付嬢が顔を上げる。


「はい。ご用件は?」


「発明者登録の、本人確認をお願いします」


「登録番号をお伺いできますか?」


「零零一番です」


受付嬢が固まった。


「……え?」


「零零一番」


「少々お待ちください!」


受付嬢は奥へ走っていった。


三十秒後。


二階から、白髪の老人が転がるように駆け下りてきた。


「灰梟様あああああっ!」


「声が大きいです」


「本物ですか! 本当にご本人ですか!」


「偽物が来る理由、あります?」


「五年! 五年間、探しておったのですぞ!」


リゼロッテは耳を押さえた。


老人は魔導師組合の最高責任者、オルド・ヘルマン。


王国随一の魔導学者である。


そして、リゼロッテの才能を知る数少ない人物だった。


『灰梟』。


それが、リゼロッテが十五歳のときに登録した発明者名だった。


未成年でも発明を保護できる組合の匿名登録制度を使い、母の遺した後見証書を添えて登録したのである。


当時、発明者本人の意向で身元は封印された。


十八歳を過ぎれば、本人の申請で公開できる。


だが、リゼロッテは一度も公開を申請していなかった。


理由はもちろん。


面倒だから。


「今日は、何のご用で?」


「五年前に登録した『星灯炉の基本刻印』について、権利侵害の申し立てを」


オルドの顔色が変わった。


「まさか……!」


「はい。グランフェルト侯爵家が、私の許可なく量産しています」


「なんということじゃ!」


「あと、娘のミレイユが改造した欠陥品を、今日の博覧会で発表する予定です」


「何じゃとおおおおっ!」


「声」


「申し訳ない!」


老人は慌てて口を押さえた。


リゼロッテは鞄から分厚い書類の束を取り出した。


「こちらが原設計図。こちらが使用許可契約書。許可したのは侯爵家の自家用十基のみです。量産と販売は認めていません」


「ふむ……確かに」


「こちらが侯爵家の販売記録です。過去三年間で、五千六百四十二基」


「五千六百四十二基!?」


「こちらが売上帳簿。こちらが出荷先。こちらが改造型の安全性試験結果です」


「……ずいぶん、準備がよろしいですな」


「やるなら一回で終わらせたいので」


(何度も裁判所に通うなんて、絶対に嫌)


「なるほど……」


オルドは書類をめくった。


そして、厳しい表情になった。


「これは、ただの権利侵害ではありませんぞ。危険な魔導器を安全認証なしで販売しています。しかも組合の登録印まで偽造しておる」


「はい」


「侯爵家は、重大な犯罪を犯しています」


「承知しています」


「……ところで、こちらの資料は?」


「父の裏帳簿です」


「こちらは?」


「義母の慈善基金の横領記録」


「では、こちらは?」


「弟の違法魔剣販売記録です」


老人は絶句した。


「……灰梟様」


「はい?」


「ご家族を告発するおつもりですか?」


リゼロッテは首を傾げた。


「ええ」


「その……全員を?」


「全員です」


「…………」


「一人残すと、あとで面倒でしょう?」


オルドはしばらく黙っていた。


そして、突然大笑いした。


「はっはっは! 恐ろしいお嬢さんじゃ!」


「褒め言葉として受け取ります」


「しかし、これだけでは侯爵を逮捕するのは難しい。裏帳簿は真正性の確認が必要ですし、慈善基金については独立した調査が必要です」


「もちろんです。だから、王立監察局に来ていただきました」


「……は?」


そのとき、背後から声がした。


「お呼びでしょうか、リゼロッテ嬢」


振り向くと、長身の青年が立っていた。


銀色の髪。


切れ長の青い瞳。


端正な顔立ちに、細い銀縁の眼鏡。


黒い監察官の制服を着こなした青年は、優雅に一礼した。


「王立魔導監察局、第一監察官。クロード・レインハルトと申します」


オルドが目を見開いた。


「クロード卿!?」


彼は公爵家の次男で、王国でも屈指の魔導犯罪捜査官だった。


そして。


「五年ぶりですね、灰梟先生」


リゼロッテは顔をしかめた。


「その呼び方、やめてください」


「では、リゼさん」


「親しすぎます」


「リゼロッテ嬢」


「長いです」


「どうしろと?」


「呼ばなくていいです」


クロードは楽しそうに笑った。


「相変わらずですね」


「あなたも相変わらず、面倒な方ですね」


実は二人は、五年前に出会っていた。


当時十八歳だったクロードは、匿名発明者の登録に立ち会った監察官補佐だった。


そのとき彼は、十五歳の少女が提出した術式を見て、度肝を抜かれたのである。


魔力ゼロの少女が、王立学院の教授たちにも理解できない魔導理論を完成させていた。


さらに衝撃的だったのは、少女が発した言葉だった。


『これ、誰か代わりに発表してくれません? 人前に出るの、面倒なので』


クロードは、その瞬間から彼女が気になっていた。


「今回はずいぶん積極的ですね」


「家族を破滅させることにしました」


「なるほど」


「驚かないんですか?」


「あなたがそう決めたなら、よほどのことがあったのでしょう」


クロードは微笑んだ。


「ただし、犯罪の立証は法に従って進めます。私情だけで侯爵家を処罰することはできません」


「もちろん。証拠は山ほどあります」


「拝見しましょう」


リゼロッテが鞄を開ける。


中から、さらに三冊の帳簿が出てきた。


クロードの笑顔が固まった。


「……全部、持ってきたのですか?」


「はい」


「重かったでしょう」


「浮遊刻印で運びました」


「なるほど」


「ところで、監察官殿」


「何でしょう?」


「逮捕まで、どれくらいかかります?」


「罪状にもよりますが、証拠の確認に――」


「三日以内でお願いします」


「無茶をおっしゃる」


「では二日」


「増やさないでください」


「一日」


「リゼロッテ嬢」


「はい」


「交渉という言葉の意味をご存じですか?」


「知っています。相手に面倒を押しつける行為です」


クロードはとうとう吹き出した。


「……あなたは、本当に面白い方だ」


「私は面白くなくていいので、仕事をしてください」


「承知しました」


彼は書類を受け取った。


そして、ふとリゼロッテの頬を見た。


薄く、赤い痣が残っていた。


クロードの笑顔が消える。


「その頬は?」


「父に殴られました」


「……そうですか」


声が低くなった。


「あなたの意思を確認します。侯爵家への捜査が始まれば、もう以前の生活には戻れません」


「戻りたくありません」


「わかりました」


クロードは頷いた。


「では、私も本気で動きましょう」


リゼロッテは、彼の顔を見上げた。


(あれ。この人、意外と頼もしい)


だが。


「ただし、監察官として一つお願いがあります」


「何でしょう」


「本日は、きちんと昼食を取ってください」


「……は?」


「朝食も召し上がっていないのでしょう?」


「なぜわかるんですか」


「先ほどから、あなたのお腹が三回鳴っています」


「…………」


リゼロッテは真顔になった。


「聞かなかったことにしてください」


「残念ながら、監察官は聞いたことを忘れられません」


「職業病ですね」


「ええ。深刻なものです」


クロードは笑いながら、焼きたてのパンが入った包みを差し出した。


「よければ、どうぞ」


リゼロッテは包みを見つめた。


蜂蜜を塗った、香ばしいパン。


彼女の好物だった。


「……賄賂ですか?」


「そうですね。今後も私を頼っていただくための」


「なかなか悪質ですね」


「受け取っていただけますか?」


リゼロッテは一つ取った。


「……仕方ありませんね」


かじる。


美味しい。


ものすごく美味しい。


(この人、危険だな)


リゼロッテは思った。


(私の攻略方法を、もう見つけている)




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― 新着の感想 ―
リゼロッテ様性格がナイスです♡ クロード様は…リゼロッテ様のあまりに準備万端な様子に少々動揺を隠しきれていないようで… 「では二日」と切り返されて「増やさないでください」と反論なさっていますが 日数自…
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