第62話 分からない男とわからせる女教師たち・後編
「はいは~い、じゃあ、キミ達の『先生』も揃ったところで自己紹介してもらおうかねい。じゃあ、華弐センセイから」
金髪ポニーテールで大量の矢を操っていた教師が来迎に促され前に出る。そして、碧い瞳で一刀たちを見回すとにこりと笑って両手を振る。
「はーい、3年の物理を担当している華弐フラウでーす。よろしくねー。はーいじゃあ、つーぎ、雪市先生、どーぞ」
ポニーテールが大きくゆらゆら揺れる程身体を左右に動かしきゃっきゃと騒ぐ華弐。そんな華弐に呼ばれ、白銀の狼人間から長い銀髪の長身でスレンダーな女性がびくびくしながら口を開く。
「あ……3年歴史担当、雪市ありす。よろ、しく」
一刀に対しとてつもなく身構えている様子の雪市だったが、一刀は雪市との面識はなく首を傾げる。その首を傾げたことにさえ雪市はびくりと身体を震わせうめき声をあげる。そんな雪市の肩をぽんと叩いたのは黒髪の着物姿の女性。
「雪市先生、がんばりましたね~。さて、わたしは皆さんご存じですよね~。皆さんの国語担当の月山流凪です~。あ、そういえば厳島くん、うちの二宮くんとぼちぼち仲良くしてくれるみたいでありがとうございますね~」
「は、はい」
月山の圧と少し棘のある言葉に一刀はぎこちない動きと返事で応える。授業の時は優しい声と同じく授業内容もやさしい先生だと思っていたが、先ほどの戦闘や口ぶりからしてこちらが素のように見える。
「きゃっきゃ! 月山センセイはハンドル持つと性格変わるみたいに着物着ると冒険者時代を思い出して一気にキョウ女になっちゃうからね~、みんな気をつけなね~。さあて、自己紹介も終わったところで本題に入ろう。何故、彼女達に来てもらったかというと彼女達の【オリジナル】は実に良い見本だからだねい。では、厳島クン! 魔法の四大属性とは?」
着物を着ると人が変わるというのは田舎のばあちゃんにもいたのでほおと納得しながら月山を眺めていた一刀はいきなりの指名に驚きながらも素直に応える。
「は、はい! 火、土、水、風です」
「はい、そのとーりだねい。他の魔法は基本的にはその四大魔法の比率で分類されるのだけど、【オリジナル】も大きく分けて、4つに分類される。まずは、【身体強化】。雪市センセイのオリジナルはこれに属する。先生のオリジナルは【女狼女虎】。己の身体を強化させ、それに合わせて姿形を変える能力だねい。スピード特化の狼タイプとパワー特化の虎タイプに使い分ける」
ね、と来迎に顔を覗き込まれ雪市はびくびくしながらも身体中に魔力を奔らせ再び白銀の狼の変化していく。だが、今回は人の割合が多く、雪市の美しく整った女性らしい顔がよく分かるまま、手足が狼に近いものになっていく。
「えと、ゆきいちせんせーのは変身じゃなくて強化なの?」
雪市の姿を見て質問を投げかける杏理に来迎が大きく頷く。
「そうだねい、まあ変身というのも間違いないっちゃないねい。だけど、変身が先にあるんじゃあなく自分の求める能力を発揮する為にそれに合わせて身体が魔力によって適応するというイメージだねい。身体の中の魔力を使う【身体強化】は動物や獣人に変化するだけでなく、鋼鉄や軟体化、巨大化というのもある。ちなみに火の属性持ちに多いねい」
「あ、じゃあ、あの時の黒騎士もですか?」
一刀は、ダンジョンで出会い、黒剣を落としていった黒騎士のことを思い出していた。だが、来迎はだぼだぼの袖を横に振って違うと告げる。
「あれはねい、どちらかというと【物質創造】だねい。それは、へき……平家センセーの黒壁に近いかねい。土魔法を得意とする人間がよく使うオリジナルで、物を生み出す、創造するのに長けている」
「へー、四大属性で分けられるんだあ」
素直に頷く杏理にいつの間にか迫っていた来迎が肩を組み楽しそうに揺れる。
「そう! 面白いよ~四大属性分類。魔法研究家の遊びでよくやるんだけどねい。例えば、性格診断。火属性の人間、キミ達では、厳島クンや神原チャン。直情型で正義感が強い人が多い、なんてねい」
来迎の言葉に玖須美と杏理は首を深く何度も縦に振る。一刀も自分のことは分からないが、確かに環奈の委員長っぷりは正義感溢れるという感じがして合点がいくと頷く。環奈は「ど、どうかな」と戸惑いの声を上げながら首を傾げ、話題を変えようと来迎に向かって手を挙げる。
「あ、あの! 来迎先生! それじゃあ、土の人はどうなんですか? うちだと九十九里さんがそうだと思うんですが……」
「そうだねい、土は考え方が理論だってる理系が多いイメージだねい。計算高い人間がいる一方、平家センセイみたいな頑固な堅物も……にひゃあ!」
言っている途中で平家が来迎の足元の影から現れ、頬を引っ張る。そして、平家がじろりと睨みつけると来迎は降参とばかりに両手を、だぼだぼのそでを挙げようやく解放される。
「まったく……こういうのは独断と偏見が強い。あまり当てにするな……」
「ちなみに、安産型体型で尻が大きい子が多いねい!」
「雷夏ぁあああああ!」
来迎の反撃に思わず下の名前を叫ぶ平家だったが、来迎は雲に乗ったゴクウにおぶさり一気に一刀の後ろに陣取ってしまう。平家の突き刺すような視線。自分ではなく後ろの来迎に向けてとはいえ、とてつもない迫力にたじろいでしまう。
(それにしても……)
先ほどの来迎の言葉を思い出し、無意識に一刀の視線が平家のぎゅっと鍛えられたお尻に目がいってしまう。タイトなパンツをはいているせいで大きさとボリューム感が強調されている。
「厳島……女性は視線に敏感だぞ……!」
平家の刺すような視線が自分に切り替わり、大地が震えるような恐ろしい低音で話しかけてくる平家に一刀は思わず視線を横に逸らす。と、そこにはくいっと尻を突き出す姿勢の玖須美が。
「一刀さま! わたくし、来迎先生の仰る通り、安産型のいいお尻をしておりますわよ!」
「うん……ところで、来迎先生!」
先ほど平家に睨まれたばかりで非常に応えづらい一刀は環奈と同じく来迎に助け船を求める。
「火は【身体強化】、土は【物質創造】! じゃあ、水と風はどういうものなんですか?」
「うむ! では、水から! ちなみに、九十九里チャンは土寄りの水で、赤城チャンは風よりの水を持っているようだけど、水は華弐センセイのが分かりやすいねい。いわゆる……おっと」
何かに気付き来迎がダボダボ袖で口を隠すと、ひゅんひゅんと矢が飛び回る。
一刀たちの周りを踊るようにくるくると回る矢に、思わず環奈たちはテーマパークに来た時、あるいはイルミネーションを見るかのように目を輝かせる。だが、一刀もそれには納得するほどに矢の動きはとても多種多様でそれでいて揃った動きも美しい。
そんな矢たちがひとしきり飛び交ったあとに向かったのは華弐の元。華弐の後ろに並ぶと、サーカスの団長のようにお辞儀をする華弐。その背中と同じように矢達も身体?を傾けお辞儀のようなものを見せる。
その様子に拍手を贈る一刀たち。そして、それを見て華弐が両手を広げ笑う。
「拍手どーも! 私の【オリジナル】は【ハローアロー】。アローは友達怖くなーい! ってー感じで、矢を操りまーす! で、こーいう矢を操ったり、鎧を固ーくしたりする、自分ではなく他のものを動かしたり変えたりする【変質操作】が得意なのが水だね」
「ちなみに! 水は優しい人だったり、世渡り上手が多いイメージだねい。あ、と、身体が柔らかい子が多いよお、厳島ク……」
「風はなんですか!? センセイ!」
これ以上妄想が働かされてはたまらないと一刀が叫ぶと、来迎はつまらなさそうに口を尖らせる。
「ちえ~、風は自由人が多いけど、意外と家庭的な人間も多いねい。まあ、好きなものをとことん大切にしたり突き詰めるタイプってとこかねい。ワタシが風で分かりやすいねい。ワタシのオリジナル【最遊鬼】は物語に合わせた生物を生み出す。風は、【心象創造】。精霊のような存在を生み出すことに長けている場合が多いねい」
「え? じゃあ、月山せんせーは? なんか、札みたいなの読んでたけど、物質そーぞー?」
杏理の疑問交じりの声に一刀も賛同する。月山は確かに札のようなものを周囲に出現させていた。だが、それを操って戦うというよりもそれを読んで戦っていたように見えた。それが今紹介された4つの中に入っているとは思えない。
「そうだねい。月山センセイのは、どれとも言えないねい。【身体強化】【変質操作】【物質創造】【心象創造】、これがオリジナルの基本と言える4つの形。だけど、オリジナルは自分の心をうつすもの。へきるチャンの言ったように全てが当てはまるわけじゃあない。月山センセイのオリジナルは……」
「【口は禍の元】」
静かで柔らかい声。だが、全てを包み込み押しつぶしてしまいそうな声が一刀たちの耳を襲う。彼女はただ声を発しただけ。なのに、それだけで一刀たちは圧倒される。
「わたしの能力は、言葉を通して様々な効果を発現させるものです~。先ほどは【いろはかるた】の言葉をわたしなりに解釈して魔法に落とし込んだものですね~。……さて、ようけ……たくさんお話してもらったからにはもう理解出来ましたよね~? ここからは貴方達がお話する番ですよ~」
にこにこと月山は笑っている。その笑みの奥でゴゴゴという音が聞こえるのは気のせいだろうかと一刀は両耳をこする。
「ねーえ、なーんで月山先生機嫌悪いの?」
「きょ、今日、推しの朗読配信があるのにコレのせいで聞けなくなっちゃったからとか……」
華弐と雪市の話がほぐした耳に届き、一刀は微笑む。先生だって人間だもの。仕方がないと。
微笑む一刀に笑いかける月山。その顔が一刀には般若に見えた。
「さあ、楽しいお話聞かせてね~? 貴方達の【オリジナル】づくりの為に、貴方達の好きなもの、夢、理想……ちなみに、先生はね~、大好きな声優さんの声を聞くのが好きなの~。みんなはそんな声優さんよりももっとも~っとすてきな声聞かせてね~」
月山の言う声が何故かどうしてか『悲鳴』に聞こえて一刀はにこり……と微笑んで、必死に月山に許してもらえる言葉を探した。
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