名トレーナー・ルーカス ―努力よりも合理性を―
おっかなびっくりにカリナはルーカスの言葉を待つ。ルーカスは冷静なまま淡々と説明を始めた。
『よし、指定位置で標準姿勢で機体保持の後、標準武装のレーザーライフルでターゲットドローンを打て。姿勢確定、武装保持確定、武装起動確定、出力励起確定、照準確定、攻撃確定――と続く。このプロセスは頭に入っているな?』
「はい!」
『よし、まずは固定位置での定点射撃だ。20のターゲットを連続で撃て』
「準備良し!」
『始め!』
無線ヘッドセットからのルーカスの声でカリナは攻撃を開始した。もちろん、真剣に狙いを定めて。姿勢保持、武装保持、武装の起動、出力上昇――すべてのプロセスは正確に行われた。そして、狙いも真剣に定めた――だが。
『20発中、10発命中――実戦想定では全然ダメだな』
ルーカスの冷淡な声が聞こえた。
「あぅ――」
カリナも言葉を失う。だが――
『このまま続ける。次、膝立射』
「はい」
ルーカスは全く叱責しなかった。
――ジェイならまちがいなく怒鳴るのに――
その違いにカリナは驚いていた。そして、さらに膝立射の次は伏射と続く。総計60発――命中したのは31発だ。すべてを打ち終えてルーカスに呼び出される。機体を降りてガレージ内の情報端末の前に呼び出された。何を言われるかとビクビクすれば、ルーカスは冷静なままだった。
「カリナ、端的に言うぞ。君には射撃の適性はない」
「はい……」
きっぱり言われると流石にしょげる。だが、ルーカスは言った。
「射撃の適性が無いのは仕方ないさ。君はもともと、剣を使った近接戦闘が得意なのだろう?」
「はい、そうですが」
「だったら、自分の適性に見合った領域で頑張ればいいさ。射撃の命中精度の問題は機体AIの補助を入れればいい。場合によっては強化型の射撃管制AIを追加する方法もある。自分に見合った方法を選べばいいさ」
ルーカスのこの言葉には流石にカリナも戸惑った。
「そ、そんなんで良いんですか? 練習とか特訓とか?」
だがルーカスは言う。
「時間の無駄だ」
「無駄って――」
あまりにきっぱりとした言い方に流石にカリナも呆気にとられた。だが、ルーカスには理由があったのだ。
「ヴァンガードの戦闘において重要なのは〝チームワーク〟だ。それぞれの得意とする領域を持ち寄り〝総合的〟な戦闘力で結果を出すのが最も重要だ。ジェイならすぐに叱責するだろうが、俺は違う。できないものはできない。ならば、AIでも電脳でもなんでも使って欠点をカバーしつつ、得意とする領域をフルに生かせる方法を考えるさ」
ルーカスのその言葉に見合った言葉をカリナは見つけた。
「合理的なんですね。ルーカスさんって」
「褒め言葉と受け取っておくよ」
仏頂面の多いルーカスだったが、このときだけは口元に笑みを浮かべた。
「俺はもともと戦車兵でね。ヴァンガードと違って戦車は4~5人でチームワークで操縦する。当然、個々の適性に見合ったパートを任される。俺はその考えが染み付いているから他人の苦手や弱みは突き上げない。その人の持つ長所を信じるよ」
その言葉を聞いた瞬間、カリナはルーカスの人柄を垣間見た気がした。
「それに君は剣士だ、近接戦闘が最も相応しい。ならば、射撃技能は重視しない。それこそAIの力を借りるさ」
「わかりました。ルーカスさんの考えに従ってやってみようと思います」
「だったら、エレナさんに頼んで機体をカスタムしよう」
「はい!」
カリナがルーカスの気遣いの一端を垣間見た瞬間だった。




