ドラゴンの墓場にて ―カリナ・大ドラゴンの魂と語らう―
今、決戦の時。
魔王城の前衛地、通称〝ドラゴンの墓場〟にて〝彼ら〟は集っていた。
その中の一人、一人の少女が先頭を切って歩きだすと、何者かへと語りかけようとする。
「行こうか、エリュシオ」
そして〝エリュシオ〟と呼ばれた存在は妙齢の大人の女性の声で姿を見せずに答えた。
『はい、カリナ――、長年に渡る戦いを終結させるために』
「そして、みんなに平和と自由をもたらすのよ」
『えぇ、それこそが一千五百年の時を経て受け継がれてきた聖剣レギオンブレイドを引き継ぐ〝勇者〟にして〝聖剣の巫女〟たるあなたの役目なのですから』
そこに佇むのは一人の少女だった。齢18歳になる勇敢なる少女剣士〝カリナ・ウィングス〟だ。
そのカリナに話しかけるのは人間ではない。聖剣レギオンブレイドの十字鍔にはめ込まれた宝珠クリスタルに宿る精霊〝エリュシオ〟である。
「エリュシオ――、あなたの力も貸してもらうわね」
『おまかせを、聖剣と精霊は勇者とともにあるのですから』
二人はまさに一心同体――、6歳で運命に導かれて出会ってから、いつでも共に歩いてきたのだから。
カリナは、決意を胸に聖剣レギオンブレイドを左腰に下げて歩き出す。するとドラゴンの墓場の苔むした大地に同化するかのように眠っていた古の魂が呼びかけてきた。大地に響くような重く力と威厳に満ちた声だ。かつてはこの戦乱の大地を支配していた竜皇大ドラゴンの御霊である。
『勇者カリナよ――』
「これは、偉大なる大ドラゴン」
『行くか、魔王の伏城へ』
「行きます、不毛な戦いを終わらせるのは今をおいて他にないのですから」
『強いなお主は、戦うことに迷いがないかのようだ』
「いえ、現世勇者と呼ばれる私でも、怖いと思うことはあります。戦いの前夜は眠れない事もあります」
『ならば、なぜ戦場に向かう?』
それは悠久の時を見守り続けた大ドラゴンの亡霊だからこその疑問だったのだろう。
『お主のような小娘が――年端もゆかぬ愛らしいお主がなぜ?』
大ドラゴンの魂の重く響く言葉に、カリナの脳裏に大切な記憶が蘇る。
カリナの父は、村が魔王軍に襲われたときに身を挺して家族を守った勇気ある人。
傷だらけになっても、家族を護った父の最後の背中は今でも脳裏に焼き付いている。
さらに母は、放浪の末、魔族兵の集団に襲われ、身を犠牲にしてカリナを守り抜いた愛ある人。
カリナは巨木のうろの中に母により隠された。あえて自らが囮となり、遠くへ去っていく時の声は耳に焼き付いている。
二人はもう居ない、だが、カリナの心のなかで、大切な支えとして今でもあり続ける。
そして、カリナは、大ドラゴンに朗々と答えた。
「だれかが死ぬところを見たくないんです。私自身、父と母に死なれた過去がある。敵意を持って滅ぼし合う――そんな世界を一刻も早く停めたいのです」
それは死と別れを心の原点に持つカリナだからこそ抱いた思いだ。
「人も、魔族も、多種族も――自由に暮らせる世界を取り戻すために」
『人のみならず、人ならざる者までも救おうとするか、汝は』
古の大ドラゴンの御霊は、歩き出したカリナの背中に向けて、そっと祝福を投げかけた。
『天上の神よ、この誇り高き勇者に祝福をあたえたまえ』
カリナは振り返り、心からの笑顔を向ける。
「ありがとう、勝利を掴み、必ずや戻ってまいります!」
『うむ、武運を祈る』
カリナは大ドラゴンと言葉をかわし、日の出前の戦場へ向ったのである。




