第67話 危険な男と危険な女
「あのー、すみません……」
「え? え? え? …………え?」
その『事件』は中間テスト前で座学に励む3年4組で起きた。
3年4組教室の前方入り口から侵入してきた『危険人物』により、当時教室内にいた22名の生徒の内半数以上が倒れ、意識を失う。そして、その『危険人物』は、そのことに気付かないまま入り口付近の女子生徒に声を掛け、とある人物の居場所について質問した。
女子生徒が身体を震わせながらも必死にその人物の向かった場所をなんとか告げると、危険人物は微笑みながら去っていき、残った生徒達もなんとか意識を失わぬよう耐えたものの行動不能と化す。その後、慌ててやってきた教師藤崎の指示により全員に保健担当・林原颯のメンタルケアの魔法を受け全員の無事を確認。危険人物の担任である藤崎はこれ以上被害者が出ないようにと、危険人物の後を追う。
彼の通った後は分かりやすかった。大体の生徒が彼に微笑みかけられたことによって、状態異常に陥り、その場に座り込んでいたから。
藤崎は彼女達の中間テストと将来を守るために駆け寄るべきか悩んだがこれ以上被害を増やしてはならないと彼を追う事を選ぶ。
藤崎は今までこれほどに力を出せたことがあっただろうかと自分でも驚くほど魔力を漲らせていた。そして、なんとか彼を止めねばと女子生徒に聞いた『トレーニングルーム』へと向かっていた。
数日前にも彼はトレーニングルームにいき、【オリジナル】の種を得ていたことは平家から聞いていた。その後、彼の【オリジナル】に必要な魔力を留めることに苦戦しているとも。
だから、藤崎は必死でその方法を考えた。こうなる前に、と思っていたから。
彼はまじめだ。だから、出来ない事は相談をするだろう。その相談相手は【オリジナル】についてである以上、先生か上級生。もし仮に上級生であれば藤崎が確認している彼が相談しそうな上級生はたった一人。
いつも冷静な彼女なら大丈夫、と藤崎は信じているが、未来は誰にも分らない。それに、その過程で多くの女子が彼の輝きにやられている。
とにかく、彼を止めねば。
藤崎は急ぐ。彼を、女子をいとも簡単に落としてしまう。世にも珍しい性格も良くて力もあり顔も爽やか、それでいて努力する男の子という超危険人物を。
「女子達と、私(の将来)を殺す気ぃいいい!? 厳島くぅうううううん!」
「ん? なんやろ? 今、誰かが助けを求める声が聞こえた気が……いや、気のせいか。こんなに平和な学園で何か起こるなんて」
勘違いと鈍感の絶妙なブレンド思考を持つ一刀は、窓の外を少しだけ見て首を振る。そして、先日【オリジナル】習得のために訪れたトレーニングルームの元へ向かう。
いや、ここ数日はずっとトレーニングルームにやってきていた。【オリジナル】の習得は勿論だが、Hチームとの連携強化で毎日やってきていた。今日は、流石に休んだ方がいいという卯ノ花と片桐の提案で休息日となったのだが、努力ジャンキーともいえる一刀はそれならばアドバイスをもらいに行こうと動き出す。
ここ数日平家や雪市、来迎からのアドバイスは貰いながらトレーニングをしていたので、流石に先生方にこれ以上の負担はと考えた一刀は『先輩』の元へ向かった。
東雲忍。環奈と同じ生徒会役員であり、いつも冷静で凛々しい3年生。
彼女ならばと思い、教室を尋ねると不在。その場にいた先輩に聞いてみたところトレーニングルームに向かったということなので丁度良いと一刀はすぐに向かった。
(それにしても、さっきの3年生の先輩、ほっぺた大丈夫やろか? 何回も何回もほっぺたつねってたけど……やっぱり3年生はテスト勉強が大変で徹夜ばっかりなんやろか……なんか、その後ろにおった先輩も机につっぷしてうなされてたもんな……『だめえ! だめえええええ! 夜の勉強はまだぁあああああ!』って……夜も勉強めっちゃしてるんやったら俺もがんばらんと)
勘違いと鈍感のサンドイッチ伯爵、厳島一刀はそんなことを考えながら忍がいるというトレーニングルームの扉を開く。東雲を探し、トレーニングルーム内を見回す。
東魔学園のトレーニングルームは、一刀のいた田舎に残っていた廃校の体育館と同じ位の共有フロアを個別の部屋が囲むように作られている。
トレーニングルーム内は、魔素で満たされており魔法の使用が可能だが、共有フロアでは上限を定められており一定以上の威力は出せない。個別ルームは申請をすることで、魔素濃度を高めることが出来るのだが教師の許可が必要となり、優秀な生徒しか個別ルームは使用できないようになっている。
忍はやはり共有フロアにはおらず、個別ルームに入っているようだった。だが、外からはどこにいるか分からず途方に暮れていると声をかけられる。
「おーい!! 厳島君―!!」
一刀が声の主を見ると、見知らぬ小柄な女子生徒がぶんぶんと手を振ってこちらに駆け寄っている。明るい茶のボブカットを揺らしながら走ってくる少女は身長が140いくかいかないか位で目の錯覚により一刀は随分遠くからやってくると勘違いしたほどだった。その少女が勢いよく一刀の前を通り過ぎ慌てて足でブレーキをかけ、一刀を見上げる。
「厳島君っ!! 厳島君だよね!!?」
「あ、はい、いつくしま、です……えと」
大きな栗色の瞳をキラキラと輝かせながら見上げてくるその少女に一刀はたじたじとなってしまうがそんな一刀の様子を気に掛ける様子もなく、少女は一刀の腕をとる。
「うんうんっ!! しのぶを探しに来たんでしょ!!? あっちだよっ!?」
(『しのぶ』って呼ぶってことは、し、東雲先輩と同級生?! み、見えん!)
長く美しい黒髪でスレンダーな大人っぽい忍と比べると、胸以外は雰囲気も含めあまりにも子供っぽいその少女に唖然とする一刀。だが、
(このひと、めっちゃ力強っ! 俺、ほとんど浮いとるんやけど!)
一刀を片手で掴みそのまま走りだした少女のパワーに一刀は目を丸くする。そして、ほとんど浮いた状態で連れていかれたのは一番奥のトレーニングルーム。入り口ディスプレイには入室注意という表示が。
そのディスプレイに向け小柄な少女が生徒カードを当てると、ドアがプシューという音を立てて開く。そして、忍によってであろう冷気が一気に外へと溢れ出してくる。
「今ねー!! しのぶねー!! 新しい【オリジナル】の開発途中なんだ!! 是非厳島君も見てってよ!!」
小柄な少女の言葉を聞き、一刀は喉を鳴らす。圧倒的な氷の魔力がそこにはあった。寒さなのかその魔力量なのか一刀はぶるりと身体を震わす。
白い冷気の奥に彼女はいた。
彼女は魔力によって作られた仮想モンスターと戦っているようだった。それは3メートル近くある巨大なモンスター。それを彼女『たち』は圧倒していた。槍を構えた忍、その周りを沢山の氷像が囲み、見事な連携を見せていた。
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