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第70話 攻められる男と攻める女

「……えーっと、どういうことですかね?」



 澄んだ眼で首を傾げ尋ねる一刀。まるはそんな純粋な疑問を投げかける一刀の瞳を覗き込んでにまあーっと笑う。



「厳島くんは今、全てを愛せてる!!? 愛というのは『合い』だ!! 分かりやすく言うと接触かな。ちゃ~んと触れて触ってぶつかって分かり合おうとしてる? 遠くで見て分かった振りをしようとしてるんじゃない?」



 一刀は自分の胸にまるの言葉が突き刺さった。そんな感覚に襲われた。

 まるの目はまっすぐ。ただ、透き通っているわけではない。ただただ、まっすぐに一刀を見て、一刀のことを知ろうとしていた。


 なにもかもを。


(欲しい欲しい欲しい欲しい欲しい欲しい欲しい欲しい欲しい!!!!!!)


 大きな口をした目。一刀にはそう見えた。

 そして、目で一刀を喰らおうとしながら、彼女の本物の口が一刀に言葉をぶつけていく。



「だめだよ……!! 恋は『乞い』というけれど、待っていたらすぐに変わり、壊れていくんだよ。だから、乙女は待たない。ぶつかり与え求め壊し生む!! 君はそういう世界にいるんだよ。まあ、つまり、何が言いたいかというと……!!」



 真っ赤な炎。


 一刀はそこでようやく少し理解した。彼女の本質を。


 彼女は炎。真っ赤な真っ赤な炎。自分の衝動を、欲望を、情熱をそのまま燃え尽きるまで燃やし尽くそうとする荒々しく美しい炎。誰かを火傷させてしまってもそれ以上の愛を与えてみせると確信している刹那の輝き。



「本当に大切なら言い訳するな、そして、ビビッてんじゃないよって話……!! 使えるもの全部使って自分の大切なものをちゃ~んと掴むんだ!! 変わる? 変えてしまう? そりゃそうだよ。人間には時間があり、寿命があり、絶えず変わり続けることを強制されている。学生という寿命なんてなおさらさ!! すぐに終わる!! なら、愛して愛して愛し尽くさなきゃ……!! やらない後悔よりやってひゃっほーだよ!!」



 なんだそりゃ。と、一刀は思った。だが、それ以上に『やらない後悔』という言葉を発するまるの目を見た時『死』を一刀は感じた。一秒一秒一刀の身体は『死』を蓄積していっているのだと自覚し汗が噴き出た。


 手が震えた。

 もしかしたらダンジョンでの死の恐怖よりも着実に近づいていると感じる己の寿命の方が怖いのかもしれないと一刀は思った。

 であれば。



「やって……みます……!」



 今、出来ること全てを。また一つの覚悟を決めた一刀は身体中が熱くなっていることに気付く。それは彼女の、まるの熱が『今を生きる』という熱にあてられたから。

伝わった、と確信したまるは笑い、一刀の手を取る。



「伝わったみたいだね!!」


「はい……あの、ありがとうございます」


「うん、よかった!! じゃあ、胸揉んでね!!」


「「……は?」」



 忍と一刀の声が重なる。と、同時に一刀の右手が、まるにとられた右手の掌がまるの右胸と重なった。



(あ……やわらかい。身体小さいと思っとったけど、本人が言う通り胸あるなあ……じゃなくてぇえええええ!)



「な、何してるんですかあ!」「ちょっと何してるの!? まる!」



 再び、一刀と忍の声が重なるが、まるは気にせずに一刀の手を両手で動かし、自分の胸を揉ませ、しあわせそうに笑う。



「え~? だって、揉んでもらいたかったんだもん!! 揉んでもらいたいならまずは何かしてあげないとと思って……求めるならば与えよ!! だから、かわいい後輩くんにアドバイスをしてあげた対価として胸を揉んでもらってる!! これって何かおかしい?」



 おかしい。と、一刀は思ったのだが何故か反論できず口を噤んでしまう。色々と飛び越えてしまっている感はあるがまるの言葉に背中を教えてもらえたことは間違いない。その上まるのまっすぐな目に圧倒された。そして、少しばかりの邪念。女子の胸を揉ませてもらえるという貴重な経験から逃げるなど思春期一刀には出来なかった。


 だが、忍は許さない。許すことが出来ない。



(まだ自分も揉まれた事ないのに!)



 とは言えないので必死に頭を働かせる。そして、絞り出した答えは……。



「い、厳島君がいやがって……」


「え~!! じゃあ、イヤなら離していいよ。でも、少しでも私に感謝の気持ちがあるならもう少し君の手を感じさせてくれないかなあ」



 絶妙な言葉。

 恥ずかしい気持ちはあるがいやではないし、まるを傷つけたくない。そして、感謝の気持ちはある。一刀は困ったような悔しそうな忍の顔を見て、う~んと唸りながら天を見上げる。ぽつんと空いた穴から覗く空を見つめ、声を絞り出す。



「……………~~~! いや、では、ないです……!」



 めっちゃ恥ずかしかった。だが、断れなかった。一刀もとっても男の子だった。

 そんな一刀の言葉を聞き、忍は声を震わせながら自分の胸に手を当てる。



「うぅ~……だから、だから、あの子がどんなに実力トップでも男子のいるクラスにいれられないんでしょうが……! 最強に欲望に純粋な爆弾女子だからぁ~……!」



 一刀には忍の声が届いていており、心の中で大きく納得したと同時に理解した。こういう女子が『この世界』では、『田舎とは違うこちら』にはいるのだ、と。同じクラスの女子達が妄想していたことを一刀は知らない。そして、その妄想だけに留めず、真っ直ぐに、強烈な程に『攻める』女子。

 幻中まる。

 学園最強の女子は一刀の手を喰らい尽くそうとしているのかという程に自身の胸に押し付け両手でその手をさわりにさわり、満面の笑みを浮かべていた。


お読みくださりありがとうございます。

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