その日、街に百足が現れた日
あれ?これ解除できなくね?
【百足蛇腹】の効果でハウスセンチビートルに変身したところまでは良かったのだが、解除方法が分からない。
効果には、体力がなくなったら解除されると書いてあるのだが、それ以外の解除方法が書いていない。
今確認してわかったのだが、ステータスが変化するというのは、スキルも同様らしい。
つまり、俺の豊富な自傷ダメージ系のスキルも使えないということだ。
え?本当にこれ自分の意思で変えられないのか?
俺は必死にステータスボードを確認するが、そんなボタンは一切見つからない。
「ギ、ギジャア?」
俺は思わず困惑の声を漏らす。
そ、そんな馬鹿な。
誰かに倒してもらうかなんとか自滅しないと解除できないトンデモ地雷スキルだったのか。
くそう、あの研究者どもめ。なんでこんな欠陥品渡してきたんだ。
今度会った時は覚えていろよ。
そういえば、なんでここは戦えるんだ?街中は基本的にセーフティゾーンじゃないのか?
俺は周囲を確認するも、そこはよくある裏通りといった感じで特に特殊な部分はない。
まあいいか。それよりも今はこの状態を解除するのが最優先だ。
とりあえずセーフティゾーンに戻ってみるか?もしかしたらこういうスキルって戦闘中のみ発動の可能性あるもんな。
「ギジャギジャ」
俺はそんな不協和音を撒き散らしながらセーフティゾーンに向けて移動し始める。
だが、俺は重要なことを忘れていた。
「きゃあああ!化け物ぉ!」
そう、戦闘が終わったからといって人がいなくなったわけではない。
そんな一般人が俺を見たらどう思うか。
当然、化け物だと思って恐怖し、逃げ惑う。
「誰か、助けて!」
俺が裏通りを進んでいると、1人の女性と出会ってしまった。
まあ遅かれ早かれそうなっていたのはあるが、ここで化け物認定されて討伐対象になるが一番まずい。
それにしてもセーフティゾーンで人間の姿ではない俺と戦うことはできるのだろうか。
俺的にはできない方がありがたいのだが、種族が人型ではない場合その加護がないというのは全然有り得る。
これで倒されて人型に戻って異端者みたいになるのが一番最悪なパターンだ。
「な、なんだ!何が起きた!」
「急に裏通りから化け物が現れたんです」
女性の叫び声を聞いて駆けつけてきた衛兵に、女性はこっちに指をさしながら、震え声でそう言う。
「ギ、ギジャア?」
「ひっ」
僕、悪い百足じゃないよ?みたいなことを言おうとするも、それは百足語に変換される。
まずい。
「ギジャア!」
とりあえずオープンワールドに向かおう。
そうすればフィールドの魔物に倒してもらえる。
俺は何足もある足を器用に使って素早く衛兵の横を通り抜ける。
「な、なに!?」
「きゃあぁぁ!」
チラリと横を見ると、俺の足が波打つように蠢いていた。
うわ、きも。
これは虫嫌いの人とか集合体恐怖症の人とかは気絶するし、虫嫌いじゃなくてもきもいって思う見た目だな。
なんかこれで街中を走り回るのが申し訳なくなってきたな。
一体今日だけで何人の人が虫恐怖症を発症するのだろうか。
まあ、それは再三言うが運営が虫恐怖症対策モードを追加してないのが悪いってことで。
「ぎゃああ!」
「化け物!?」
「なんでこんなところにハウスセンチビートルがいるんだよ!?」
俺が裏通りから抜けて大通りに抜けた途端、平和に暮らしていたNPCやプレイヤーの生活が崩壊し、阿鼻叫喚になる。
ある人は化け物が現れたことに発狂し、ある人はただ驚愕してカメラを構える。さらにある人は戦闘の癖が出て武器を構える。
「なんでこいつ攻撃が効かないんだよ!?」
「おい、俺の魔法も効かないんだが?」
幾人かのプレイヤーが俺に攻撃を放つが、セーフティゾーンであるため俺に対するダメージは入らない。
あぁ、やっぱりプレイヤー同士のダメージは無くなるのか。
これは運ゲーだったのだが、システムが俺のことをプレイヤーと認識してくれた。
これなら想定通りにことが進む。
俺は数多の魔法や弓矢を体に受けながら外のフィールドを目指す。
「うおおお!逃すな!」
「こんな化け物が街中にいるなんて!逃すな!」
が、その後ろを攻撃的なプレイヤーがついてきている。
このまま行くと俺がセーフティゾーンを抜けた途端、このプレイヤーたちに攻撃される。
それはまずい。
街中じゃなくても、このハウスセンチビートルが俺であることがばれるとかなりまずい。
道中何人も俺を見て発狂していたのを見るに、俺を見ることによって精神的になんらかの被害を与えたのは間違い無いだろうし。
あれ?俺を見るだけでSAN値チェックが入るってことか?
俺いつの間にそんな化け物になってしまったんだ?
なんか雪山攻略してから若干歯車が壊れてきた気がするな。
とはいえ、俺の後ろにいるプレイヤーをどうにかしないと話にならない。
が、彼らが俺にダメージを喰らわせられないのと同様、俺も彼らにダメージを与えることができない。
だが、立ち止まったら囲まれるのでセーフティゾーンに残るのも選択肢にない。
え、詰んだ?




