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親父が魔王で何が悪い!〜七光り転生した俺は、実家のコネと権力をフル活用して異世界最強のスローライフを謳歌する〜  作者: 小林一咲


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2/9

ep.2

「ユハト様、こちらが今月分の『親子の絆(お小遣い)』でございます」

 目の前に置かれたのは、魔界の希少金属である黒金貨が山積みになった袋だ。

 一つあれば、人間界の村を丸ごと買い取れる価値がある。それが十袋。

「お小遣い……? 親父、これじゃ昼寝用のハンモックを新調するくらいにしかならないよ」

 俺は欠伸をしながら、贅沢に慣れきった口調で不満を漏らす。

 実際には一生遊んで暮らせる額だが、ここで「十分だ」なんて言ったら「努力して稼ぐこと」を期待されてしまう。常に「もっと寄越せ、もっと楽をさせろ」と要求し続けるのが、最強のニート道を往く者の嗜みだ。

「はっはっは! 流石は我が息子、器がデカい! よし、では次の遠征で人間界の聖都を落とした暁には、その国庫を丸ごとくれてやろう!」

 親バカ魔王・ガラムは、俺のふてぶてしい態度にさえ感涙している。

 だが、俺は「聖都を落とす」という物騒な単語に反応した。

「親父、戦争なんて面倒なことしないでよ。軍勢が動くと足音がうるさくて、俺の安眠が妨げられる」

「ぬ……しかし、あの聖都の連中は、我らが魔界の領土にちょっかいを出してきておるのだぞ?」

「だったら、もっとスマートに解決してよ。……あ、そうだ。リナリア。この前、親父が『領土拡大に興味がある』って言ってた他国の魔王がいたよね?」

 俺の適当な振りに対し、四天王リナリアは電光石火の速さで反応する。

「はい。東の国を治める暴虐王バアル閣下ですね。彼は常に戦場を求めております」

「親父、バアルの親父さんに『聖都の攻略権』を売れば? 代わりに、あそこの領地にある『万年雪の降る温泉地』を譲ってもらうんだ。俺、最近暑くて寝苦しいんだよね」

「な……!? 攻略権を売るだと!?」

 親父は目を見開いた。

 本来、領土は血を流して奪い合うもの。それを「売買」するなど、魔族の常識にはない。

「そうすれば魔王軍の兵士は死なないし、親父はバアルに恩を売れる。俺は温泉で涼しく寝られる。全員ハッピーだろ?」

「……おぉ、おおおぉぉ! ユハトよ! お前は何という深謀遠慮を!」

 親父がまた勝手に感動し始めた。

「バアルと聖都をぶつけ、両者の力を削ぎつつ、我らは労せずして最高の保養地を手に入れる……! まさに漁夫の利! まさしく覇道の極み! リナリア、直ちに交渉の使者を送れ!」

「御意! 流石はユハト様、戦わずして二つの勢力を手玉に取るとは……!」

 いや、ただ温泉に行きたいだけなんだけど。

 まあいい。これで俺の安眠は守られた。

 数日後。

 俺は親父のコネをフル活用して手に入れた、北方の温泉地『スノー・パラダイス』にいた。

 

 露天風呂に浸かりながら、最高級の魔力酒ノンアルコールを嗜む。

 周囲には親父が配備した、エリート中のエリートである『魔王親衛隊』の面々が、物々しい雰囲気で周囲を警戒している。

「あー、極楽。やっぱり実家が太いって最高だわ」

 前世の俺が見たら、嫉妬で発狂して死ぬだろう。

 だが、その静寂は不意に破られた。

「いたわ……! 魔王の息子、残虐非道と名高いユハト!」

 凛とした声が響く。

 見れば、湯煙の向こう側に、白銀の甲冑に身を包んだ少女が立っていた。

 手には、眩いばかりの光を放つ聖剣。

「……誰? 掃除の人? 今、入浴中なんだけど」

「掃除の人じゃない! 私は人間界の希望、勇者アリア! あなたがバアルを操って聖都を壊滅させようとしていると聞いて、討伐に来たわ!」

(あー……。例の『攻略権の売買』、人間側からはそう見えるのか)

 というか、なんでここがバレたんだ。

 あ、親衛隊が「魔王の息子様が通るぞ!」ってデカデカと旗を掲げてたせいか。

「ユハト! 覚悟しなさい、あなたの悪行もここまでよ!」

 勇者アリアが聖剣を振りかざし、こちらへ突撃してくる。

 一国の軍勢を凌駕するという、勇者の神速。

 普通ならここで死を覚悟する場面だが、俺は一ミリも動かなかった。

 なぜなら。

「……何よ、これ!? 体が、動かない……っ!?」

 アリアの足元から、禍々しい漆黒の鎖が伸び、彼女を雁字搦めに拘束した。

 俺の背後から、影のようにリナリアが姿を現す。

「無礼者。ユハト様の御身を、その程度のなまくらで傷つけられると思ったか?」

「リナリア、遅いよ。飲み物が空になっちゃった」

「申し訳ございません。……それで、この女はどうされますか? 焼き尽くしますか? それとも、魔王城の地下牢へ?」

 リナリアの瞳に殺意が宿る。

 勇者は顔を真っ青にして震えていた。

 ここで彼女を殺すのは簡単だ。

 だが、殺すと「敵討ち」だのなんだので、また別の勇者がやってきて、俺の昼寝が邪魔される。

「リナリア、殺すのはダメ。面倒なことになる」

「……流石はユハト様。慈悲の心までお持ちとは」

「そうじゃなくて。えーっと、彼女、聖剣使いなんだよね? だったら、この温泉の『湯もみ』に使えないかな。お湯の温度、ちょっとムラがあるからさ。聖剣の光でいい感じに保温してよ」

「……は?」

 勇者アリアが絶句する。

「な、何を言っているの!? 伝説の聖剣を、お湯を温めるために使えっていうの!?」

「嫌ならいいよ。リナリア、彼女の故郷に親父の名前で『苦情』の手紙を出して。ついでに、その村の食糧輸出を全部止めるようにパパのコネで圧力かけて」

「心得ました」

「待って! 待ちなさいよ! ……わ、わかったわよ。やればいいんでしょ、やれば!」

 勇者アリアは涙目になりながら、聖剣をお湯に突っ込んだ。

 聖なる力が熱に変換され、露天風呂が心地よい適温に保たれる。

「あー、いい温度。さすが勇者、いい仕事するね」

「……屈辱。私、人類の希望なのに……っ!」

 こうして、俺は「人類最強の戦力」さえも、温泉の管理スタッフとしてコネと脅しで屈服させた。

 

 勇者を倒したのではない。

 勇者を「採用」したのだ。

 

 そのニュースは、瞬く間に世界中を駆け巡った。

『最凶の魔王子ユハト、伝説の勇者を一歩も動かずに屈服させ、自らの奴隷(管理職)に任命する』

 またしても俺の評価が、本人の意図しないところで跳ね上がっていく。

「ユハト様、次は背中をお流ししましょうか?」

「……リナリア、それは自分でやるからいいよ。面倒だけど」

 雪景色の中、俺は勇者が温めてくれたお湯に浸かりながら、改めて決意した。

 

 やっぱり、自力で戦うなんて、絶対にしない。

 だって、こんなに楽なんだから。


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