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第59話 教えられる男と教える女達・前編

 チッチッチと時計の音だけが鳴り続ける教官室。

 一刀は、己を見つめてくる平家の目をじっと見続けていた。


【オリジナル】について教えて欲しい


 一刀が頼んだのはただこれだけのこと。


 知る方法はいくらでもあった。不慣れとはいえネットで調べればいくらでも出てくる情報だろうし、何より進級すれば学べると言う事は分かっていた。だが、それでも一刀は今、平家と来迎に教えて欲しかった。だから、一刀は目を逸らさない。

自分の意思が伝わるなら何時間でも平家と見つめ合う覚悟だった。


 教官室の壁があまりにも白いせいか、じっと見続けていた平家がどんどんと遠ざかっていくように感じられた。それでも一刀は一瞬たりとも見逃さないと目を剥く。

 平家は眼帯に隠された魔眼で一刀を見ようとはしなかった。魔眼を使えば、一刀の心の内は魔眼から見る魔力を通して伝わっただろう。しかし、平家はそれをしなかった。一刀自身を、その表情を見て決めようとしているのだと一刀は理解していた。


 そして、一刀からすれば数分はたったと感じていた頃、平家がゆっくりと目を閉じかけていた椅子の背もたれに身体をあずける。



「ふぅー…………。……わかった。お前に、教えよう」



 平家の言葉は短くシンプル。だが、それまでの目が、表情が、そして、今の全てが一刀への思いやりが溢れているように一刀には見え、深々と土下座のまま頭を下げる。



「あ、ありがとうございます!」



 そう言って一刀が顔を上げるとそこにはもう平家はおらず、一刀は目を瞬かせる。 


 そして、一刀の背中に先ほどまで感じていた、いや、先ほどまで以上の強者の気配がし、一刀は身体を強張らせる。平家が一瞬で移動していた。彼女の得意な影に潜る魔法だというのは理解していた。だが、今の一刀はそこで終わらない。これが彼女の【オリジナル】なのだと気づく。


 音もなく、一瞬で移動し、相手の背後に回る。と、同時に相手を葬り去れるほどの魔力で何かを生み出している。


 その凄さを一刀はここで漸く理解出来たのだ。誰もが出来る事ではない、その魔法の凄さを。

 一刀の背中から何かを感じ取ったのか平家は嬉しそうに笑う。そして、表情を鋭くさせると教官室のドアに手をかける。



「それで、お前たちは何をしにきたんだ?」



 やば、という小さな聞き覚えのある声と、それに対しえ、え、と戸惑う二人の声が聞こえ平家によってドアが開かれる。



「「きゃあ!」」



 ドアが開いた瞬間、倒れ込むように入ってきたのは環奈と玖須美。そして、その奥でびくりと身体を震わせ、怯えている杏理が見えて、一刀は目を大きく開く。



「さ、三人ともなんで!?」


「なんでって、厳島クン~、そんなん決まってんじゃんねい? 3人『も』でしょ?」



 来迎が悪戯っぽく笑い、一刀の肩をぽんと叩くと環奈たちを見てウィンクを飛ばす。かなりみっともない態勢のままだが、先ほどの一刀と同じような目で三人は来迎を見て頷く。

 彼女達もまた近藤の強さを見て、そして、一刀の悔しさを感じて強くなろうとしていた。

 それに対して嬉しそうに笑う来迎が今度は平家の肩に肘を置きウィンクを飛ばすと、平家は手で振り払うしぐさをし、眼帯周りをカリカリと掻く。そして、大きな溜息を一つつくと一刀たちを見回し、口を開いた。



「放課後、トレーニングルームに来い。そこで教えてやろう」




 そして、数時間後。授業を終え、並んで言葉を待つ一刀たちの前を歩きながら、平家が口を開く。



「まず、固有魔法とオリジナルの違いだが、神崎。分かるな?」


「は、はい! 固有魔法とは、四大属性と呼ばれる火、水、土、風。そして、それ以外の12の魔法属性の中で最も特化した魔法のことを言います」



 環奈が優等生らしい簡潔で分かりやすい解答をすると、杏理と一刀は小さく拍手をし、玖須美と平家は何度か頷く。



「その通りだ。身体や精神が成長していくにつれて魔法に個人差が生まれてくる。その中で最も高い数値を持つ魔法。付け加えれば、その魔法に対してどう扱うのが得意なのかも含まれる場合がある。九十九里の【金属操作】のように、金属魔法の中でも操作に優れている、と判断され、それが固有魔法となる。まあ、男はこの特徴が現れるのが微弱すぎて判断に困るというのが現状だ。つまり、固有魔法とは『周りに決められた数値の高い魔法』ということだ」



 平家の言い方に違和感を覚えた一刀は、ハッと顔を上げ平家を見る。平家がにやりと笑い、足元を指さす。一刀たちが平家の足元、そこにある影を見た瞬間、どどおっという轟音と共に黒い影が大きく膨れ上がりあっという間に一刀たちと平家を包み込む。

 そして、黒い正方形の中に閉じ込められてしまう。



影箱ブラックボックス



 平家がそう告げると、とんでもない魔力の圧が一刀たちにかけられる。そして、一刀は気づいていた。その黒い壁から無数の武器が生まれようとしていることを。その武器が一瞬で自分たちの命を奪える圧倒的力であることを。

 身体を震わせ崩れ落ちる環奈達を支えながら一刀は平家を見上げる。


 黒い箱の中で己の強さを持つ強者はわらっていた。



「【オリジナル】とは、『自分で決めた』自分で作り出す自分の魔法。それが出来ればお前たちはもっと強くなれる」


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