指導教官ルーカス ―叩き込みから、学びの場へ―
そして、その日の午後からルーカスがやってきた。
いつものスーツ姿ではなく、カーキ色の軍用作業着に丸角帽と言ういでたちだった。右腰には拳銃も下げており明らかに戦闘を意識した服装であることがわかる。スーツ姿でないところがルーカスの冷たい印象をより強くしていた。
初対面の頃から比べれば話せるようにはなったが、やはりまだジェイほどにはうち溶けてはいない。
「おいで頂きありがとうございます」
「これから2週間、しっかり叩き込むぞ」
「はい」
普通に接しようとしているのだが、どうしても内面の緊張が滲み出るのだろう。ため息をついた。
「そんなに怖がるな! 何も取って食うってわけじゃないんだぞ? 確かに俺第一印象で怖いって言われるけどな」
「あ、そうなんですか?」
「ああ、治安維持や犯罪取り締まりという仕事をしていると、どうしても相手を睨みつける癖が出てな――、頭の中が常に犯人と犯罪を取り締まることで頭がいっぱいになるんだ。子供相手に泣かれるのはしょっちゅうさ」
そう言いながら苦笑しつつ頭をかいた。そんな仕草に彼が悪い人ではないということカリナは察した。
「改めてお願いします」
「ああ、始めようか」
「はい」
こうしてルーカスの指導による後半の教習工程が始まった。
§
ルーカスの指導は恐ろしく理論的だった。
ジェイが褒めと叱責を巧みに使い分け指導内容を〝叩き込む〟いかにも軍人的なやり方だったのだが、対するルーカスは情報と技術を理論的に展開してそれを〝学ばせる〟と言うやり方だった。
戦場における応用能力が試される後半の教習工程を教えるのに当たって、その理論的で理路整然とした教え方は、ルーカスのやり方の方がぴったりだったのだ。
「ヴァンガードの操縦において戦闘は、基本的な移動操作と異なり、戦闘活動を支援するAIユニットとの連携協調が非常に重要になる。なぜだか分かるか?」
「はい、ヴァンガードを操縦するにあたって、複数の武装を人間の両腕の操作だけではこなし切るのは物理的に不可能だからです」
「その通り、ましてや敵は何を考えているのかわからないアイアンオーダーだ。状況に応じて装備を適切に切り替えることが最も重要になる。そのための判断をAIによる判断能力に任せるのは至極当然のことだ。そしてさらにパイロットには何が要求されるかわかるか?」
少し沈黙してカリナは答えた。
「戦場状況を俯瞰的な視点で冷静に把握して、AIそのものに対してきちんとした戦闘方針を示せる指導力です」
そこでルーカスがニヤリと笑う。
「正解だ。よく分かったな。AIが機能発達して、どんなに優秀になったとしても、人間がやってる判断や動作のその全てを委ねることは不可能だ。だからこそ、その戦場の中で自分がどう動き、誰を攻撃するのか? どんな風に回避すれば良いのか? それを策定し判断するのはパイロットである自分自身以外にない」
「それが私なのですね」
「そうだ、しっかりと指導するから、分からないことがあれば何でも聞け」
「はい! よろしくお願いします!」
こうしてカリナの後半の教習が始まった。
基本操作と移動機能の習得を主体とした前半と異なり、後半は戦術操縦を意識した実戦型の戦闘訓練となる。
標準射撃訓練――、移動射撃訓練――、と射撃系攻撃の訓練が続き、その後に、格闘系訓練が続く。
だが、この2つの射撃系訓練が最大の鬼門だったのだ。




