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親父が魔王で何が悪い!〜七光り転生した俺は、実家のコネと権力をフル活用して異世界最強のスローライフを謳歌する〜  作者: 小林一咲


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ep.11

 魔王城の朝は、相変わらず騒がしい。

 窓の外では天使セラフィムが「ユハト様の安眠を妨げる塵を浄化する」という名目で、聖なる光を撒き散らしながら窓を磨いている。その光がカーテンの隙間から差し込み、俺の瞼を執拗に攻撃してくる。

「……リナリア、カーテンの遮光率をあと三割上げて。あと、セラフィムを物理的に黙らせて」

 俺が枕に顔を埋めたまま呟くと、即座に冷徹かつ完璧な声が返ってきた。

「承知いたしました、ユハト様。セラフィムには後ほど、魔界の深層にある『音を吸収する粘土』の中で窓を磨く任務を与えておきます。それと、申し訳ございませんが、二度寝の前に一点だけ、至急の案件がございます」

 リナリアが差し出してきたのは、金糸で縁取られた豪華な封筒――ではなく、もはや書類の山だった。

「人間界の各王国から、ユハト様へ献上したいという『人材』が列をなしております。特に隣国のサンライト王国からは、第一王女をユハト様の直属の家臣として、魔王城に就職させたいとの打診が届いております」

「……王女? なんでまた、そんな面倒なものが」

「表向きは、先日の商人ギルド事件における平和への貢献に対する感謝。裏を返せば、魔王軍最強のコネを持つユハト様との縁故を、国を挙げて作りたいという営業活動ですね。現在、彼女たちは城の門前でキャンプを張っており、ユハト様にお会いできるまで一歩も動かないと主張しております」

 俺は大きく溜息をついた。王女なんて、どうせわがままで、着替えや食事に手間がかかるに決まっている。そんなものが城に居着いたら、俺の静かなニート生活が台頭する。

「断って。俺、他人の世話をするほど暇じゃないし、自分の世話すらリナリアに丸投げしてるんだから」

「それが、サンライト王国の王女、クラリス殿下は、幼少より『安眠道』という独自の学問を修めておられるそうで。彼女が施す『伝説の安眠マッサージ』は、荒れ狂う火竜ですら三秒で寝かしつけると噂されております」

 その言葉を聞いた瞬間、俺の脳内にある「面倒くさい」という感情が、凄まじい勢いで「詳しく聞こうか」に書き換えられた。

「……マッサージ? それは、俺が指一本動かさなくても、自動的に眠りが深くなるってこと?」

「理論上はそうなりますね。さらに彼女は、周囲の雑音を遮断する聖なる結界を展開しながら施術を行うとのことです」

「採用。今すぐ連れてきて。面接は省略でいい。実技試験から入ろう」

 俺が即答すると、部屋の隅で聖剣を磨いていたアリアが、凄まじい勢いで立ち上がった。

「ちょっと待ちなさいよ! 採用って、あんた本気!? 王女よ? 一国の姫君を、そんな怪しい理由で城に入れるなんて、国際問題になるわよ!」

「アリア、君の声が一番の国際問題(騒音)だよ。それに、彼女は『就職』しに来るんだ。雇用契約を結ぶだけだろ。俺の安眠を守るための、専門職としてね」

「そんなの、ただの職権乱用じゃない! そもそも、安眠マッサージなんて胡散臭いわよ。きっと何か裏があるに決まってるわ。私、元勇者として見過ごせない!」

 アリアが頬を膨らませて抗議するが、俺はすでに「最高級のマッサージ」という甘美な響きに心を奪われていた。

 数刻後、謁見の間に現れたクラリス王女は、王族らしい華やかなドレスではなく、驚くほど機能的で動きやすそうな純白の法衣に身を包んでいた。その手には、魔法の香炉と、柔らかそうな絹の布。

「初めまして、魔界の救世主ユハト様。サンライト王国第一王女、クラリスと申します。本日は、私の技術がユハト様の平穏に資するかどうか、証明しに参りました」

 彼女は気品に溢れつつも、その瞳には「プロフェッショナル」の鋭い光が宿っていた。

「……クラリスさん。実力を拝見したい。俺を三秒で寝かせられたら、君を魔王軍の『安眠特別顧問』として、国賓級の待遇で雇おう」

「恐悦至極に存じます。では、失礼して……」

 クラリスが静かに歩み寄り、香炉から仄甘い、それでいて意識がすーっと遠のくような神秘的な香りを漂わせた。彼女が俺の首筋にそっと手を触れた瞬間、指先から微細な魔力が流れ込み、凝り固まった神経が一本ずつ解き散らされていく感覚に襲われた。

「な、なんだこれ……。力が、入らない……」

「これは、神経に直接作用する微振動マッサージです。さらに、私の結界術で、ユハト様の鼓動に合わせて周囲の音を逆位相の波形に変換し、完全な静寂を作り出します」

(……本物だ。これは、親父の魔力や神様のBGMとはまた違う、技術と理論に裏打ちされた究極の快眠サポート……!)

 俺の意識が急速に混濁し、夢の入り口が見えかけたその時――。

「待ったぁぁぁ! やっぱり怪しい! その香炉、中に変な自白剤とか入ってるんじゃないの!?」

 アリアが聖剣を抜いて割り込んできた。聖剣が放つ「正義の光」が、せっかく整いかけた俺の睡眠環境を真っ向から破壊する。

「……アリア。君、本当にいい加減にしてくれないかな」

「あんたのためを思って言ってるのよ! この王女、サンライト王国の回し者かもしれないのよ!?」

 クラリスは落ち着いた様子でアリアを見据えた。

「勇者様、ご懸念はもっともです。ですが、私の技術に偽りはありません。もし宜しければ、勇者様も一度体験されますか? 日々の討伐任務で蓄積された精神的疲労を、一瞬で取り除いて差し上げましょう」

「な、なによ。私を子供扱いして……いいわよ、やってみなさい! 私の精神力なら、そんなマッサージくらい――」

 三秒後、アリアは床の上で、見たこともないような幸せそうな顔をして爆睡していた。

「……ふぇ、ふえぇ……魔王なんて、もうどうでもいいわぁ……」

 アリアの寝言を聞きながら、俺は改めてクラリスの実力を確信した。

「リナリア。彼女を採用する。役職は『抱き枕管理兼・睡眠環境調整官』だ。給与はサンライト王国の国家予算に匹敵する額を、魔王軍の軍事費から流用して。あと、彼女専用のスイートルームを俺の隣の部屋に用意して」

「畏まりました、ユハト様。クラリス殿下、ようこそ魔王軍へ。今日から貴女も、ユハト様の『コネ』の一部です。存分に働いて(休ませて)ください」

 クラリスは優雅に一礼した。

「ありがとうございます。これからは、ユハト様の眠りを妨げるすべての因果を、私の安眠道で調伏してみせましょう」

 こうして、魔王城に新たな「安眠の専門家」が加わった。

 俺はクラリスが展開する完璧な静寂の結界の中で、再びソファーに沈み込んだ。アリアが床で寝息を立て、リナリアがクラリスに今後のシフト(俺の睡眠スケジュール)を説明している。

 一国の王女ですら、俺のコネの前では、ただの心地よいサービス提供者でしかない。

「……あぁ、世界は今日も平和だ……」

 俺は、かつてないほど深い、深淵のような眠りの中へと落ちていった。

 王女の就職先は、この世で最も贅沢な、ニート専用の城。

 コネの輪がまた一つ広がり、俺の二度寝はさらなる高みへと到達したのである。


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