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カリナと魔導教官

 離れの別室、魔導を行使しても影響のない特別訓練場、そこでカリナはあの魔導士と対話した。


「先生」

「なんだ」

「薄々分かっているのですが、前任者は死んだのですね?」


 リルケの命運に諦念をにじませて呟けば。その魔導士は初めて人間らしい表情を見せた。


「やはり気づいていたか」

「はい」

「すまない。私にもっと力があれば、聖剣の担い手の使い捨てなどやめさせられるのに。本当にすまない」


 鉄面皮で冷酷、それが子どもたちの感想だった。だが、


「安心しました」

「なに」


 カリナは安堵していた。


「先生が真人間だったから」

「なぜそう思う」

「おそらく先生ですらこの国の軍の幹部には逆らえないのだと思っていました」


 カリナがそう言えば先生は悲しげな表情をした。


「妹が人質にとられている」


 それが先生が逆らえない理由だった。だが先生はこうも言った。


「君は私が見た中で最高の素質を持った候補者だ。君がこれから使い捨てされずに生きていくためには一つしか無い」

「それは一体?」

「誰よりも優秀な逸材だと認めさせることだ」


 当然の答えだった。


「ただ、単に優秀という程度では通用しない。〝本物の勇者〟と呼ぶにふさわさしい実力を見せるのだ。そうすれば君という存在を無視はできなくなる」


 しかしそれは逆に言えばそうでなければ見捨てられると言う事でもあった。カリナは息を飲み込むと覚悟を決めた。


「わかりました。ご指導願います」


 カリナの真剣な表情に魔導士は向かい合う、


「周りに怪しまれない必要がある、徹底的にしごくぞ」

「覚悟の上です」

「よし、その言葉、信じるぞ」


 その瞬間から、彼とは師弟と呼べる間柄となった。そして、地獄という言葉では生易しい毎日が始まった。


 通常の軍事教練の他に特訓と称して一対一の〝シゴキ〟、一流の魔導士の直伝による徹底した猛特訓だ。

 集中力の鍛錬、霊的錬度の底上げなど、肉体の鍛錬も単なる筋力だけではなく精神体鍛錬にまで及んだ。極寒状態や灼熱状態での鍛錬も頻繁に行われる。そんなシゴキめいた過酷な特訓を課したのは、カリナを特別扱いして甘やかしていると軍幹部にみなされないようにするためでもあった。

 事実、あまりに過酷な特訓に、普段から候補者の子どもたちを殴り飛ばしている軍士官ですら制止することもあった。

 魔法陣の中で霊的加圧を受けながら精神集中をする訓練。脳への負担は半端ではなく大人でも気絶することのある高負荷訓練、カリナは鼻血を出すほどだった。


「やりすぎだ! 鼻血をだしている! 死んでしまうぞ!?」

「これは異な、軍務についてこれない子どもたちを使い捨てにしているあなた達が言う言葉ですか?」

「なに?」

「いいですか? 私は最前線で必要なレベルに彼女を引き上げる必要があるからこそシゴイているのです。脳が焼ききれて死んだらそれまで。また他の候補者を使えば良いだけのことです。それともなんですか? 適合する子どもたちの数が足らなくなってきたとでも?」


 魔導士の指摘に軍士官は言葉を失った。図星だったからだ。それ以上の反論もせずに舌打ちして去っていく。横目で見送りながら魔導士はカリナに言った。


「修行を急ぐぞ。いつ、戦場行きになるかわからんからな」

「はい」


 容赦のない修業を課す魔導士だったが彼の特訓ならば耐えられた。彼が胸に秘めている願いを知っているから。


「なんとしても生き残れカリナ」

「はい」

「お前が死ななければ、次の犠牲者は生まれない」


 それがカリナが先生と呼ぶ魔導士が抱く本当の願いなのだから。

 カリナは長い夢を見ていたのだった。


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