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親父が魔王で何が悪い!〜七光り転生した俺は、実家のコネと権力をフル活用して異世界最強のスローライフを謳歌する〜  作者: 小林一咲


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12/20

ep.12

 魔王城の朝は、いつにも増して奇妙な緊張感に包まれていた。

 窓の外では天使セラフィムが、昨日の宣言通り「音を吸収する粘土」を全身に塗りたくった状態で、無言で窓を磨いている。その光景はシュールを通り越して一種の恐怖すら感じさせたが、俺は新しく雇った「安眠特別顧問」クラリス王女の結界術のおかげで、完璧な静寂の中にいた。

 しかし、その静寂は内側から崩されることになる。

 俺が意識を微睡みの海へと沈めようとしたその瞬間、視界が急激に白濁し、現実の感覚が遠のいていった。これは、いつもの「眠り」ではない。もっと上位の存在による強引な介入。つまり、神様からの呼び出しだ。

「……あー、ユハトくん? 聞こえる? メンテナンスの時間だよ」

 真っ白な空間――神界の待合室のような場所に、創世神ルミナリスがパジャマ姿で現れた。彼女はいつも以上に顔色が悪く、目の下には隈が浮き出ている。

「神様、まだ朝の五時だよ。定例メンテナンスには早すぎるんじゃないか?」

 俺が不機嫌そうに答えると、ルミナリスは泣きそうな顔で宙に浮かぶ魔法のパネルを叩いた。

「違うのよ、ユハトくん! 私のせいじゃないの! 最近、神界のWi-Fi……じゃなくて『神託の回路』がめちゃくちゃ重いのよ。君の夢にアクセスするだけでも、ロード時間に五分もかかるんだから!」

「回路が重い? 神様の力でどうにかできないの?」

「それが、最近の君の周りの『コネ』が強大すぎて、神界の帯域を圧迫してるみたいなの。魔王の魔力、天使の浄化波動、勇者の聖気、そこに王女の結界術まで加わったでしょ? データのパケットが衝突して、神託がまともに届かないのよ。このままだと、君への『安眠BGM』の配信も止まっちゃうわ!」

 それは、俺にとって死活問題だった。

 神様特製のBGMがなければ、俺の睡眠の質は著しく低下する。親父のいびきやセラフィムの羽音を防ぐためには、神界直通の安定した回線が不可欠なのだ。

「……分かった。要するに、回線を太くすればいいんだな?」

「そうなんだけど、神界のインフラを更新するには莫大なエネルギーが必要で……私一人じゃ、予算(神力)が足りないの」

「予算、ね。なら、出資してくれる心当たりがあるよ。ちょうど、自分の息子のためなら世界の半分でも差し出すっていう物好きがね」

 俺は神界の通信を維持したまま、現実世界の枕元に置いてある「親父召喚用魔石」に意識を繋げた。

「親父、聞こえるか? ちょっと緊急事態だ」

「ユハトォォォォ! 息子よ、ついに私を頼ってくれるのか! 何だ、誰を滅ぼせばいい!? 天界か? それとも人間界か!?」

「いや、滅ぼさなくていいから。今すぐ魔王城の地下にある『魔力集積炉』を全開にして、その出力を天界の座標に固定してほしいんだ」

「天界に? まさか、天界を魔力で焼き尽くすつもりか! 素晴らしい、さすがは我が息子!」

「違うって。神様のWi-Fi……いや、神託回路の増設工事に協力してほしいんだ。そうしないと、俺が夜ぐっすり眠れなくなる」

『ユハトが眠れない』という言葉は、魔王ガラムにとって、世界滅亡よりも重い響きを持っていた。

「何だと!? 我が息子の安眠を妨げるインフラ不足など、魔王の名にかけて許さん! リナリア! 今すぐ魔界中の魔力リピーターを回収しろ! 地獄の溶岩回線も天界へ繋げるのだ!」

 こうして、前代未聞の「神魔共同インフラ工事」が始まった。

 現実世界では、魔王城から天に向かって巨大な漆黒の魔力柱が立ち上がり、天界からはそれを受け入れるための黄金の浄化光が降り注いだ。

 魔王城の謁見の間では、クラリス王女が「これは歴史的な因果の逆転です……」と呆然とし、アリアが「魔王と神様が協力して通信工事って、もうこの世界終わりじゃないかしら」と頭を抱えている。

 神界の待合室では、ルミナリスが歓喜の声を上げていた。

「すごいわユハトくん! 回線速度がこれまでの一万倍になったわ! 魔界の『溶岩ブロードバンド』、安定感が半端ないわね!」

「それは良かった。じゃあ、さっそくメンテナンスを終わらせて、最高音質のBGMを流してくれ」

「もちろんよ! 今なら4K画質の予知夢も見放題、安眠BGMもハイレゾ音源で24時間ストリーミング可能よ!」

 神界と魔界。本来決して交わることのない両極の存在が、一人のニートの「快適な睡眠」という極めて個人的な欲望のために、強引にコネで結ばれた。

 神界のサーバーが魔界の熱源で冷却され、魔界の魔力は神界の浄化システムで安定化する。結果として、世界全体の魔力バランスがかつてないほど平穏に整い、皮肉なことに各地の天変地異が収まってしまった。

「ユハト様、工事が完了いたしました。現在、魔王城全体に神界直通の『安眠Wi-Fi』が完備され、どこでも二度寝が可能な環境が整っております」

 現実に戻った俺の耳に、リナリアの満足げな報告が届く。

「……ん、お疲れ。親父にも『助かった』って伝えておいて。あと、ルミナリス様からの感謝状が届くと思うから、それは適当に額に入れて飾っておいて」

「畏まりました。魔王様は現在、『神様とメル友になった』と大はしゃぎで、次のアップデート案を練っておられます」

 俺は、神界から届くクリスタル・クリアな安眠BGMに耳を傾けながら、再び目を閉じた。

 勇者も、王女も、魔女も、そして今や神と魔王までもが、俺の睡眠を守るための「インフラ」の一部となった。

 これ以上のコネは、もうこの世界には存在しないだろう。

「……あぁ、回線が太いって……素晴らしいな……」

 神様の定例メンテナンスは、魔王のコネによる「宇宙規模の回線増設」という形で幕を閉じた。

 俺の夢路を邪魔するラグは、もはやこの宇宙のどこにも存在しない。

 ユハトの安眠ライフは、ついに超次元的な安定を手に入れたのである。


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