ジェイ、戦場へ旅立つ
その翌日の朝、ジェイは戦場へと出発する準備に余念がなかった。
自分が使う機体のメンテナンスはもちろんのこと、衣類や個人所持品、万が一の自衛用の武器も必要になる。命令を受諾するための法的手続きも関与してくる。慌ただしく準備が進む中、残るは愛機のヴァンガードの最終チェックだけになった。
「よし、こんなもんか」
必要な装備を操縦席の後ろに乗せて準備は終わる。コックピットから降りてきて地面に降り立った時、ガレージの隅から姿を現したのはカリナだった。いつも訓練時の服装のままだが雰囲気が違った。
「あの、ジェイさん」
「どうしたカリナ?」
はがきほどの大きさの紙が両手で携えられている。真剣そうに、それでいて不安そうにカリナはジェイにそっと歩み寄る。
「お渡ししたいものがあって」
「なんだい? 改まって」
ジェイもやるべきことは終えてるので今のうちは暇がある。
「今のうちなら多少は時間があるぜ」
その言葉にカリナの顔が少しだけ明るくなった。
「実は――、これなんです」
そう言いながら恐る恐るに手にしていたカードを手渡すと、ジェイはそれを不思議そうに見つめていた。渡されたカードは赤い厚手の起毛布で裏打ちされていて厚手の作りのしっかりしたカードだった。
白い紙面の上には魔法陣が描かれていて、その中央には稲妻のような斜めになったZ字のような文字が描かれている。文字はこちらの世界にない独特なもので、カリナのふるさとの世界ソルスターにゆかりがあるものなどは間違いなかった。
それを受け取りながらジェイは尋ねる。
「これは?」
「お守りです、ジェイさんの無事を願って」
お守りの護符のようなものだ。それを受け取りながらジェイはさらに尋ねた。
「自分で作ったのか?」
「はい、私が元いた世界で戦いと勝利を象徴する神〝ブロンテス神〟の祈念札です」
「自分で作ったのか」
「はい、こちらの世界にはいない神なので気休めにしかなりませんけど」
「気休めでも嬉しいよ」
ジェイは笑みを浮かべながら護符を受け取った。2人並んでガレージの片隅にある折りたたみ椅子へと腰を下ろす。そしてジェイにカリナはそっと尋ねた。
「ジェイさんはなぜ傭兵をしてるんですか?」
それは素朴でなおかつ重い質問だった。だが、ジェイは嫌な顔一つせずことなく素直に答えてくれた。
「親父が傭兵だったんだ」
「お父さんが?」
「ああ、俺の親父はアメリカという国の軍人で、中東の軍事基地で働いていた。そしてそのまま世界がアイアンオーダーとの戦いに突入したんだ。当然親父は戦いに駆り出され故郷に帰れなくなった。基地施設で働いていた母さんとはその以前から付き合いがあったらしいけどな」
「お父さんはそのままアイアンオーダーと戦いを?」
「ああ、ずっと続けた。戦闘ヘリのパイロットでね、一説にはヴァンガードの開発研究にも携わったと言われている。アイアンオーダーに対する決定的な打撃が無い状況で死に物狂いで戦った」
そう語るジェイの顔は父親への尊敬と憧れを滲ませていた。
「お父さんは今も戦ってるのですか?」
「いや――、2年前に東欧エリアの防衛都市で、戦闘指導として招かれて教官として活動していたが、アイアンオーダーの奇襲から市民を守るために戦いに参加して戦死した」
「そうだったんですか――」
「この時代珍しい話じゃないがな。ただお袋がせめて骨だけでも欲しいと泣いてるのをなだめるのはかなり苦労したけどな」
「骨を? 遺骨ですか」
「ああ、基本的に現在のこの世界では戦場での遺体は現地で処理するのが鉄則だ。よほど特別な事情がない限り遺体を故郷に送ることは絶対にない。そんな余裕はこの世界にいないからな」
カリナはその言葉にこの世界の現実の一端を知った。
「最優先で運ぶものがあるからですね」
ジェイは無言で頷いていた。そして立ち上がりながら言う。
「カリナ、もし俺が戻って来れなくても気にするなよ?」
「えっ?」
思わぬことを聞かされたカリナは驚いたような顔をする。でも同時にジェイが戦死したならば間違いなく泣くだろうということも確信があった。
「お前気づいてないけど、案外涙もろいからな。結構怖がりやで、いつもおっかなびっくりにしてる。向こうの世界でも勇者に見えないって言われたことないか?」
図星だったので、苦笑するしかなかった。
「あ、はい――プライベートの私を知ってる人からはよく言われました」
「だろうな。でも忘れるなよ、お前は覚悟を決めるとものすごい勢いで走り出す。そして誰にも負けない強い心を持っている。その心の強さがお前の強さの源だ」
そしてジェイは右手を差し出す。カリナも答えるように右手を差し出し握手する。
「戻ってきたら教習の成果を見せてもらうよ」
「はい! その頃までには乗りこなして見せます」
「それじゃあ行ってくる」
「ご武運を」
遠くでレオンが呼んでいる。
「今行きます!」
大声で返答してジェイは歩き出した。その背中をカリナはいつまでも見守っていたのだった。
( 'ω'o[ 読者様へ ]o
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