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僕は何にでも変身できるスライムとラブラブなハーレム生活を送れるかもしれない。  作者: 最条真
二章

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EX4 緋川遊乃

時はさかのぼる。



「――虚木ィィィ!!」



 敵にあちこち包囲されているというのに、星を砕く存在がいると知るなり、虚木は明後日の方向――《面白そうな敵》がいる方向に向かって全力疾走をかましやがった!

 全体指揮を務める緋川はキレていた。キレる権利があった。散々チーム戦だと釘を刺していた。だというのに――!


『アンタがいないと陣形が崩れるって言ってんでしょうが!!』

『ごめ~~~~ん!!』

『謝りながら走るんじゃねェェぇぇえ!!』


 とは言え、時すでに遅し。とんでもない速度で駆け出して行った虚木を止められるものなどその場にはおらず――戦況は五分から不利に変わった。

 思わず舌打ちが漏れる。《電脳通信(コンタクト)》が一方的に打ち切られ、自分自身の位置は特定されていないものの――『スタープロモーション』A・B両チームは危機的状況に追い込まれていた。他星団が一致団結して、『スタープロモーション』を叩きに来たのだ。理由は以下の三つ。


①三ツ星の異星体を独占している。

②二位と十点以上の離して独走状態。

③虚木響介。


「チッ……」

 三番目に思い浮かんだ顔に、またまた、舌打ちが漏れる。あいつは、薄っぺらく、軽薄で、自分勝手だ。だが底にあるドス黒い強さが周囲に警戒を呼ぶ。『虚木響介』が所属している星団と言うだけで、ヘイトを買う宿命にあった。だが、ヘイトを買ったところで、圧倒的な実力でねじ伏せてしまえばいい――敵対するだけ無駄だと思い知らせてやる――そんな考えが緋川にはあったのだが――。


「思ったより苦戦してる……」


 緋川は《輝跡捕捉(サザンクロス)》で戦場を俯瞰する。だからこそ、例年に比べて《交流戦》の質が高いことをすぐに理解できた。分かりやすい雑魚がいない。狩りやすい屑がいない。自分より才能のあるやつらしかいない――腹正しい。


 輝きを咎める目を持つ緋川だからこそ――分かる……分かってしまう。

 私たちには、虚木が必要だ。


 戦場で一際異彩を放つ彼が。私にとっての一番星が、この戦況には必要だ。虚木のことだから、どうせ勝つとは思うが……油断して何か一撃くらいはもらってもおかしくない。あいつは別に馬鹿じゃない。あれは、ただ『愚か』でいることを楽しんでいるだけ。

 ただ道化を演じているだけだ。緋川は知っている。『本気』の虚木響介はこんなものじゃない。遊びに全力を出すのではなく、本領を発揮した彼なら――。


 もっと、もっと、すごいのに。



「どうしてだよ、……虚木”先輩”……」



 誰にも聞かれないことをいいことに、こっそりと呟いた。

 虚木を星団内で慕うものは少ない。いないわけではないが、多くはない。理由は明白、あの軟派な性格だ。誰に対しても気さくで素直でおちゃらけた、あんな態度が原因で、虚木は……みんなが思うより、ずっとすごいのに。きっと、彼自身が思うより、ずっと。


 ……納得いかない。


 真面目にやれって言ってるのに。真面目にやれば、みんながあなたを認めてくれるって、そういう意味で言ってるのに。縛ってるわけじゃ、ないのに。


「……私もそろそろ動かないと」


 弱音はやめ。後にする。

 そろそろ動かないと、手遅れになる。


 戦況はおおむね把握している。

 この中で、誰が最も危険なのかも。


南天の最短航路(サザン・ガイド)


 宣言と共に、緋川の足元から淡い星の光が走り出た。それは暗い森の腐葉土を舐め、鬱蒼と生い茂る木々の隙間を縫うように、細く鋭い光の線となって一直線に伸びていく。


 南十字星が示す絶対の指針。それは物理的な障害物――敵との接触すら無駄なく避ける『最適航路』であり、ガイドに従う限り体力や走力に補正が着く光の道だった。


 光の線の終着点は、戦場の遠く離れた一角。

 氷の道で盤面を支配し、味方を優位に導いている最大の脅威――白雪結姫乃の首元へ、寸分の狂いもなく繋がっている。

 緋川はその光の軌道に従い駆ける。



 わたしが、頑張らないといけないから。――あいつの分まで。





 頭が使えるやつは厄介だ。馬鹿の相手だけをする仕事なら、楽で楽で仕方ない。悩みの種を持ってくるのは――いつだって賢者だ。馬鹿は殺せば済むけれど、賢者は死んでも策略を継続するから。だから、はっきり言って、冷静になった頭で考えれば、白雪結姫乃を打ち倒すことに、妥当性はあまりないのかもしれなかった。


 司令塔を倒すのは大切なことだが――駒の数が限られている以上、実は私も助太刀に行った方が良かったのでは? と思わないでもなかった。駒がなくなれば、困るのは相手も同じだ。……虚木を失った緋川のように。


 指揮する駒の数がまず、少ないのだから、司令塔の重要性は、たぶん、通常の戦闘に比べて、ずっと少ない。今戦場に置いて、特例を除いて――危険なのは間違いなくこいつだ、という確信はある。


 が――緋川ができるのは足止め程度。個人戦力で言えば、二ツ星の中でも底辺もいいところ。……根っからのサポート系なのだ。司令塔を足止めしたところで何になるというのか。『王』を動けなくしたところで、他の兵士は動くじゃないか。いや、時にはそういう戦略も大事だけれど。……戦場をマクロでみる意識が足りてない!


 あのまま隠れておけばよかった……?


 ――いや、何もせず森の片隅で気配を殺して縮こまって、ただ指揮をするだけの自分がそんなに羨ましいか?


 ――これを『正解』にする。


 決めた。



「あんたを倒すわ。白雪結姫乃」

 

 ホルスターから銃を抜く。


「そう、いい心がけね」


 相手もまた、応えるように銃を抜いた。


「ちょうど星魂の消費を抑えたかったところなの。相手方の指揮官がのこのことやってきてくれて、助かるわ」


 それは、計算通りに現れた獲物を前にして浮かべたような、残酷で、合理主義的な強者の、余裕に満ちた薄笑いだった。つまり、雑魚認定を喰らったって訳だ。殺す。全力全開で――私は知ってんだぞ。


 お前だって、私と同じ置いて行かれる側の人間だってことを。


「――《光十字剣》」


 そして、光の剣を構えた私に対し、結姫乃は、ただ、笑った。

 そんなもんで勝てると思ってんのか、と言わんばかりの笑みだった。


 舐めんなよ。私はお前と違って、星魂の消費を厭わない。



「――我の航路を指し示せ。光なき海を行く者たちよ。頭上の偽りに惑うことなかれ。

 天を飾る四つの虚飾の光。私は五番目の真実――」


 ――バンッ!!


 当然だが、発砲。

 ご丁寧に《星戦》の詠唱文なんて読ませちゃくれない!


 ああっ、クソっ。


 虚木だったらな!!

 もっとうまくやれたんだろうな!! 

 私ばっかり。


 いっつも。

 いつも、



「私ばかり、うまくいかない……」



 完全に、実力の差を銃と体術一つで分からされた私は、光と化しつつある身体を眺めて、思った。馬鹿みたいだ。馬鹿だ、馬鹿。ムカつく。もっとスタープロモーションには私の他に出るべき人がいたのに。私が選ばれて……選んでくれたのに。結局感情任せに動いてる。これじゃ、虚木とおんなじだ。浮かれてた。去年は交流戦に出れなかったからって。序盤だけうまくいったからって、ここで調子を崩すわけにはいかないって。思ってた。相手にとって、私は隠れてる方がずっとうざかったのに。何やってんだ、もう。何やってんだ。


「お疲れ様。今回は相手が悪かったわね」

「それ、自分で言うの……」


 頭上から声をかけられた。当然、声の主は結姫乃だった。私が思うより、ずっと、ずっと強かった。”去年”までとは完全にモノが違う。星狩りとして、一皮むけていた。私と違って。……そうだ、聞きたいことがあった。


「ねぇ、あんた。虚しくないの……?」

「虚しい……?」

 

 どうにもピンと来ていない様子で結姫乃は首を傾げた。


「あんたは私より強いけど……そんなあんたより強い奴らが、異常な才能を持った奴らが、世の中にはごまんといる。自分より才能を持った奴らが、自分よりも努力をしている……そんなケースばっかなのよ」

「そんなの知ってるわよ」

「じゃあ、絶望しない? 私には才能がないんだって、諦めたほうが楽だって、何やっても無駄なんだって、思わない?」

「まぁ、思うわね」


 結姫乃は、なんでもない調子で頷いた。表情に悲観の色は見えなかった。ただ、現実を受容するような表情だった。そんな、何でもない様子で入れるのが、私は、おかしいと思った。


「どうしてそんなに冷静でいられるの? 私たちは置いて行かれる側だって思わない? 分かるわよ、私。……あんた、すごい努力してる。でもそれは、訓練した人間の動きを出ないと思う」


 負けておいて何言ってんだ、って話だけど。五年後の自分なら、今の結姫乃に勝てるイメージが湧いたから、言った。天才とか化け物相手には、こんなイメージ湧かないから。人間なんだよって、お節介を言ってやりたくなった、けれど、こいつ、私よりずっと、頭がいいんだろうな。


「分かってるわよ」


 ほら、やっぱり。


「じゃあなんで、強くあろうとするの。才能がないんだから、弱いままでいいと思わない?」

「まぁ、私には恋人がいるもの」

「愛故に、ってやつ?」

「そうね。好きな人にカッコいいところを見せたいのよ。だから、私は弱いままじゃいられなかった」

「そ。……わけわかんないわね」

「でしょうね。あなたにはまだ早いわ」


 彼女は私を見て、ケラケラと笑った。

 ……不服だ……と言わんばかりに睨んだ。


「高校一年生に恋はまだ早いって?」

「あなたの精神性の話をしているのよ」

「……む」


 何か異議を申し立てたいところだったが、そろそろ時間だった。

 光になって、身体が転送されていく――。


「ま、《交流戦》が終わった後でお茶でもしましょう。あなたのこと、嫌いじゃないから」

「先輩風吹かせんな、ばーか」




 そう言って、舌を出してやった。


 ……これから長い付き合いになる、『先輩』に対して。





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