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出迎えるルーカス ―カリナ、過去を語り始める―

 時計の時間は夜9時半――

 医療施設の入り口は当然閉じている。裏手の勝手口からそっと足音をひそめて2人は戻ってきた。


「やっと戻ってきたか」


 憮然とした声で待っていたのは当然ルーカスである。


「待ってたのかお前」


 全く気にしてない素振りで、ジェイは明るくかわした。これがまたさらにルーカスを苛立たせた。


「お陰様で残業だよ。管理監督役が無断で監視対象を連れ出すなんてことがあるか!」


 当然の雷である。そしてその怒りの矛先はカリナにも向けられた。


「君も君だ! 自分の立場を分かっているのか」


 状況的に怒られるのが間違いないので、先ほどからカリナはジェイの背後で小さく固まっていた。


「す、すいません……、傭兵の先輩方とお話するのが楽しくてつい――」

「傭兵の先輩?」


 ルーカスはカリナの言葉に興味を惹かれたようだ。改めてジェイにどこに行ったのかと問いかける。


「お前、彼女どこに連れ出した?」


 ジェイはニヤリと笑いながら明るく言い放った。


「あぁ、いつものとこだ傭兵たちのたまり場だ」

「!――あそこか」


 あの店はルーカスも知っていた。


「なるほど、頭で悩んでいるより経験者の声を聞かせに行ってやったのか」

「そういうこと。現実を知れば、理解をするのはより早くなるだろ?」

「――それで? 成果はあったのか?」

「それについては本人から聞いた方が早いぞ?」


 それもそうかとルーカスはカリナの方へと歩み寄った。


「それで? 門限破りした甲斐はあったのか?」


 するとカリナはジェイの背中から出てくると落ち着いた表情でルーカスへ答えた。


「はい、実際に戦場で戦う人たちの生の声を聞いたので自分なりにイメージを持つことができました」

「それをこれからの戦いでいかせそうか?」

「はい!」

「そうか――」


 カリナの太陽のような笑顔にそれ以上無理に突っ込むことができなくなったルーカスだった。


「だがな、病院の門限を破ったのは事実は事実。実際、病院のスタッフたちが、ずっと心配してたんだ」

「後で謝りに向かいます」

「ああ、あとそれとジェイと一緒に〝始末書〟は書くように」


 ルールはルール、処分は処分だ。カリナは抵抗せずに素直に同意した。



§



 そして3人は病院の中のカリナの個室へと向かう。始末書を書くためだ。

 タブレットPCで電子書類として始末書を書いて、それを所定の場所へと送信すれば終わりである。あっさりした状況にカリナは少し驚いていた。


「こんな簡単でいいんですか?」

「ああ、こういう事実があったと記録するためだからな。ただ、次からは夜間外出は一言、伝えてくれ。その方が混乱が少なくて助かる」

「申し訳ありません」

「ああ」


 一通り言うだけ言ったらスッキリしたのか、ルーカスもそれ以上は騒ぎ立てなかった。ただ一言こう尋ねた。


「それで――、得られたものがあったか?」


 本質的な問いかけだった。カリナは少し考えたような表情になると、自分自身の手のひらをじっと見つめていた。


 傷跡だらけの手のひら。皮が厚くなり、所々が固くなっている手のひら。

 あのバーのマスターに、戦いが全て刻まれてると言われたあの手のひらだ。

 少しだけ沈黙して、それを見つめたあとに、こう言葉を口にした。


「お2人に聞いてもらいたいことがあるんです」


 お2人に――、という言葉でルーカスもジェイも、カリナをじっと見つめた。


「俺たちに、何を聞いてほしいんだ?」

「それは――」


 その時の彼らはいつになく恐ろしく真剣だった。カリナは言った。


「向こうの世界での私の最後の戦い――、そして転移事故の事件があった時の状況です」


 カリナの言葉に2人の表情が変わった。


「確か以前の尋問では、そこまで詳しく問いただすことはなかった」


 だが今は違う。戦うか? 戦うならどのように? それを考える瀬戸際にあるのだ。

 ジェイも問いかける。


「カリナ、お前の12年を俺たちに聞いてほしいというのだな?」

「はい。12年のその最後を――」


 そしてルーカスは言った。


「長い夜になりそうだな」

「ああ」


 3人は椅子を取り出すとお互いが見えるように輪になって座った。


「それでは聞いてください」


 こうしてカリナは自らの最後の戦いについて語り始めたのである。


( 'ω'o[ 読者様へ ]o

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