ギルドマスターに説教〜胃痛を添えて〜
「と言うわけで、聞かせてもらおうか?ジンくん?」
今、俺の目の前には青筋を立てたキナさん、もといギルドマスターが立っている。
その気配は凄まじいもので、逃げ道ひとつ許さないという気概を感じる。
あ、これどうしようにもないわぁ。
「本っ、当にすいませんでしたぁ!」
俺は一種の諦めを悟り、素直にギルドマスターの前に土下座をする。
「謝るのはいいよ、それよりなんでこういうことが起きたのか事情を聞かせて欲しいのだが」
「は、はい!実はかくかくしかじかということがあってですね」
俺は今回の事の発端を事細かにギルドマスターに弁明した。
そして、それを聞いたギルドマスターは頭を抱える。
「はあ、なるほど。うちのバカがやらかしたのも原因の一つだったと」
「あ、まあそうですね」
そういえば、彼女はNPCだよな。普通に会話できるし、感情も見え隠れしている。
本当に最近のAI技術は進歩したものだ。昔は感情を持たせることは不可能に近いと言われていたのに、それをさも当然のように使っているのだから。
「うーん。責任の大半は君にありそうなのだが、全責任を君に押し付けるのは話が違いそうだな」
「そうなんですか?」
「うむ、確かに君が使ったスキルによって街が混乱に陥ったのは事実だ。だが、そのスキルを使わせたのが別人となると話が変わってくる」
「確かに不可抗力といえば不可抗力ではありましたからね」
それを聞いた彼女はまた頭を抱える。
「最初は君のことを退会処分にしようと考えていたのだが、これなら一度様子を見てみるか。代わりにバカをやらかしたコボル、他数名を退会処分にする」
「いいんですか!?ありがとうございます!」
「あぁ、とはいえ今度問題を起こしたら一発で君の冒険者としての人生はクビだからな。そこは気をつけておいてくれ」
と、そういう感じで話はまとまった。
具体的には、3ヶ月ほど様子を見て、そこで問題がなければ一度警戒を解除。そこで問題があれば即退会。ということらしい。
現実でいう、執行猶予というやつだ。
あんな化け物の姿になって街中を走り回ったのに、これだけで済むなんて実はこのゲームちょろいか?
「とはいえ、君には冒険者ギルドの前で住民たちに謝ってもらうからな」
そんなことを思っていると、ギルドマスターが冷え切った声で俺に言い放つ。
「え」
「当然だろう?一体どれだけの人間が君のせいで恐怖を感じたと思っているのだ?」
「あ、はい。わかりました」
有無を言わさない雰囲気に俺はそれに頷くことしかできなかった。
精々数十人くらいだと思っていたのだが、想定よりも多くの人数がSAN値チェックを受けたみたいだ。
俺がハウスセンチビートルを見た時はそこまでキモいと思わなかったのだがな。
戦闘をしていない一般市民に見せるにはあまりにも刺激が強すぎたか。それに加えて虫が苦手な人が普通に卒倒したみたいなこともあるのだろう。
はあ、憂鬱だ。
くそう、コボルめ。もとはといえばお前のせいだからな。俺はお前を絶対に許さないぞ。
そんな決意を込めて、俺はギルドマスターに冒険者ギルドの前に連れて行かれる。
そしてその日、冒険者ギルドから小1時間ほど謝罪の声が響き渡っていたのは言うまでもないだろう。
王族でさえ面白半分で見に来たという噂もあったとか。
◇◇◇◇◇
「最近イベントごとが少なくなって平和だ」
田中はこの後、大量の仕事がジンによって運ばれてくるなど露知らず、そう独りごちていた。
「た、田中さん!」
そんな平和な時も束の間、相も変わらず焦った顔の伊藤がノックもせずに部長室に入ってくる。
あまりにもデジャヴ。もう何度見たことだろうか。
「はあ、今度はなんだ?」
「バグの報告と、クレームです。それもあまりにも量が多すぎてクレーム対応が追いついてなくて」
「な、なに!?」
「内容は『街に巨大なゲジゲジが出てきた。安全と言っているはずなのになぜ、こんなことが起きたんだ』と言うのが大半です」
「は?」
「あ、あと、『巨大なモンスターが出てきたから、イベントかと思ったらただのプレイヤーだった。イベントもっと用意しとけやゴラァ!』みたいなのも来てます」
「・・・もっと言葉濁せなかったのか?」
伊藤の放つ言葉の節々に不満が溢れているのだが。
「で、どういうことだ?そもそも巨大なゲジとはなんなんだ?」
「いつもの問題児ジンです。今回は監視役も止めることが間に合わなかったようで」
「またお前かぁ!」
田中はそれを聞いた途端頭を抱え、発狂する。
「あ、あとバグなんですけど街の一部の地点でなぜか戦闘が可能になっているようです」
「はぁ?」
「事実、今回の問題もそれが起点となっています」
「マジかよ・・・」
「一応、バグに関しては今日の夜緊急アップデートで治す予定になっています。問題はジンの方です」
「お、おう。迅速な対応ありがたい」
田中は胃薬を飲みながら、素直に感謝を告げる。
「彼も確かにバグを使用していたのですが、悪意があったようにも気づいていたようにも思えません。そのため、悪質なプレイヤーとは断定できないんですよね」
「あぁ、それは仕方ないだろ。別にあいつは真面目にゲームやってるだけだもんな。確かにBANできたらどれだけ嬉しいかとは思うが」
「あれはこのゲームの癌細胞ですからね」
「全くだ」
田中は、若干の冷静さを取り戻す。
前回のような醜態を晒してはならないと、自制心を強めているのだ。
とはいえ、内心ジンに対する怒りが煮えたぎっているのだが。
「そして、今回の対応としては虫恐怖症モードを入れてみたらどうかと言う意見が何通か来ていますが、それでいいですか?」
「ほう?なるほどな。俺は別にそれでいいが、作業量はどうなんだ?」
「なに言ってるんですか。徹夜コースですよ」
「お、おう。俺も手伝うから、頑張るぞ」
運営チームはここ最近、毎日徹夜している。
伊藤は日に日に頭痛と脱毛が増えてきていて、田中も興奮すると胃に激痛が走るようになってしまった。
どれもこれも、ジンのせいである。
全く、彼は運営をどれだけ困らせたら気が済むのだろうか。




