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僕は何にでも変身できるスライムとラブラブなハーレム生活を送れるかもしれない。  作者: 最条真
二章

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36『野心VS無心』(終末)


 ――来た!



 引き金が引かれた、そう認識した瞬間にはもう遅かった。放たれた銀弾は一直線に飛んできた、はずだった。次の瞬間、空中で反射した。


 見えない壁に当たったみたいに跳弾――軌道が変わる、不規則に。

 さらには、反射するたびに弾が割れ――増えていく。


 ひとつがふたつ、ふたつがみっつへと裂け、曇った森のあちこちで跳弾しながら、四方八方から僕に標的を定めていく。

 うるさいせいで集中できない。

 耳の奥を震わせるのは破裂音だけじゃない。

 高く、低く、重なり合う遠吠え。見えない猟犬の群れに囲まれてるみたいだ。


 避けても終わらない。捻った先へ、沈んだ先へ、跳んだ先へ、弾が先回りして食らいついてくる。触手で一発を弾けば、その火花を合図にしたみたいに別の一発が背後へ回る。直線の銃撃じゃない。包囲だ。狩りだ。星座の逸話そのものを、銀の牙と咆哮で現実へ引きずり下ろしたみたいな悪夢。――これが、交流戦の悪夢。ハウリング・チェイス!


 でも、

 

「――そう来ることは織り込み済みなんだよ」


 集中、集中――”明鏡止水(コンセントレイション)”――目を閉じる動作、そのものが《詠唱》の代わりになる。口頭での詠唱は、初歩中の初歩――星にとって魅力度の高い動作は、口頭詠唱の代理を成す。目を閉じるなんて、あからさまな『隙』は、手放しに星の賞賛を受ける――だから、僕は、今、完全に――完璧だ。



 視界が落ちた暗闇。

 

 けれど、世界は明瞭に感じ取れる。

 

 音の輪郭は尖る。

 

 空気を裂く銀弾の軌跡が、線になって僕の脳裏に浮かび上がる。

 

 全身から熱を感じた。


 全ての細胞が、この瞬間のために爆発している――!


 右。低い。二発。遅れて背後、三つ。思考に応じて触手が応じた。二つの触手は目にも止まらない速度で弾丸を叩き落とす。剣のように切り伏せ、時には鞭みたいにしなり、斜め上から噛みつく弾丸を切り払う。耳元を掠めた遠吠えに混じって、火花の弾ける音。

 まだ終わらない。まだまだ増える。

 反射し、裂け、群れとなった猟犬たちが、僕の死角を食い破ろうと殺到してくる。


 馬鹿が、お前らなんて、視覚を使うまでもねぇんだっつーの。


 さらに深く沈む。ひとつの雑念もなく、僕はただ、迫る殺意の位置だけを感覚で掴む。前髪を焦がす熱。頬を裂く風圧。コンマの隙間に触手が差し込まれ、牙みたいな銀弾を次々と弾き、絡め取り、地面へ墜としていく――最中、交じった。


「――ッ!!」

「おいおい! 限界まで気配消したんだけどぉ!?」


 感覚だけでは掴み取れない人がいた。何かのスキルを使ったのか――全力で気配を隠蔽していた虚木先輩のナイフが眼前に迫っていて、僕は、ただ、それを、反射で避けた。


 目を開けるのがコンマ数秒でも遅れていたら今の一撃で終わりだった。僕の感覚を信じるなら――気配を消すために《気配遮断系》一つ、ナイフの威力を増すための《威力増強系》一つ、計二つのスキルを虚木先輩は使っている!


  どちらのスキルも口頭以外の詠唱、もしくは無詠唱によって行使された! ――目を閉じた弱点だ、どんな動作がスキルに通じているのか分からない!


 が、――どうにも、【極点】の時間は終わったらしい。


 何秒何分凌いだのかは分からない――が、ようやくこっちの番って訳だろ?

 出し惜しみなんて御免だし、アンタ相手に負けるのは癪だ。


 こっちはチームを背負ってんだよ、アンタと違って。

 僕が、ここで、アンタを倒さないとダメなんだ。


 単純な生き死にの問題じゃない。勝敗の問題だ。

 僕は極度の負けず嫌いだからさ。


「【極点α】:――」

「マジかよ月野クン……!?」


 宣言と同時に、僕の背後で蠢いていた触手が、発火する。

 紫だ。宵闇を煮詰めたみたいな濃い紫炎が、感情を燃料に燃え上がる。

 戦いによって更に投下された燃料を基に、火勢を増し――うねるたびに火の粉ではなく紫電めいた燐光を撒き散らす。


 アンタにも勝つし、チームとしても勝つよ。


(にら)がる怨恨渾歌(えんこんこんか)



 ――それを見て、虚木先輩は、誕生日プレゼントをもらった子供のように笑った。



「だよな、月野……後先なんか考えなくていいよな」


 

 彼はただ、ほほ笑んだ。

 ありがとう、と唇が動いた気がして。



「――【極点β(ベータ)狩猟王の憑霊術(ワイルドハント)】」




 ――は?



 瞬間、世界が爆ぜた。




 あり得ない、と言わざるを得なかった。先輩が唱えた瞬間に、気配が変わった。

 筋力が跳ね上がったとか、速度が増したとか、そんな単純な話じゃない。

 呼吸は薄く、重心は低く、視線は鋭く、踏み込みには一切の無駄がない。

 射撃も斬撃も、回避も追跡も、そのすべてが“獲物を狩る”という一点に最適化されている。身体能力が上がったんじゃない。狩猟王としての戦闘技術ごと、肉体に憑依したのだ。人間の延長にいたはずの虚木先輩が、星の格まで一時的に登り詰めた。


 皮肉なことに、似ていた。《二丁拳銃(ツインズ)習熟(マスタリー)》に――他人の経験を、自分のものにするスキル。……察するに、あれは、後見星の経験を体得したのではないだろうか。とにかく、チートだった。


「クソが……」


 一撃目で、脇腹を抉られていた。外傷はない、が身を守る装甲がガッツリと削られたのが分かった。こっちの極点だって無効化されるわけじゃない。熱は伝播し、他人にとっては枷になるはずだ。確かに効果はあったはずだ。速度は落ちていた。だが、速度だけがすべてじゃない。数十個のスキルを同時に使用していないと説明できないような、《技術》が全身に備わっていた。僕には、成す術がなかった。


 極点βまで習得してるなんて、聞いちゃいなかったんだよ、クソ。


「――いやぁ、すごかったねぇ、月野クン!!」


 流石に彼も余裕綽々とはいかないようで、額に汗をかいていた。とはいえ、にこりと笑っていて、銃をホルスターにしまって拍手をする余裕すらあるらしかった。油断――と咎められる余裕は僕にはない。なぜなら僕は、《装甲》を全て使い切ってしまった。《退場処理》が成されている。徐々に、身体が光と化し、どこかへと転送されていく。


「久々に楽しかったよ、月野クン」

「僕もですよ。……最後に握手、いいですか?」

 

 僕は彼に向かって手を差し出した。


「もちろん!」

 

 先輩は僕の手を握ってきた。戦友とは思えないほどの弱弱しさ、まるでマナーの一環みたいな、礼儀正しさを感じる弱さだ。


「相変わらず、対して強く握らないんだな」


 僕はそれだと困るので、虚木先輩の手を強く握った。

 虚木先輩も、何か気を悪くさせたと思ったのか、前より強く握ってくれた。

 強く、強く、強く。

 礼儀の延長に見える強さを超えていた、けれど先輩も応じるように力を返してくる。

 そこで握手は、ただの別れの挨拶じゃなくなった。

 互いに手を離す理由を一瞬だけ失う。僕は笑ったまま、ほんの半歩だけ踏み込んだ。距離が潰れる。その半拍があれば十分だった。


「ほんと、不本意でならないよ」


 瞬間、触手が虚木先輩を切り裂いた。


 僕とは違い《退場》していない宇都宮が。

 言葉もなく、さすがの虚木先輩も目を見開いた。

 退場したプレイヤーは、参加者に危害を食わることはできないはずだから。


「ボクを忘れてもらっちゃ困るよぉ、あはは」


 うなじから抜け出した制服姿の宇都宮は、僕から手を放し、しりもちをついた虚木先輩を見て笑う。虚木先輩もまた、光に包まれていた。装甲が崩れた合図だ。彼も、もう間もなく終わる。宇都宮は、先輩に視線を合わせるように、屈んだ。


「ボクは月野の一部って訳じゃないんだよ? ボクは月野の妻だから♡」


 それから僕と目を合わせて、愛おしそうに目を細める。

 そして近づいて、僕を抱きしめてきた。


「後は任せてね」


 まかせたよ、と口の動きだけで伝えて――一足先に僕は退場する。





「マジかー……」

 身体が光に包まれていた。ほろほろと足元から崩れ、光になってどこかへと運ばれていくのが分かる。あー……負けかぁ。


「すごいね、キミたち」


 勝者に惜しみのない賞賛を、最後の力で拍手を送る。


「……悔しくないの?」


 青髪の美少女に見下ろされる――そんなシチュエーションも中々悪くねぇと一人ごちりつつ、虚木は告げた。


「だって、楽しかったしさ。”悔”いはないよ」

「ふぅん。月野ははらわた煮えくりかえってたけどなぁ」

「あ、そうだったの?」

「これは苦肉の策――っていうか、最終手段だよ。奇襲みたいなものだし、月野のプライドを傷つける行為だけど――それでも、負けるよりはマシだって」

「へぇ、本気で勝ちに来てたんだ」

「逆にそっちはそうじゃないの?」

 虚木は首を傾げた。


「――遊びだよ?」


 それを聞いて、宇都宮は眼光を見開いた。



「それさ、絶対に月野に言うなよ」



 もう消えゆく虚木に向かって、宇都宮は月野が投げ捨てていった銃を向ける。


「負けたのはお前だろ?」

「そうだよ?」

「だったら、へらへら笑うのがお前の仕事じゃないだろ」


 困った、と言わんばかりに虚木は眉を下げた。

 こういう時に、どうすればいいのか、分からない。

 虚木自身、負けた経験なんて片手で事足りる程度だし、悔しくないものは、悔しくないのだ。清々しい、せいせいした、と言ってもいい。

 

だから、睨まないでくれよ。


 善悪もおぼつかない、天国に行くか地獄に行くかすら定かではない我が身なりに、必死に生きているつもりなんだよ。


「そんなに正しい言葉でオレを非難しないでよ。俺だって頑張って生きてるんだから」


 俺だって、頑張ったんだよ。



「……次があったら泣かしてやるから」

「それは、楽しみかも……」



 そして、虚木もまた、消えた。



 





と言う訳で、虚木の判定勝ちでした。

虚木に投票した人たちおめでとう。


ま、引き分けだけどね。


宇都宮を内側に飼ってる月野にしかできない芸当。

結姫乃の影響を受けて、清濁を併せのむようになったぞ!!


ちなみに虚木は交流戦が終わったタイミングで二十五番目の《四ツ星》になるので、本当の本当に相手が悪い。


ま、気合だけで格上に勝てるわけない(相手も何か隠し持ってる)から、こっから気合入れてこうねって話。



極点βはズルだろ……。





次回、エピローグにするか結姫乃達の視点を移すかどうか悩み中。



これを機にブクマ・評価とかしてくれたらマジで嬉しい。


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