カリナ、ヴァンガードを識る ―良き〝先輩〟たちとの邂逅―
傭兵たちはカリナについて言葉を漏らした。
「どうやら頭はかなり良さそうだな」
「ああ、全くのズブの新兵というわけじゃなさそうだ」
「だったら教えるべきは、一つだな」
「〝ヴァンガード〟ってものが一体何なのか? そこをしっかり教えてやるべきだな」
イリスは答えた。
「もちろんよ、そこをしっかりとここで覚えてもらってった方がいいからね」
かたやジェイは、傭兵たちを信頼してカリナとの会話を任せていた。無言でカリナを見守っている。カリナは彼らに言った。
「教えてください。この世界の戦いの本質を」
「よし。それじゃ具体的にヴァンガードっていうのはどんなものなのか見せてやるよ」
イリスは端末を操作しながらカリナに問いかける。
「あんた〝兵科〟って考え方聞いたことがあるかい?」
「あります。騎士階級を前提とした騎士団ではなく、様々な役割を分担した市民軍隊・国民軍隊には、歩兵・騎兵・弓兵・砲兵・斥候兵――といった兵士の区分がはっきりと分かれています。私が向こう側の世界で率いていたアルカナヴァンガードと言う軍団が兵科主義を色濃く反映させていました」
「それを頭においてこの映像を見てくれ」
そこには実に様々な形状のヴァンガードが映し出されていた。
「人間による兵科分担はなくなっても、戦場における役割の分担は変わらない。だからそれがヴァンガードの機能性の違いに現れる」
「同じ形状のものがほぼほぼいない?」
「ああ、所有する傭兵の好みや得意技能によってヴァンガードはカスタマイズされて行くからな。土台が同じでも見てくれは違ったものになるんだ」
その後はスライドショー形式で一つ一つを丹念に映し始めた。
最初に表示されたのは巨大なボディの4本足の赤いボディのヴァンガードだった。真紅の赤ではなく、くすんだ錆色の赤で、岩砂漠の大地でカムフラージュになっていた。
その機体の上面には2つの巨大な〝砲身〟――動く砲台と言った趣があった。
「これは私の愛機〝レッドバロン〟――超大型の歩行自走砲だ。戦場で接近前の敵に対して様々な弾頭をぶち込む。当然私は、戦場で敵集団に対して、砲弾をぶち込むことに特化している」
次に映し出されたのはジェイたちが乗ってる人間の歩兵をそのまま大きくしたような形の2本足の人型のシルエットだ。
「これジェイさんやレオン隊長の――」
「これはこちらの戦場で大量生産を前提とした標準機体をベースとした、カスタム機〝サイファーブレイク〟」
するとジェイが説明をする。
「サイファーブレイクは複数の機体で同時連携して行動することを前提とした歩兵型の機体だ。1人1人の攻撃力よりも複数の機体が同時連携することに機能特化している」
説明はさらに続く。すぐに映し出されたのは下半身が馬のような4脚歩行の機体だった。
「これは〝アイアンキング〟戦場の前線に積極的に出るが、戦闘方法は銃撃やミサイル攻撃に特化している。どちらかと言えば戦闘の主役の隣で露払いに特化してるんだ」
「ミサイル?」
カリナにはそこがまず未経験の感覚だった。それを察してイリスはミサイル発射の瞬間を映す。スクリーンの映像の中で機体から発射された円筒形のミサイルは猛烈なロケット噴射で推進し、敵アイアンオーダーの戦闘機械を次々に葬り去っていった。
「これがミサイル。どこでどういう使い方をするかは、それを操縦している〝アーセナルコマンド〟の判断次第だ」
その時カリナは言葉の文脈で傭兵をアーセナルコマンドとも呼ぶと言う事に気づいていた。
「それからこれが〝ライトニングマジック〟という機体で、敵を撹乱し敵の情報統制を壊したり、いち早く敵情報を手に入れる〝電子戦〟に特化した機体だ」
映像の中に映っているのは二本足の人型シルエットの機体だった。それほど大きなヴァンガードではないが機体の各部に電子戦に使うと思われる様々な形状の特殊なユニットがびっしりと取り付けられていた。
「電子戦ってわかるかい?」
「映像を見ていてなんとなく――、こちらの世界が情報で統率されているなら、当然戦場における情報を掌握する役目の存在があってもおかしくありませんよね」
「その通り――今はその程度の理解で構わない」
その他にも白兵戦闘に重きを置いた機体も現れた。実に様々なヴァンガードの映像がこれでもかと映し出されていたのだ。カリナはその映像の意味を、すでにしっかりと理解していた。
「つまり――ヴァンガードの機体が様々な役目に振り分けられているように、それを操縦する傭兵達にも、愛機での得意技能を磨き上げることが求められるんですね?」
「その理解を、今の段階で導き出せたのはかなり評価高いよ」
ニヤリと笑って答えるイリスに、カリナは喜びの表情を浮かべた。
「ありがとうございます。この世界の戦場で何を目指すべきなのか分かったような気がします」
「それでいい、じきにヴァンガードの搭乗訓練も始まる。その時この店で見て聞いたものがあんたのこれからに役に立つだろう」
「はい!」
そうやって力強い声で明朗に答えるカリナは、やっぱりどうしても傭兵のようには見えないのだった。
カリナにジェイが語りかける。
「そろそろ戻ろうか」
「はい」
立ち上がりジェイが支払いを済ませると、カリナは先輩傭兵達に向けて丁寧に頭を下げていた。
「今日はありがとうございました」
「何、気にするな」
「ただの説教だ」
そしてイリスは言った。
「カリナ、いずれ戦場でもまだ出会うことになる。その時はよろしく頼む」
「はい、先輩」
先輩という言葉が出た時、イリスは満足げに笑みを浮かべた。
「それでは失礼します」
先輩たちを後にしてカリナはジェイと共にその店を後にする!
「カリナ、来てよかったか?」
「はい、これから私が何をするべきか見えてきたように思います」
「その意気だ! 先は長いが指導するからな」
「お願いします!」
教えるジェイと、教わるカリナ、2人は連れ添いながら医療施設へと帰ったのである。
余談だが、施設に帰ってきた後に、ルーカスにぎっちり睨まれたのは言うまでもない。




