第69話 愛を語られる男と愛を語る女
個別ルームのベンチに3人は座っていた。かなり大きいベンチの中央にぎゅっと小さく座っていた。
左にはまる、右には忍で、真ん中にいる一刀は二人に何故か腕を絡められ迫られている。天真爛漫で子供っぽさはあるが美少女と言って間違いないまると圧倒的なクールビューティーである忍に挟まれるなんて正に両手に花と普段の一刀ならば思っていただろう。
普段なら。
「しのぶの助言なんて『薄っぺらい』ものに決まってるからさあ~……!! わたしの助言聞いた方がいいと思うよ~!!」
「うすっ……厳島君。私のアドバイスの方が頭ひとつ……いや、『頭3つくらい抜きんでてる』し、まるの『小学生レベル』のアドバイスなんて聞かなくていいんじゃないかなあ」
左には生徒会長であり幼いと馬鹿にされると爆発し全てを焼き尽くすような魔法を放つまる。
右には胸の小ささを指摘すると絶対零度の視線を向け、全てを凍てつかせる吹雪を起こす忍。
センター一刀は危険すぎる両手にある花を持て余していた。
「ハハ……ソーデスカネー」
(なんでっ……こんなことにっ……!?)
互いに地雷を踏み合った二人による魔法の威嚇射撃によって大惨事となったトレーニングルームだったが、やはり生徒会である二人は、魔力の圧にやられ倒れた生徒はいたがけが人を出すことはなかった。
最もダメージの大きかった被害者と言えば、藤崎であったのかもしれない。
トレーニングルームに入るなり、一刀を指して『危険人物』と叫んだ藤崎だったが、その後学園最大の危険物であり、危険人物であるまるを視認すると、静かに微笑み腹部を押さえながらゆっくりとトレーニングルームを後にした。
その時藤崎は脳内で叫んだ。
『危険人物と危険人物のミルフィーユやああああああああ!』
そして、藤崎は考えることをやめた。
急いで購買部へ向かい高級ポーションドリンクを購入し、来迎に実験中の部分的な記憶を消す魔法の被検体となることを立候補した。
そして、残された一刀はどうしたかというと……。
『あのっ……俺、あ、アドバイスをもらいに来たん、ですけど……』
その一言でこの戦争が終わらせられればとあり得ないほどの圧のサンドイッチに耐えながら発した言葉により二人は止まった。止まったが、戦争は終わらなかった。
二人に腕をとられ、そのまま個別ルームに入り、ベンチに座らされ挟まれた。
圧と圧のミルフィーユと二人それぞれのシャンプーらしき香りに一刀は二重に頭がくらくらしていた。
「えーっと!! それで、厳島くんの今の悩みは2つだっけ? 一つは【オリジナル】についてで、『魔力を圧縮して強化したいけど自分の身体と魔力ではそれが十分に出来ない』!!」
「もう一つは、チームについて。今加わっているチームは凄く強いわけではないけれど連携が完璧にしっかりとれていて『自分が加わることで連携を壊してしまうのではないか』ということね?」
まると忍が競うように一刀を自分の側に引き寄せようとするためにどんどんと二人が密着していて気もそぞろなままの一刀だったが、自分の直面している問題を再確認し背筋を伸ばし頷く。
現在開発中の一刀の【オリジナル】は一刀にとって望むものにはなっていなかった。
近藤を、大人の力に勝つレベルの魔法を欲していた一刀。現在のオリジナルはその兆しも見えない。その為には、より多くの魔力を圧縮する必要があったが一刀の現在の魔力と肉体では耐えきれず暴発してしまう。
そして、もう一つの悩みはより深刻だった。
中間テストを目の前にしてHチームとのトレーニングを重ねているのだが、Hチームのメンバーの目に強い意志が宿ったことで問題が顕在化した。
ウラ花に教えてもらったHチームの連携。
それは目標を持ち必死に戦う彼女達が使う事で完璧な連携となっていた。Aチームの面々に比べれば魔力も低い為、攻略速度は落ちるが現状のメンバーの実力からすれば十二分なほどの力を発揮できている。
しかも、能代の繊細なヘイトコントロールが戦いの軸となっている為一刀が動けばそのバランスを崩してしまうということが何度かあった。皮肉にもHチームが真剣になったことで一刀の異物感がより浮き彫りになる結果となり、一刀は自分の役割を見失っていた。
「……俺は、どうしたらいいんでしょうか?」
力なく俯く一刀。そんな彼の頭がわしゃわしゃと撫でられる。一刀が顔を上げると、照れたような困ったような真っ赤な顔で忍が見ていた。
「あ、ご、ごめんね……! あの、なんか……そう! 犬っぽくて……なんか思わず、ね!?」
犬。そう言われ一刀はなんと返していいか分からずただ笑う。一方の忍もあははと笑いながらそっぽを向く。そして……口元に手を当て荒くなった息を押さえる。
(ああああああああああ! だめだ! 庇護欲が! 母性が! あふれ出てしまう! なにあのかわいい生き物は!? っていうか、私の右手から一刀君のシャンプーの匂い! こ、これは……危険すぎるっ……! けど、もうちょっと嗅いでおこう)
そんな様子のおかしい忍の背を見て首を傾げた一刀の身体がぐいと引っ張られ半回転する。にやりと笑うまるが一刀の両肩をがっしりと掴みどんどんと顔を近づけてくる。
「あ、あの……」
「厳島くーん!! 答えは簡単なことだよー!! さっき聞いた経緯。そこでもう君は答えを見つけてる!! だけど、私はやさしいからね!! 分かりやすく教えてあげよう!!」
そう告げると、まるはベンチの上からくるりとバク宙をし腰に差していた銃のような魔道具を引き抜く。
「あ、それ……」
「まずは、私の【オリジナル】のひとつを教えてあげよう!! ……【イチガン】」
まるがその名を口にすると手に持っていた魔道具が紅に輝き始めると同時に、とてつもない魔力が集まっていく。その魔力の熱だけで個別ルームが溶けてしまうのではないかと一刀が錯覚してしまうほどの魔力。その凝縮された魔力は一刀が渇望し続けている力。
「このオリジナル【イチガン】は、『一分間に一発だけ一種類の超強力な魔法の弾丸』を放てる!!」
「い、一分間に一発だけ……?」
「そう!! 今の弾丸の種類は8種類!! その中から一発だけ!! その『縛り』が魔法をより強くする!! さっき見せた【ヒノマル】は一番最初に出来た超圧縮された火の魔力の弾丸で、最強の威力を持つ弾丸だね!!」
最強。まるのその言葉を一刀は素直に受け入れていた。それだけの威力があの一撃にはあった。『ばあちゃん』達の魔法よりも一撃だけの威力であれば上なのではないかと思えるほどの魔法と一刀は思っていた。そう思わされるほどの魔力量に一刀はぎゅっと悔しそうに拳を握る。その強く握られた拳を見てまるは笑い、両手を小さく挙げる。
「だけど、この【オリジナル】。私だけでは使えないんだ」
「え?」
一刀は思わず間抜けな声を出してしまう。まるだけでは使えない。
であれば、誰かこの魔法を補助するパートナーがいたのかとあたりを見回すが、唯一この個別ルームにいる忍を見ても、自分ではないと首を振る。
「この【オリジナル】はね、この銃型の魔道具があってこそのものなんだよ。……これはね!! 私の友達がこの学園に入って作ってくれたものなんだ!! ただ全てを焼き尽くすことしか出来なかった私の為に作ってくれた……!! そして、この『相棒』は私の願いを叶えてくれる。厳島くん、大体の答えはここに辿り着くんだよ!!」
まるが天井に向けて【イチガン】を放つ。美しい赤の直線を描いたその魔法の威力はやはり強力で天井を破り青空を一刀に見せる。小さな穴から見えた青空と太陽。その太陽に負けないほどに眩しい笑顔をまるが向ける。
「ラブイズエブリシング!! 強い愛は全てをぎゅ~~~~~~~っと一つにする!! それを君は学んだだろう!!? 人でも物でも世界でももっともっともっと愛せよ、厳島一刀!! 愛して愛して愛し尽くしたと思ったらその枠をぶっ壊して新しい愛し方を見つけるのが愛だよ!! 愛!!」
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