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僕は何にでも変身できるスライムとラブラブなハーレム生活を送れるかもしれない。  作者: 最条真
二章

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37 ナイトメア



 宇都宮はうっそうと生い茂った森に目を向ける。

 光の粒子となって虚空へ溶けていった虚木と、愛しい月野の残滓。

 二つの強大な星魂が消え去った森は、嘘のように静まり返っていた。

 紫の炎が焼き焦がした土の匂いと、斬撃が薙ぎ倒した木々の残骸だけが、直前までここに規格外のバケモノたちがいたことを証明している。


「……さて」


 宇都宮はぽつりと呟き、月野が消えた空間を名残惜しそうに撫でた。だが、その青色の瞳から熱っぽい恍惚がスッと引いていく。彼女はゆっくりと立ち上がり、周囲の鬱蒼とした木立へと視線を巡らせた。


 ――音がする。


 微かな、本当に微かな『呼吸』の気配が混じっていた。風の葉擦れとは違う、明らかな意志を持った視線の粘り。張り詰めた空気に、隠しきれていない”異質”な星魂の揺らぎがチリッと肌を撫でる。


「隠れてないで出てきなよ」


 宇都宮は、隠れている何者かがいる場所に向かって、銃を構えた。

 肩に触覚。


「――そっちじゃないよ、わたしはこっち」


 振り向く、と、真っ先に目に飛び込んできたのは、宵闇のような黒髪だった。顎のラインでピタリと揃えられた、端正なショートボブと、まるでサソリのしっぽみたいに長い三つ編みを髪の後ろで揺らす――少女だった。


「こんにちわ」

「お前は誰だよ」


 そう問いかけられると、黒髪の少女はマイペースに宇都宮の肩に顎を乗せながら続ける。


「メア。”ナイトメア”って種族だから、メアって呼ばれてるの」

「やっぱり人間じゃないか」

「そうだね。あなたと同じ」


 ――異星体だ。


 おそらくは、星団に飼われている……『星座』の。


 メアは紫紺の瞳を細めて、宇都宮の顔を覗き込んだ。宇都宮の瞳の奥底に済む”深淵の母”と彼女の瞳の深淵は同等に対峙し、両者一歩も引かなかったから、こちらから引き下がる。


「ママ、もういいよ」


 そう言って首を振ると、過保護な母親は頬を膨らませてどこかへと消えていった。メアも了承したようで、頷くと、”深淵の気配”は消え去っていく。


「んふ、すごいね。”お姉ちゃん”とやりあえるなんて」

「ボクのママはすごいんだよ。……で、どういう用件だよ」


 片目をつむった宇都宮に用件を聞かれ、そこで飽きたのか肩に顎を乗せるのをやめたメアは、顎に指を当てながら告げる。


「んー。別にわたしはあなたに用事はないんだよ? アザミちゃんに『やべー戦いが起きたら観察しておけ』って言われただけだし」

「アザミって……あー。あのおばさん?」


 記憶を探って応接室での出来事を思い出した宇都宮が言うと、「あー!」と、まるで言っちゃいけない一言を言ったみたいに大きな声を出す。


「それアザミちゃんが聞いたら怒ると思うな。”ちゃん”付けで呼んであげようよ。本人も年齢は気にしてるんだから!」


 メアはわざとらしく両方の頬をこれでもかと膨らませ、両手を腰に当てて『ぷんすか』と効果音が鳴りそうなほど大仰に怒ってみせた。リズムに乗るみたいに腰を揺らしているせいで、その後ろでサソリの尻尾のような長い三つ編みが、アピールするようにゆらゆら揺れる。


「アザミちゃんは、ああ見えてすっごく乙女なんだから! 『おばさん』なんて単語を聞いたら、ショックで寝込んじゃうんだから!」

「それは……悪いと思ってる。うん。ボクもデリカシーを持つように気を付けるよ……」

 宇都宮自身も、ひどい物言いをしている自覚はあるので、気を付けようと思った。もっと、月野に相応しいような女の子になりたかったから。

 ……と、今はそれよりも。


「お前は……『星見科学研究所』の一員ってことでいいのか?」

「うん。そうだよ?」

「じゃあ敵だ」


 宇都宮はうなじから触手を展開し、臨戦態勢に――


「待ってよ。ここで戦っても、どうせわたしが勝つよ? それに、『渡辺探偵事務所』と『星見科学研究所』は同盟を結んでるし。やめておいた方がいいんじゃないかな」

「同盟?」

 宇都宮は聞きなれない単語に眉をひそめた。

「同盟と言うより、共同戦線かな。『スタープロモーション』を倒すまでは協力しましょーって言う。知らなかった? それとも忘れてた?」


 図星を突かれ、宇都宮はピタリと動きを止めた。威嚇するようにうねっていた触手が気まずそうに空中で萎れ、スルスルとうなじへ引っ込んでいく。

 そういえば会議の時、五十鈴や結姫乃がそんな小難しい話をしていた気もする。だが、あの時の宇都宮は隣に座る月野の温もりを堪能するのに忙しく、話なんて三割も聞いていなかったのだ。……最悪の場合は月野か結姫乃に都度聞けばいいし……。


「あはっ、おっちょこちょいなんだ」


 メアはこらえきれないように笑った。宇都宮はカッと頬を朱に染め、必死に誤魔化そうと、ただ視線を泳がせた。


「うふ、でもすごいなぁ。まさかあの虚木くんを倒しちゃうなんて。交流戦の中じゃ一番強いと思ってたんだけどぉ……まさかだね、あんなルーキーがいるなんて」

 

 宇都宮もまた、瞳を閉じてあの戦闘を思い出す。

 交流戦の悪夢と、真正面から果敢に戦う月野の姿を――。

 それだけでムラムラしてきたから、絶対に後で抱いてもらおうと強く決意する。


「かっこいいだろ、ボクの月野は」

「うん。キュンキュンきちゃった。好きになっちゃいそう」


 メアは笑いながら言うが、残念ながら月野は既に宇都宮たちのぞっこんだった。腕を組んで、正妻面をした宇都宮は笑う。


「残念ながらボクたちのものだ」

「え~~。連絡先交換してご飯一緒に行こうと思ってたのに」

「連絡先に関しては聞いてみれば? 別にボクたちが縛れるようなものじゃないし」

「わぁ、彼女さんが心広くて助かったな。うふ、じゃあ、この戦いが終わった後で聞いてみよーっと」


 メアは子供のように無邪気にその場でくるりと一回転した。黒髪がふわりと広がり、背後の三つ編みが、まるでダンスを踊るようにうきうきと跳ね回る。紫紺の瞳は期待にキラキラと輝き、唇からは自然と楽しげな鼻歌が漏れていた。

 最中――ふと思い出したように。

 

「ねぇねぇ、月野くんの話もっと聞かせてよ!!」


 目をピカピカと輝かせたメアに肩をつかまれ、宇都宮は面食らう。


「いや、交流戦の最中だよ……?」

「えー? だって第三縮小が終わるまで手出ししない契約だしさ、それに、『計画』通りなら下手に動き回るのは逆に危険だよ。とりあえず、見晴らしがいいとこいこっか。『合図』は知ってるけどさ、事前に察知しないとどうしようもないし……」


 ……計画……合図……?

 宇都宮はちんぷんかんぷんだった。

 だが間違いないのは、メアについて行かない場合、宇都宮は高確率で失態をやらかす。それも、月野に夢中で話を聞いていませんでした、なんて馬鹿みたいな理由で。


「……分かったよ」


 やれやれ、仕方ないなぁという雰囲気を出しつつ――宇都宮は全力でこの出会いに感謝していた。




 安全地帯の決定は、収縮の三分前に決定される。

 午後三時五十七分。

 第三縮小の安全地帯――”霧”に侵食されないエリアが決定される。 

 それから、宇都宮がスマートウォッチで範囲を確認しているうちに――


「あ、来たよミヤちゃん。あれ」

 

 小高い丘の上。そう言ってメアが指差した先には、巨大な光の柱が打ち立っていた。

 そして、圧倒的な存在感を放つ光柱を起点に、幾筋もの白い光の帯が水平方向へ、まるで太陽のフレアのように放射状に森を駆け抜けた。


「え、何アレ」

「同じ星団の仲間の能力も把握してないのー? ミヤちゃんってば」

「うっ……」


 それを言われると弱い。そもそも星団に加入してたった三日で仲間の能力を把握しろ、と言われても中々に厳しい話なのだが――そんなことを考えているうちに、宇都宮はメアに抱えられていた。お姫様抱っこのような様相で、抵抗する暇もなく。


「ちょっ、どういうつもりだよ!?」

「うるさいなぁ。ミヤちゃんの走力じゃ間に合わないから運んであげるんじゃない」

「間に合わないって何が!?」


 ”計画”や”合図”についてメアは一切話してくれなかった。月野についての話をねだるばかりで――『わたしと一緒にいれば安全だから』の一点張り。嘘をついている気配が微塵も感じられなかったから信用したものの――まさかお姫様抱っこをされるとは。


 恥ずかしい――が、早かった。

 馬よりもずっと。


 とんでもない速度で森に侵入しながら、メアは状況を補足する。


「『星戦』だよ」

「は!? アレが!?」


 宇都宮は頭上、巨大な檻のように降り注ぐ『光』を指さして言う。


「なんだよあの規模は!! というか、何が目的で!?」

「三分前に安全地帯を確保していない人たちを締め出すため。『星戦』は”外郭効果”を付与することで結界として運用することができるからね」

「えぇ……?」


 それが本当だとしたら、えぐ過ぎる。安全地帯を確保するためにどう動くか考えている間に、安全地帯は封鎖されているのだ。起きていることが宇都宮の想像通りなら、三分以前に安全地帯にいないものは、あの『星戦』の外郭と霧のサンドイッチで星魂を削られ、《退場処理』を受ける。


「……つーか、星戦を単なる”障壁”として運用するとか……信じられない……」

「戦いは自由な発想ができる人が強いんだよ、ミヤちゃん。ほんと、この広大な《星戦》を展開できる人が味方でよかったね、お互い」

 

 メアは屈託のない笑みを浮かべ、腕の中の宇都宮に対して笑いかける。……それは、あまりに純粋な、子供みたいな笑顔で、なんだか、さっきから警戒ばかりの自分が馬鹿らしく、気恥ずかしくなって、目を逸らした。


「それで、誰が”あれ”を展開してるんだ」

「え? 本当に知らないの? ちゃんと敬った方がいいと思うよ?」

 

 それから、唇を尖らせたメアは言った。



「――五十鈴せんぱいだよ」





 星狩りたちが扱う《全天八十八星座》。

 星座に認定した《異星体》

 ――人類の宇宙に相応しいと認められた上位八十八種類の星座たち――の上位十二名。

 人類が公認する異星体の――TOP12は、こう呼ばれる。


 ――《黄道十二星座》。


 朝の星座占いでおなじみの彼らはもれなく《六ツ星》。

 後見星に選ぶだけで、『星狩り』としての成功は約束される――例外を除いた最高位の星座たち。太陽の通り道である黄道上に位置することを許される《黄道十二星座》は、人の歴史と信仰を最も濃く吸い上げた、別格の権威と出力を誇る大星座だ。


 五十鈴千代が宿した後見星は、その十二星座が一つ――『天秤座リブラ』。


 ――七番目の頂点。

 

 一般的に天秤座の能力といえば、正義の女神が持つ公平なる天秤を想像するだろう。だが、星座は《主星》の意志により神話的モチーフを持つことがある。

『天秤座』が持つ神話的要素はエジプト神話における裁きと再生の冥界、【ドゥアト】。

 死と公平を司る砂漠の王――それが、五十鈴千代の《後見星》だった。





 太陽の軌道を巡る十二の冠。我はその第七座にして、生殺を量る冥界の天秤。

 命は等しく砂へと還り、罪の重さは真実の羽と釣り合う。

 此処はドゥアト。偽りの生者には過ぎたる裁きの法廷なり。

 不足せし命には我が砂を、驕れる魂には忘却の砂嵐を。

 さあ、天秤の皿に乗るがいい。



 ――《星戦》を宣言する。 




「――あぁぁぁ! 恥ずかしい!! 何度宣言しても慣れないんだけどっ!!」




 そんな叫びが、超大範囲の《星戦》が宣言された後でなされたとか。


 





Q:五十鈴は何をしたの?


A;自チーム以外が安全地帯に入れないように、侵入を拒む壁を張った。


Q:壁の外にいるやつらはどうなるの?


A:霧に呑まれて死ぬ。



こんなひどいことがあるのかよ……。

これで他チームは壊滅状態です、可愛そう。


実は、神話的モチーフを持っているだけで、基本的に出てくる星座は全部実在のものなんだわ……。主星が自分の力の解釈を広げるために、実在の神話で自分を飾ってるだけ。



星は最初からエジプト神話を知っていたのではなく、星側が地球を観測した際、自分を強化するために都合のいい神話(情報)を『ダウンロードして使っている』。




で、五十鈴先輩は全然《三つ星》です。四つ星に行く余地もあります。

黄道十二星座って、シンプルに王の道でもある。普通に星座の中でTOP12(上から七番目の天秤座)なので、ちょっとここまで出てきた星たちとは格が違う。



月の王者さん? あれは例外なんで。月そのものが出てくるのはズルだろ。




全天88星座ってのは、公式wikiみたいなもんだと思ってください。

もちろん、人類の観測外の星たちもあるし、地球から観測できない星は原則的に全天88星座には入れない。だから、もし宇都宮有が星座認定されても全天88星座に認定されることはない。


あ、ちなみに猟犬座はその中にいる。


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