ep.4
「コネ」というのは、使えば使うほど太くなるものらしい。
魔王サミットで他の魔王たちを「枕の材料調達」のために手玉に取った結果、俺の評価は『深謀遠慮の化身』として不動のものとなってしまった。
おかげで、俺の周りはさらに騒がしくなった。
「ユハト様、こちらが例の『魔力の宿る羽毛』で仕立てた究極の枕でございます。バアル閣下が自ら領地の霊鳥を狩り、カーミラ閣下が最高級の魔糸で縫い上げた逸品です」
リナリアが恭しく差し出してきたのは、見るからに神々しい光を放つ純白の枕だった。
魔王二人がかりで作らせた寝具。前世の俺が聞いたら腰を抜かすような贅沢品だが、今の俺にとっては「当然の報い」だ。なにせ俺は、彼らの国の飢饉を親父のコネ一発で救ってやったのだから。
「……うん、いい感じ。じゃあ、さっそく試してくる。夕食まで起こさないで」
俺は枕を抱え、勇者アリアが(嫌々ながらも)聖剣で適温に保っている豪華な寝室へと引きこもった。
ふかふかのベッド。最高の枕。
目を閉じれば、数秒で意識は闇へと沈んでいく。
これだ。この瞬間のために、俺は二度目の人生を「コネ」に捧げていると言っても過言ではない。
だが。
『……もし。そこの、親の脛を齧り尽くす者よ』
真っ暗な夢の中に、凛とした、だがどこか呆れたような女の声が響いた。
目を開けると――いや、夢の中なので開けたつもりになると、そこは真っ白な空間だった。
目の前には、白銀の髪をなびかせ、光の衣を纏った絶世の美女が浮いている。
(あー、これ。転生モノでよくある『女神様との面談』ってやつか。遅いんだよ、来るのが十年。もう魔王の息子として完成しちゃってるから)
「誰? 営業ならお断り。俺、親父のコネで大抵のものは揃ってるから」
『え、営業……!? 私はこの世界の秩序を司る創世神、ルミナリスですよ!?』
女神――自称・創世神様は、俺のあまりに失礼な態度に頬を膨らませた。
『あなたのあまりに目に余る怠惰っぷり、そして魔王の権力を笠に着た傍若無人な振る舞い……。神として、一言注意しに来たのです!』
「注意? 面倒だな。……というか、神様なら俺が何でこんなにサボりたいか知ってるだろ。前世で死ぬほど働かされた反動だよ。文句があるなら、俺をブラック企業に転生させた運命の神に言ってくれ」
『そ、それは……確かにあちらの不手際も否定できませんが。でも、魔王たちを経済的に支配したり、勇者を暖房器具にしたりするのはやりすぎです!』
「やりすぎ? 効率的と言ってほしいな。……それより神様、あんた、暇なんだろ?」
俺は真っ白な空間に大の字になって寝転びながら、女神を見上げた。
『ひ、暇ではありません! 常に世界の均衡を――』
「じゃあさ、その均衡を保つのに『枕の調整』も入れてよ。この枕、ちょっと魔力が強すぎて、寝てるとこうやって変な空間に飛ばされるんだよね。安眠妨害なんだよ。神様の権限で、俺が熟睡できるようにノイズをカットしてくれない?」
『な……神に、安眠のためのメンテナンスをしろと言うのですか!?』
「ダメならいいよ。起きたら親父に言って、人間界にあるあんたの神殿を全部『魔王直営のアミューズメントパーク』に建て替えさせるから。親父なら喜んでやるよ、息子の安眠を邪魔した神への復讐として」
『……っ!』
女神が息を呑む。
彼女の脳裏には、親バカ全開で神界まで殴り込みに来る魔王ガラムの姿が浮かんだに違いない。
『……わ、わかりましたよ。やればいいんでしょ、やれば! その代わり、人間界への過度な侵攻は控えるように魔王を説得してくださいね!』
「善処するよ。……あ、ついでに、夢の中で面白い娯楽(動画コンテンツ的なやつ)が見れるようにしといて。暇つぶしになるから」
『も、もう! あなたという人は!』
女神はブツブツと文句を言いながらも、指先から柔らかな光を放ち、俺の周囲の空間を「超快適・高密度安眠モード」へと書き換えていった。
「……ふぁ」
目が覚めると、夕日が部屋を黄金色に染めていた。
驚くほど身体が軽い。神様のメンテナンスのおかげか、一秒の淀みもない完璧な目覚めだ。
「ユハト様! お目覚めですか!」
ドアを開けて飛び込んできたのは、リナリアと、そしてなぜかボロボロになった勇者アリアだった。
「どうしたの、二人とも。アリア、なんか煤けてない?」
「……聞いてよ、ユハト。あんたが寝てる間、枕から溢れ出した魔力が『次元の裂け目』を作って、そこから異界の魔物がワラワラ出てきたのよ! 私とリナリアで、あんたを起こさないように必死で片付けたんだから!」
「へぇ、お疲れ様。……あ、でも今はもう大丈夫だよ。神様とコネ作ったから、次からはノイズ入らないようにしといた」
「「神様と……コネ……?」」
二人が呆然と固まる。
「ユハト様……今、さらりと仰いましたが……創造神ルミナリス様と、直接交渉をされたのですか?」
「交渉っていうか、ちょっと枕の苦情を入れただけ。あと、神殿を壊すぞって脅……じゃなくて、お願いした」
リナリアがその場に膝をつき、祈るようなポーズを取った。
「なんという……。魔王の力を背景に、神すらも屈服させ、安眠のための管理人に任命されるとは……。もはやユハト様の権力は、この地上には収まりきらないのですね!」
「ち、違う……この男、ただ単に自分が寝たいから神様をパシリに使っただけよ……! でも、神様がそれに従うなんて……一体どれだけ太いコネを持てば気が済むのよ!」
アリアが頭を抱えて絶叫する。
俺はそんな彼女を無視して、神様が「おまけ」で付けてくれた夢の中の動画リスト(神界のパノラマ映像集だった。意外と綺麗)を思い出しながら、満足げに頷いた。
「よし、親父。夕食は神殿の供物レベルのやつが食べたい」
「おぉ! 息子よ、任せろ! 今すぐ天界から最高級の果実を強奪してこよう!」
「親父、それ犯罪だから。……まあ、いいけど」
こうして俺の「七光り」は、ついに天界という新たな領土にまで届き始めた。
自力で修行? そんな暇があるなら、次は何を「コネ」で手に入れるか考えたほうが、よっぽど有意義だ。
俺の異世界スローライフは、神すらも巻き込んで、ますます手に負えない方向へと加速していく。




