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第66話 掴みたい男と掴んだ女達・後編

「はあっ……はあっ……いかがですか? 華弐先生っ!」



 倒れまいと必死に足に力を込める玖須美。その周り、いや、トレーニングルームは無数の折れた矢で埋め尽くされている。それと同じ位の数の矢を浮かべた華弐が笑う。



「いいーねー。一瞬だけだったけど、文字通りの輝きを見せつけてくれた感じねー」



 自身の足元に落ちている『ソレ』を拾うと華弐は玖須美の元に向かい、元の位置に戻してあげる。



「いやー、それにしてもちゃんとした【オリジナル】でよかったよ。使うモノによっては色んなことが出来そうだし……最初に『厳島くんの銅像を沢山つくって戦う【オリジナル】』って提案された時はハリネズミにしてやろうかと本気で思ったけどー」


「華弐先生……わたくしも本気で思ってましたわよ……!」


「よーし、ハリネズミ決定ねー。わたしもぶっさすよー」


「ちょちょちょちょおおおおおおおおおおおお!」



 首に手を当て苦しそうな表情を浮かべていた杏理ははっと顔を上げトレーニングルームのドアを見つめる。



「あらあ、どうかしました~?」


「けほ……いえ、なんか……かわいそうな悲鳴が聞こえた気がして……」



 杏理の言葉を聞き、月山は嬉しそうに髪を掻き上げる。



「いいですね~。『兆し』が見えてきましたね。随分とのんびり屋さんでしたけど~」


「先生っ! 一言多くないっ!?」



 月山はいつの間にか取り出した扇で風を返しながら【オリジナル】を発動させる。風が起こす音のせいで杏理には月山が発動させる瞬間をしっかりとは確認できなかったが、風を利用し咄嗟に飛びのき【オリジナル】を発動させようと魔力を込める。



「ほ~ら、やっぱりのんびり屋さんねえ~……そんなだと『むまの耳に風』よ~」



 月山を包み込もうとする黒い強風。月山は手に持っていた札でそれを仰ぐと黒い強風はそよ風に変わり、月山の艶やかな黒髪を揺らす。

 ふわりと微笑む月山。の、後ろに風が吹き抜ける。その風は赤い風。身体中に赤い魔力を纏わせ歯を見せ笑う杏理。訓練用の双剣を両手に持ち月山を狙う。



「もらったぁあああああああああ、あ、けほ!」


「はい、無理しな~い」



 ゆったりとした動きで杏理の双剣を躱すと手首をとってぐるんと杏理を回す。



「い、いやぁ……! かは……!」



 地面に思い切り叩きつけられるとぎゅっと目を閉じる杏理だったが、音もほとんど立たないほどやわらかく転がされ、頬を膨らませる。その杏理のぷく顔を上から覗き込み、着物の袖で口元を隠し乍ら静かに笑う月山。



「ふふふ……かわいらしいこと」


「むぅうううう……月山センセーってほんといじわるだよねっ……ふぎゅう!?」


「アメちゃんあげましょうね~。うふふ、赤城さんはな~んかいじめたくなる空気持っているのよね~」



 起き上がった杏理は口の中で飴玉を転がしながらジト目で月山を見る。



「ふふふ、本当にかわいらしい……最初に【オリジナル】で厳島君の声を再現して元気になる、なんてお花畑発言した時は病院に連れていこうと思ったけれど、真っ当な【オリジナル】になりそうでよかったわ~」


「やれやれ、みんなして自分の欲望に正直すぎるねい、ねい? 神原さん?」



 トレーニングルームのドアがぷしゅうという音と共に開かれ、その先に来迎が立っている。その後ろには名を呼ばれた環奈があたふたと慌てふためいている。



「え? え? いや、別に私は一刀君の守護霊を生みだそうだなんてしてませんでしたけどね!?」


「いや、キミ、もっととんでもないもん作り上げてたじゃな、ふぐう!」



 来迎の口を慌てて塞ぐ環奈。そして、後ろをぎゅんと振り返ると平家や玖須美たちと一緒にこっちにやってくる一刀を見る。今目を白黒させている来迎の声は聞こえていなかった様子で手をじっと見ている一刀に環奈はほおーっと息を吐きバタつく来迎を慌てて放す。



「どう、したの? 厳島君?」



 かなり遠い距離から一瞬で間を詰め声をかけ、一嗅ぎすると再び遠ざかる雪市。一刀はそんな雪市の様子に目もくれず手を見つめ続けている。



「いえ……【オリジナル】を身に着けることは自分でのぞんだことだし、少しだけではありますけど可能性を感じてます。けど……」



 ぎゅっと拳を握り、顔を上げた一刀の瞳は揺れていた。平家はそんな一刀を眼帯のない方の目でじっと見つめる。



「けど、どうした?」


「俺だけが、強くなっていいのかなって……Hチームのみんなは……」



 【オリジナル】を掴み始めて生まれたのは不安だった。強くなりたいと思った。強くなれることにワクワクした。だが、そう思った理由には確実にHチームのみんながいた。彼女達も変わりたいと思っていた。だからこそ、ダンジョンに潜っていた。そんな彼女達に何も言わず、トレーニングに来た事に罪悪感を持ち始めていた。

そんな一刀を見て、月山が笑う。



「ふふふ……厳島くんは本当に女子のことは察しが悪いんですね~」


「へ? つ、つきやませんせい? それってどういうことですか?」



 トレーニングルームからふわりと飛び出てきた月山の香のような匂いに鼻をくすぐられた一刀が目をぱちくりさせる。耳をぴくりと動かした月山が一刀にウィンクをし首を揺らし、向こうを見るようにと促す。


 ぷしゅーという音が聞こえ開かれた隣のトレーニングルーム。そこには……。



「あ…………」



 一刀の瞳に彼女達が映る。



「え? い、厳島君?」


「イ、イットー!?」


「な、なんでぇ~?」


「えーとえーと」


「ウ、ウラちゃん、今こそ出てきて……かわってよぅ……!」



 ボロボロになった彼女達。泥だらけで髪もぼさぼさ。みんなが一刀を見た瞬間、顔を真っ赤にし必死に髪や服装を直そうとするがあまりの疲労のせいか動きが鈍い。



「厳島、女を舐めるなよ? この世界の女は男の心を手に入れるためならいくらでも努力出来るんだ」



 平家がそう言って笑う。視線を動かさず彼女達を見る一刀の耳に平家の言葉はしっかりと届いていた。


 一刀は反省した。


 この数日ずっと反省しっぱなしだった。


 失敗ばかりだった。



 だけど、うれしかった。



 駆け出した一刀はボロボロでかっこよくてかわいい彼女達の元に飛び込み、みんなを抱きしめ、ぎゅっと彼女達の服を強く掴む。


 こんなにも素敵な彼女達と笑う為に。


 一刀は離さないように、離れないようにと強く強く掴んだままだった。

 そして、あまりにも一刀が離さなかった為に、怪我のなかったHチームなのに大量の鼻血で保健室に運ばれる羽目になる。


 一刀はまた反省した。


お読みくださりありがとうございます。

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