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僕は何にでも変身できるスライムとラブラブなハーレム生活を送れるかもしれない。  作者: 最条真
SS集  ー 2 ー

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SS⑤『元吸血鬼のメイドさん』


■SS⑤



 有と会うのは一週間ぶりだった。あのマンションでは手狭になってきたから――と、有はどうにも住居を移したらしく、ミヤに連れていかれた先は郊外にある二階建ての一軒家。戸建てだ。流石に結姫乃の後では霞むとはいえ――一世帯の家族が悠々と暮らすには十分すぎる家。


 引っ越しの準備をするとは聞いていたが、賃貸ではなく戸建てなんて聞いてない。僕はたまらず、隣を歩くミヤへと『お前これ知ってたのか?』と疑念を込めた視線を向けた。

 当の彼女は僕の言いたいことを完全に察したらしく、「あはは……」と誤魔化すように乾いた笑いをこぼし、困ったように眉尻を下げる。『ボクもどうしてこうなったか分かんないや』とでも言いたげに首を振る姿に、僕は頭を抱えて深くため息をつくしかなかった。


「ごめんね、ボクも有に住所を教えられただけだから……」

「昨日までお互いに結姫乃のとこに泊まってたからな。そりゃそうか」

「今更だけど、月野は大丈夫なの? 自分の家でゆっくり休まなくって。着替えを取りにいっただけだよね? 家族の人とゆっくりしても良かったと思うけど……」

「まぁ妹には足にしがみつかれたけど……」

「それ大丈夫?」

「大丈夫だ。最終的に催涙スプレーを持ち出されたが気合で逃げおおせた」

「だ、大丈夫……?」

「機嫌取りにプリンでも買って帰ってやるよ」


 妹の過激な愛情表現なんて可愛いもんさ。……さて、一つ息を吐いて気を引き締め直すと、真新しいインターホンへと向き直る。いったい有はどんな顔をして出迎えてくれるのか。

 一週間ぶりの再会への期待と、戸建てをぽんと用意してしまう有の非常識さへの一抹の不安を抱えながら、僕は迷わず通話ボタンを押し込んだ。


 ピンポーン、と無機質な電子音が鳴り響いた直後。ガチャリと重厚な玄関扉が開き、そこから姿を現したのは家主の有……ではなく。


「――お初にお目にかかります」

 

 慇懃無礼に僕を出迎えたのは、クラシカルなメイド服に身を包んだ、金髪ツインテールの見知らぬ美少女だった。透き通るような白い肌と、どこか勝ち気な赤い瞳。


「あなた様の傍仕え、レイナでございます。以後お見知りおきを」


 ……いったいどういう訳なのか。僕はレイナと名乗った少女の後ろに立ってニヤニヤと笑う有を見て説明を求めた。




 通されたリビングは、まだ生活感の欠片もない真新しい空間だった。ほのかに香る建材の匂いと、それらを上書きするように漂う高級な茶葉の香り。部屋の中央に鎮座する立派なダイニングテーブルを挟み、僕は家主である有と対面するように座らされていた。


「――まぁ簡単な話、メイドだよ、メイド」


 有は悪びれる様子もなく、悪戯を成功させた子供のように得意げな笑みを浮かべて紅茶のカップを傾けている。その背後には、先ほどレイナと名乗った金髪ツインテールの少女が、彫像のように完璧な姿勢で控えていた。流れるような所作で客人の僕たちに茶を淹れた彼女は、静かに目を伏せていた。


 隣に座るミヤは出されたお茶菓子に目を輝かせているが、僕の頭の中は疑問符で埋め尽くされていた。学生の身空で用意した新築の一軒家に、素性の知れない専属メイド。理解が追いつくわけがない、というか……メイド(?)の外見年齢が明らかにアウトなんだが。ウチの妹と同じくらいなんだが……?


「……メイドにしては、若すぎるというかなんというか……」

「ロリメイドだな」

「言葉の響きからして危うい……! そもそもあの子はどこから連れてきたんだ……?」

「連れてきたというか……挨拶に来たところをオレが取って食っちゃったというか……」

「ド畜生じゃねぇか」

「安心しろよ、ちゃんと《異星体》だから」

 

 どこに安心する要素があるのか教えてくれ――というか、異星体?

 僕は視線を上げて、レイナと五秒間たっぷり目を合わせたが……何かに干渉されたような雰囲気はなかった。


「そのように熱を帯びた視線で、あまり見つめ続けないでいただけますか。初様の野性味溢れた瞳で深く射抜かれますと、下腹部の奥が甘く疼いて……狂いそうになるのです」


 完璧な姿勢で控えていたレイナは、白い頬にほんのりと朱を差し、恥じらうように視線を逸らした。




「…………は?」

「あ、心配しなくていいぞ月野。しっかり月野の素晴らしさは教え込んで――っていうか、オレの一部を取り込ませてるから、月野との記憶は大体共有してあるんだ。だから――」

「正真正銘、わたくしは初様に種としての隷属を誓っております」

 

 その言葉と共に、レイナの白い頬から朱が引く。さっきまでの蕩けるような表情はどこへやら、赤い瞳は再び彫像のように無機質な光を宿し、直立不動の姿勢で淡々と、だが決定的な事実として、堂々と隷属を告げた。


「え、えぇ…………」


 まだ現実を受け入れられていない……。

 そんな僕に対し、有は深く、満足げに口角を釣り上げた。悪戯が成功した子供の笑みではない。自身の所有物が理想通りに機能したことへの、酷く傲慢で甘美な悦びに満ちた微笑み。


「どうだ?」

「どうだって言われても……。なんつーか、『洗脳』したみたいで気が引けるかな……」

 しかし、僕の言葉に対してレイナは静かに首を振り、無機質だった赤い瞳に再び熱っぽい色を宿した。


「洗脳などという無粋なものと一緒になさらないでくださいませ。……有様から共有された記憶は、あくまで道標に過ぎません。わたくしがあなた様に隷属を誓うと決めたのは、明確な自己の意志です。玄関先で初めて顔を拝見した瞬間、わたくしの本能は完全に屈服いたしました。一目惚れでございます。閲覧した記憶を遥かに上回る――心の底から屈服に足る主が目の前に立っていたのですから。どうか、一目で奪われたこの切実な初恋を、作り物と蔑まないでいただけますか」


 その声色は、従者としての体裁を保つようにどこまでも静かで、平坦だった。だが、紡がれる言葉の一つ一つには、ひどく生々しく重たい熱量を孕んでいる。静かに憤慨しているのだな、と僕は理解して――一目ぼれするところまでが有の仕込みなんじゃないかと――有の顔を見た。


 無言の問いかけに対し、静かに有は頷いた。


「まぁ確かにオレがこいつの脳を侵したのは事実だけど」

「事実なのかよ」

「だって《異星体》だぜ? しかも《星狩り》を殺してたし。乗っ取った方がこの街の自治のためにも安全だったんだよ。ほら、“郡山の一件での氾濫”あっただろ? その対象もしないといけなくて人手も必要だったし……許してくれるか?」

「いや、別に僕は怒ってるとかじゃないが」


 何の罪もない人間を乗っ取ったとかだったらダメだけど、相手は異星体だし……ついでに人を殺してる。別に人を殺していようがいまいが、正直関係ないけれど、恋慕の植え付けは気になる。……倫理的に。


「別にお前が手下を増やす分には……まぁ、人を殺さないなら自由にしていいと思うんだけど。洗脳はちょっと倫理的に――」

「ん……。正確には『洗脳』じゃないんだよな。いや、まぁオレはやろうと思えばできるんだけど。違うよな、レイナ?」

「はい。有様が施したのは、正確には《種族の書き換え》でございます。元々は《吸血鬼(ヴェンデッタ)》であったわたくしの《(くびき)》を解き――人へと戻していただきました」



 ……ん?



「人……?」

「はい、左様でございます。少々複雑なのですが……僭越ながらご説明させていただきます。時に、初様。人に『感染』することで、人間を特定の《異星体》に変貌させる――《星の病》はご存じでしょうか」

「…………悪い。知らない」

「ご存じないのも無理はありません。わたくしがご説明いたしますね。……一番分かりやすい例で言うと、《九州全域昏睡病》でしょうか。1000万人規模の集団昏睡現象……原因不明の病と公表された『病』ですが……その症状は、厳密には『昏睡』ではありません」



 ……僕が知っている話と違――



「――正確には、人間を琴座の《眷属》へと書き換えているのです」



 ……。


 …………。



「――は?」


「《星の病》とは、特定の種族の《眷属》となる……従属を強いられるウイルスのようなものなのです。わたくしの元の種族《吸血鬼(ヴェンデッタ)》も、『こうもり座』を起源とし、主とする宿命の――《奉仕種族》でございました。察するに、あの昏睡病の正体は――


 『人間を夢見る奴隷へと変貌させ、自らの栄養源とする』ものかと思われます」



 ……そうなの?

 

 話について行けずに頭から煙を上げているミヤはさておき、有に意見を求めるように視線を向けると、彼女自身も首をかしげていた。


「オレもレイナに聞くまではそんなに詳しく知らなかったんだよな。だから、信憑性は担保できない。……だけど、筋は通った話だと思う。まぁ、『友達』に聞いておいたから、そのうち真偽ははっきりすると思うけど――主題はそこじゃないよな?」

「ええ。重要なのは――有様のお力添えがあれば、《星の病》は治療できるという事です」

「それすごくね?」


 それって、理論上は昏睡病も治療できるんじゃないか?


「はい。凄まじい治癒能力です。そのお陰で、わたくしは人間に戻れました」


 ……うん。そこだよな、そこ。ずっとそこが気になってたんだ僕は。


「……結局、異星体じゃなくね?」

「左様でございます。わたくしは正真正銘、人間でございます。有様に施してもらったのは、あくまで病の治療と記憶の共有化のみで――洗脳された、と言う事実はございません。ご理解いただけましたでしょうか?」


 静かに、しかし一歩も引かない強い意志を込めて、レイナは僕の目を真っ直ぐに見据えた。その赤い瞳の奥には、僕の疑念を完璧に論破できたことへの、ほんのわずかな安堵と勝ち誇ったような光が揺れている。

 つまり、今の彼女は吸血鬼でも何でもない、ただの《人間》なのだ。


「……じゃあ、一目惚れってのも」

「はい。わたくし自身の、混じり気のない純粋な意志によるものにございます。有様の欠片も今は身体に残っておりませんので……断言いたしますが、ここにいるのは『レイナ』そのものでございます」

「人間ってことだよな?」

「はい」

「……年齢は?」

「肉体年齢は十四でございます」



 結局アウトじゃねぇか!!



 倫理的問題を解決した矢先に次の問題が降ってきた……。




「――改めまして、レイナと申します。以後、お見知りおきを」




 その言葉と共に、レイナは勝ち誇ったような、それでいてひどく可憐で愛らしい、微かな笑みを唇に浮かべた。それで、結局、妹と同い年のメイド(しかも人間)とどう接するべきなのか、僕は頭を抱えることになるのだった。















 










 
















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