カリナ、辛い記憶
「もしかして『お前の代わりはいくらでもいる』なんて言われなかったかい?」
そう言われた時カリナはカップを机に置くと左腰に下げていたレギオンブレイドの柄をぎゅっと握った。
「はい、何度も。反抗的な態度を取るとブたれるのはしばしばでした」
その言葉と同時にカリナの目から涙がこぼれ落ちた。
「私が拉致された軍政国家では勇者は〝使い捨て〟なんです。だからこそ後腐れがないように孤児の中から選ばれます。私は捨てられないために死に物狂いで戦いました。訓練に耐え、どんな任務にも食い下がり、ミスをしないように最新の注意をはらい、捨てられないように無我夢中だった。でも心は擦り切れそうになっていました」
「それからどうなったんだい? ずっとそのままだったわけじゃないだろう?」
カリナの口元に笑みが浮かぶ。
「はい、幸い私を親身に思って手を貸してくれる人も大勢いました。私をかばって助けてくれる兵卒の人もいました。そしてある日、私はエリュシオとともに救い出されたんです。聖剣レギオンブレイドを真に世界平和のために活かそうと決意し、同盟を結んだ7つの国、その連合軍と、心ある戦士たちの一団でした。身も心も擦り切れそうだった私を見つけて彼らは手を差し伸べてくれた、あの時の温かい手は一生忘れない――」
いつしかエレナはカリナと膝を合わせて並んで座っていた。過去のつらい記憶を紐解くカリナのその髪を優しく撫でてくれていた。
「それからすぐに魔族との戦乱の主導権が7つの同盟国に移行すると、私が団長となる魔法剣士騎士団が結成されて安心して戦えるようになりました。それから勝利を重ねて――」
「戦争を終わらせた――」
「はい、最終的に戦争に勝ったからいいけど、途中で負けていたら私はここにいません。もしかすると剣だけが回収されて道端で野ざらしになっていたかもしれない。心ある人たちに救われてほんとうの意味で勇者として再起しました。でも、それだって戦いはずっと綱渡りだった。楽だったことなんて一度もなかった。食べ物も武器も寝るところも、なにもなかったなんてザラでした」
「よく、耐えきったね」
「はい。だから、こちらの世界に飛ばされた時、会う人全てが真剣に優しくしてくれたのがものすごく嬉しかった。この世界の事をなにも知らない私に一つ一つ丁寧に教えてくれた事は忘れられません」
「そうかい、でも頑張ったかいあって戦争は終わらせたんだろう?」
そう問われたカリナだったが、不意に顔が曇った。
「はい。でも、戦争が終わったら今度は私は平和の象徴として祀りあげられてしまいました。仲間とも引き離されて、権力者のご機嫌を伺う毎日。話し相手すら居ない。こんなのいつまで続くんだろうって思った」
それが限界だった。カリナは大粒の涙をこぼし号泣し始めた。心の中で抱えて抑えてきたものが溢れ出したのだ。エレナはそんなカリナを優しく抱きしめた。
「よく頑張ったね。でもこれからは誰かのために自分を犠牲にするんじゃなくて、自分の意志で自分のために生きていいんだよ? この世界ならあんたが戦いたくないと言えば誰も咎めない。だってそれは仕方がないことだから。それでも戦いたいと思うなら、それは自分自身のために理由を見つけるといい」
エレナの胸の中でカリナは頷いた。




